両立支援

人事制度のひずみが治療と仕事の両立を難しくしている(インタビュー:産業医科大学 永田昌子氏)

企業事例キャリア

2025年01月09日 転載元:リクルートマネジメントソリューションズ

人事制度のひずみが治療と仕事の両立を難しくしている(インタビュー:産業医科大学 永田昌子氏)

産業医・産業保健専門職を養成する産業医科大学は、厚生労働省が2018年度の診療報酬改定で「療養・就労両立支援指導料」を創設した際、いち早く大学病院に両立支援科を設置した。その診療科長であり、両立支援科学を研究する永田昌子氏に両立支援の現状や課題について伺った。


目次
  • 両立支援科学の研究と、現場での両立支援の両面から
  • がん治療前の「びっくり退職」で後悔する人を減らすことが肝要
  • 多くの日本企業が何らかの人事制度のひずみを抱えている
  • 上司は両立する社員に寄り添う姿勢を示してほしい
  • 両立者は多様な相談相手を作った方がいい

両立支援科学の研究と、現場での両立支援の両面から

私たち産業医科大学は、厚生労働省が2018年度に「療養・就労両立支援指導料」を創設するとほぼ同時に、大学病院に両立支援科を設置しました。2020年には医学部で両立支援科学の講座を始め、2023年には両立支援室を立ち上げました。これらの背景には国の後押しもありましたが、それ以上に産業医科大学自体が、産業医・産業保健専門職を養成し、産業医学を振興する機関として、率先して両立支援に力を入れる責務があると考え、主体的に一歩を踏み出した経緯があります。

私はこうした環境のなか、大学で両立支援科学を研究すると共に、大学病院の現場で両立支援の診療にも当たっています。


がん治療前の「びっくり退職」で後悔する人を減らすことが肝要

日本社会の治療と仕事の両立の現状から説明します。内閣府が2023年に行った「がん対策に関する世論調査」には、「がんの治療や検査のために2週間に一度程度病院に通う必要がある場合、現在の日本の社会は、働き続けられる環境だと思うか」という質問項目がありました。結果は、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の合計が45.4%、「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」の合計が53.5%でした。つまり、半数近くが、日本社会には治療と仕事を両立できる環境があると感じているわけです。しかし、半数以上は治療しながら働くのが難しいと思っているのですから、両立支援はやはり必要です。

私が特に問題視しているのが、がんと診断された人が治療前に退職してしまう「びっくり退職」です。国立がん研究センターの「令和5年度患者体験調査」によれば、がんと診断されて退職・廃業した人たちのうち、55.8%が診断後、初回治療までに退職・廃業していました。

これが問題なのは、主に経済的な理由で、退職を後悔する人たちが多いことです。がん治療に高額な費用がかかるケースが多いことを踏まえると、びっくり退職後に後悔する人を減らすことが肝要です。60代以降で経済的に困っておらず、「がんになってまで働くつもりはない」という人たちの退職を無理に止める必要はないかもしれません。しかし、比較的若い人たちががんになったときは、退職前に後悔しないか、経済的に大丈夫かを冷静に考える機会を設けることが大切です。

初回治療前に、働けないほどの症状が出ることは多くありません。治療の副作用なども起きていません。それにもかかわらず退職してしまう大きな要因の1つは、「現在の職場では治療と仕事の両立が難しい」と感じているからだと思われます。この仮説を踏まえて、私は治療と仕事を両立しやすい職場を増やし、両立を当たり前にすることが、びっくり退職の減少につながると考えています。

私はこうした環境のなか、大学で両立支援科学を研究すると共に、大学病院の現場で両立支援の診療にも当たっています。

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