全国平均を上回る男性育休の取得期間を実現した株式会社MIXI。その秘訣とは…?【後編】
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2024年11月08日
日本における男性の育児休業の取得率は年々上昇しており、2023年度は30.1%と過去最高の実績になりました。一方で、取得期間に関しては1カ月前後に集中。数日~2週間程度というケースもまだまだ多いのが現状です。そんな中で、平均取得期間が約4カ月という実績を誇る会社が、デジタルエンターテインメントやライフスタイル、スポーツの領域で事業を展開する株式会社MIXI(ミクシィ)。なぜ同社では、長期間の男性育休が実現しやすいのでしょうか。
その秘訣を探るべく、『iction!』ではMIXIの皆さんにインタビュー。人事担当者が登場した前編に続き、後編では実際に育休を取得した佐野 修平さん・松木 謙介さんと、松木さんの当時の上司である數藤(すどう) 智幸さんに育休にまつわるエピソードを伺いながら、実現のヒントを探りました。
※この記事の内容は、リリース当時(2024年11月現在)のものです。
MIXIでは社員が数カ月休むのは特別なことではなく、男性が育休を取るのも自然な選択
右から育休を取得した経理財務部 佐野 修平さん、ライブエクスペリエンス事業本部 松木 謙介さん、松木さんの育休取得当時の上司ライブエクスペリエンス事業本部 數藤 智幸さん
― まずはお二人が育休を取った当時の仕事・家庭の状況、育休取得の時期と理由を教えてください。
佐野さん: 私は当時も今も経理の仕事をしています。育休は2023年の4月から2カ月間、第2子の誕生に合わせて取りました。実は、第1子のときは育休を取っておらず、その理由は親のサポートを受けられる予定だったから。ところが第1子が生まれた2020年の5月は、コロナ禍で社会全体が自粛していた時期。感染防止のため夫婦だけで乗り切らざるを得なくなり、率直に言って大変だったんです。そんな苦い経験をしたので、今回は上の子もいるし、子どもが生まれてしばらくは自分も育児に専念しようと決めました。
松木さん: 私は、ライブエクスペリエンス事業本部というところで、MIXI GROUPのスポーツチームであるプロサッカークラブ「FC東京」やプロバスケットボールチーム「千葉ジェッツ」に関連するアプリ開発を担当しています。今回が第1子で、育休を取得したのは2024年の4月から3カ月間。子どもが生まれたのは前年の10月なのですが、出産予定日から約3カ月も早く生まれたため、子どもはずっと入院していたんです。ようやく退院というタイミングで私も妻と一緒に育児に専念しようと育休に入りました。
― 佐野さんは2カ月、松木さんは3カ月の育休で、日本の男性育休の現状と比較すれば長い方です。この期間にしたのはなぜですか。
松木さん: 私の場合は、子どもが10月に生まれている都合上、ちょうどこの頃に出産後から妻に支給されていた育児休業給付金※1がガクッと減るタイミングだったため、家計を考えて3カ月で切り上げた方が良いと判断したのが理由の一つです。その点がなければもう少し長く取っても良かったですし、会社から3カ月以内と言われたわけでもありません。 また、6月に親が住む場所の近くに引っ越したため、サポートが得やすくなったのも復職に踏み切れた理由の一つです。
※1 育児休業給付金など育休にまつわるお金について詳しくはこちら
佐野さん: 一番は産後の妻の体調を考慮すると少なくともこのくらいの期間は欲しいなと考えたからです。第1子のときは、妻の産後の体調について自分のサポートが全然足りていなかった。当時、仕事はリモートワークで私も家にはいたのですが、働いている日中は私がほとんど戦力になれず、妻にはかなりつらい思いをさせました。なので、妻には私が育休を取る2カ月の間は体調回復に専念してもらいたかったんです。ただ、育休取得を検討し始めた頃から、この期間が特別長いという感覚はなかったです。社内では、数カ月の育休を取っている男性社員の話はよく聞こえてきましたし、上司に相談したときも特別驚かれた印象もなかったです。
― MIXIでは、「リザーブ休暇」「ケア休暇」といった自社の休暇制度を育休と組み合わせて休む人もいると聞きました。お二人はどうですか。
佐野さん:私の場合は、出産予定日前の数日に「ケア休暇」を使いました。育休と組み合わせることで、安心して第2子を迎えることができたと思います。
松木さん: 自分は、出産後の2週間に「ケア休暇」を使えたのが非常にありがたかったです。というのも、私は当時MIXIに入社1年未満で、育休の対象外※2でした。でも「ケア休暇」があったおかげで、妻と子どもが非常に心配だった時期に安心して休むことができました。実質的には、産後2週間と子どもが退院後の3カ月間と、2回育休を取ったようなものですね。
※2 労使協定による
数カ月間の育休でキャリアを断絶させないために、育休後のキャリアも併せて上司と相談し、育休の取得時期や期間を決める
― ここからは、松木さんの当時の上司だった數藤さんも交え、仕事を休むための準備をどう進めたのかを教えてください。松木さんの育休を、上司・メンバー間でどう調整していったのでしょうか。
數藤さん:基本的には松木さんの意向に合わせて準備を進めていますが、そもそもここ数年で男性社員に子どもが生まれる際の会話が「育休を取ることが前提」へと一気に変わった印象があります。松木さんの場合も子どもが生まれること自体は定期的な1on1の場でカジュアルに聞いていたので、自然な会話の流れで「育休は取りますか?」と確認をしていきました。育休の時期については、この春にちょうど松木さんの担当サービスが変わり、組織を異動する節目のタイミングだったんです。だから、休みに入る時期に大きな懸念があったわけではありません。松木さんと主に話し合ったのは、「いつもどってくるか(どれくらい休むか)」ですね。
松木さん:異動先のマネージャー(現上司)も交えてシミュレーションをしたんです。「〇月に復帰すると、その時期にアプリの開発はここまで進んでいるから、こんな仕事が発生する」といった具合。プロジェクト全体のスケジュールを俯瞰(ふかん)して眺めてみたところ、自分がやってみたい仕事のチャンスを逃さないという意味でも3カ月で戻ってくるのが妥当だなと判断したんです。
― 佐野さんの場合はいかがですか。経理は一般的に4月が繁忙期と聞きますが、仕事に支障はなかったのでしょうか。
佐野さん:確かに当社は3月決算なので、4~5月は忙しい時期です。でも、上司に相談をした際も時期についても受け入れてもらえました。部をはじめ、関わっていただいた皆さんには心から感謝しています。相談して調整したのは、松木さん同様に「どれくらい休むか」。育児も頑張りたいけれど、仕事やキャリアも大切にしたいので、チャンスは逃したくなかったんです。上司との面談時には「1カ月で戻ってくるとどうなる?」「3カ月では?6カ月では?」と復帰時に想定される仕事について話をしました。その上で、自分の今後のキャリアと、家事・育児にどれくらい専念するべきかのバランスを見て、育休期間を2カ月にしたんです。
― 數藤さんは上司の立場から育休取得に関して何かアドバイスをされましたか。
數藤さん:私も小学生の子どもがいるので、父親としての経験から話をしたことはあります。男性の育休が女性の育休と異なるところは、「いつ取るか」の自由度が高いこと。育休といえば出産直後をイメージする人が多いですが、里帰り出産をしていたり親が手伝いに来ていたりと、家庭の状況によっては案外手厚いんですよね。それが落ち着いた1~2カ月後の方が夫婦二人で乗り切らねばならず大変なこともあるので、取得時期は柔軟に考えた方が良いよとアドバイスしました。実際、松木さんの場合は想定外に早い出産になりましたし、何が起こるのが分からないのが出産・育児ですから。また、長期で育休を取るとなれば、自分のキャリアや復職後の仕事について不安になるのも当然。そこで、「戻ってきたらこういう役割をお願いするね」と育休取得者へ仕事の期待も伝えるようにしています。
― 育休中の過ごし方についても教えてください。数カ月の育休中、夫婦での役割分担など、どのように家事・育児に携わっていたのでしょうか。
松木さん: 家事・育児の内容で妻と役割分担をするというよりも、昼と夜で妻と交代しながら過ごしていました。授乳の観点から夜に子どもを見るのは妻にお願いして、自分は昼間の担当。日中は妻にゆっくりしてもらい、子どもが寝ているタイミングを見計らって家事を片付ける…といった生活でした。育休中の家事・育児のバランスは、自分と妻で6:4くらい。子どもが生まれる前から家事は二人でやってきたので、育児以外のことは普段とあまり変わっていないです。
佐野さん:わが家の場合は上の子がいるので、保育園の支度や送り迎えを私が引き受けました。家の中のことも、この期間はなるべく自分がやっていました。私は料理が得意じゃなくてたいしたことはできないんですけど、妻には無理をしてほしくないと思っていましたので、上の子の食事や夫婦の食事は、苦手ながらも私が作っていました。
― 復職後の現在はどのように仕事と家事・育児に携わっていますか。
松木さん:わが家の場合は妻がまだ育休中なので、家事・育児の比重は妻の方に少し寄ってしまっていますね。ただ、リモートワークで在宅勤務をしている日も多く、通勤時間を家事・育児に充てることができるので、すごく助かっています。
佐野さん:わが家は妻も復職しているので、お互いの仕事の状況に応じて家事・育児を分担しています。妻は時々出張のある仕事をしていることもあり、「今日はママがお仕事を頑張っているから3人の日だね」なんて言いながら、私の作った食事を子どもたちと食べる日もあります。それは、育休も経て子どもたちのことを最低限はできるようになったから実現できたこと。妻も安心して任せてくれていると思います。こんなふうに夫婦で協力して育児と家庭を両立できることに、家族にも会社にも感謝しています。
男性育休が当たり前の風土の醸成には、育休で空いた穴を埋めてくれた周囲のメンバーへのフォローと適切な評価が欠かせない
― 育休に送り出した側の數藤さんに聞きたいのですが、メンバーが数カ月仕事を離れても、組織は大丈夫なのですか。
數藤さん:1年近い育休であればさすがに代替要員を考えるのですが、2~3カ月程度なら既存のメンバーで協力しながら対応しているのが実態ですね。また男性の育休は、病気や介護などの休業に比べて開始と終了の時期が当初の予定と大きくずれることはあまりなく、不在中の計画を立てやすいと感じています。
工夫しているのは、休む人がやった方がいい(早い・質が高い)仕事は、可能なら後回しにすること。松木さんでいえば、スポーツに関する知見が豊富なので、彼が担当した方がいい仕事はプロジェクト全体のスケジュールを調整して、後ろにずらしてもらいました。サービスのリリース自体を遅らせるような判断はさすがにありませんが、得意な人に得意なことをやってもらうという発想で全体のスケジュールやタスクを調整し、残ったメンバーの負荷が高くなり過ぎないようにしています。
また、同僚の不在を埋めてくれた分は「組織貢献」をしてくれたという趣旨で個人評価に反映することや、評価のフィードバック時にちゃんと伝えることを意識しています。MIXIでは男性の育休が珍しくなくなっていますし、企業のカルチャーとして皆評価に関係なく自然と頑張ってくれますけど、個人の努力が“やり損”にならない状態を、マネージャーとしては意識しています。
― 佐野さんは育休から復帰した現在はマネージャーを務めているそうですね。今後メンバーから育休を相談されることもあると思いますが、自身の育休経験を踏まえてどう対応したいですか。
佐野さん:育休を取る時に、私個人の意思を尊重してくれたのがうれしかったので、私もメンバーぞれぞれの意思や事情を含めて、おめでたい話を受け止められたらと思っています。また、そもそも出産・育児だけに限らずさまざまな事情や希望を持つメンバーがいて当然ですから、育休だけを特別視せずフラットに全てのメンバーに寄り添えるマネージャーでありたいです。
― お二人のように男性が数カ月単位で育休を取得できる社会を実現するために大切なことはなんだと思いますか。
松木さん: MIXIで働く私たちが実現できているのは、制度面の柔軟さもありますが、一番大きいのは周囲の理解。育休を当たり前に応援してくれることもそうですし、代わりに業務を担当してくれるメンバーが正当に評価される状態じゃないと、どこかに無理が生じてしまうと思います。ただ迷惑をかけるだけの状態だと、子どもが生まれる側も遠慮して休みにくいし、戻っても自分の居場所がなさそう…。当事者のサポートだけじゃなく、一緒に働いている人も含めて健全な仕組みを作っていく必要があると思います。
佐野さん:今は社会全体で男性育休を強力に推進しようとしている時期ですが、理想は全員が育休を取る状態というよりも、取る・取らないを含め本人とその家族が選択できる状態だと思うんです。だからこそ、個人の希望をちゃんと上司や会社に伝えられる仕組みや風土を作っていくことが大事なのではないでしょうか。
取材を終えて:「誰もが働きやすいワークスタイル」が実現できれば、おのずと男性の育休取得も進む
左から 佐野さんご家族、松木さんご家族
前編の人事担当者への取材で、MIXIでは、社員誰もが柔軟に働ける・休める仕組みの導入によって、男性が数カ月間の育休を取得するのが当たり前の風土を実現できたと聞きましたが、今回の社員の皆さんへのインタビューを通じそれを実感することができました。さらに育休からの復職後も、フルリモートワークやフレックス制といった柔軟な働き方が、仕事と家事・育児の両立をサポートしている様子も伝わってきました。
また、MIXIでは育休取得者に寄り添ったサポート体制も印象的でした。特に数カ月間の育休取得は、給与やキャリアへの影響を不安材料にあげる人も多いですが、取得に際し、人事や上司が取得者に寄り添うことで、納得のいく育休を取得できています。また、職場全体で育休取得者をサポートする意識も高く、それが復帰後の不安を軽減しモチベーション維持にもつながっていることも分かりました。
育休を取得することが特別ではなく、また育休だけが休暇として特別ではない。
MIXIが取り組むさまざまなライフステージにいる社員がそれぞれのワーク・ライフ・バランスを大切にしながら活躍できる環境づくりは、男性育休はもちろん、DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)などの多様な人材の活躍や社員のウェルビーイング向上に取り組む企業の皆さんにも参考になる事例なのではないでしょうか。