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【アイスランド・フィンランド・ノルウェー】男女格差の解消が進む北欧の取り組みとは ~ジェンダー平等先進国に学ぶ~

【アイスランド・フィンランド・ノルウェー】男女格差の解消が進む北欧の取り組みとは ~ジェンダー平等先進国に学ぶ~

2022年7月に世界経済フォーラムが公表した「The Global Gender Gap Report 2022(世界男女格差報告書)」において発表されたジェンダー・ギャップ指数ランキングにおいて、日本は146カ国中116位と先進国中最下位。もちろん、改善に向けたさまざまな取り組みは進んでいるものの、ジェンダー平等先進国への歩みは始まったばかりです。

一方で、北欧諸国といえば、同ランキングの上位国としてまさに世界のジェンダー平等の先頭を走っている印象です。とはいえ、北欧とひとくくりで語られることも多いせいか、それぞれの国の特徴や実態についてあまり理解できていないのではないでしょうか。ここではジェンダー平等優等生である北欧諸国の中でもアイスランド・フィンランド・ノルウェーにスポットをあて、それぞれの国のジェンダー平等への取り組みや働く意識など、各国の違いや共通点を踏まえて北欧の今を伝えていきます。

今回コラムを寄稿していただいたのは、ノルウェー在住でジャーナリスト・写真家として活躍する鐙 麻樹さん。現地で長く働き続けているからこその実感に加え、北欧のジェンダー平等学を専攻した鐙さんの視点から北欧諸国のジェンダー平等について執筆いただきました。北欧と日本では目指す社会の形や価値観の違いはありますが、日本がジェンダー平等社会を実現していくために、彼らの取り組みから私たち一人ひとりが参考にできるポイントが見つかるはずです。


鐙 麻樹

鐙 麻樹さん(Asaki Abumi)

北欧ジャーナリスト。写真家。ノルウェー国際報道協会理事会役員。オスロに在住し、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、スウェーデン、アイスランドに関する情報発信を行う。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了。専門はメディア、ジェンダー平等学など。著書に『北欧の幸せな社会のつくり方 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち:北欧・ジェンダー平等社会のつくり方』(かもがわ出版)

フィンランド発「女性だらけのマリン政権」が世界に与えたインパクト

2019年、34歳のサンナ・マリンが世界最年少で首相になったフィンランドでのニュースは世界中を駆け巡った。日本でも大きな話題になったので、覚えている人も多いだろう。若き女性首相というだけではない。マリン政権で連立する5党の党首は全て女性、首相を含む4人は当時35歳以下。女性リーダーたちの集合写真は世界に大きなカルチャーショックを与えた。

マリン首相2023年4月の国政選挙の投票前日に首都ヘルシンキの公園で市民に演説したマリン首相 筆者撮影

マリン政権は、2023年4月に行われた国政選挙により政権交代し、今後は男性首相が率いる政権が発足予定ではあるものの、若い女性たちがリーダーシップを取ることは可能なのだと実証したマリン政権の功績は大きい。日本でも「どうしたら可能なのか」と気になった人は多かっただろう。政治の世界で女性リーダーを増やすためには、まず地方議会や国会で女性議員が与野党のどちらにも増える必要がある。そのためにはジバン(地盤)、カンバン(看板)、カバン(鞄)の「三バン」がなくても立候補できる環境づくりなどできることはいくつもある。

もちろん、北欧諸国にも議会の大多数が男性だった時代がある。こうした政治や社会におけるジェンダーギャップをどのように解消してきたのか。北欧の中でも、アイスランド(ジェンダー・ギャップ指数2022 1位)・フィンランド(同2位)・ノルウェー(同3位)の3カ国から、そのヒントを探ってみたい。



アイスランド:「企業や時間任せでは何も変わらない」男女の賃金格差を法律で禁止に

カトリーン・ヤコブスドッティル首相アイスランドのカトリーン・ヤコブスドッティル首相。2021年の国政選挙の取材で筆者撮影

ジェンダー・ギャップ指数2022のランキングで1位となったアイスランド。この国の事例で紹介したいのが「平等賃金証明法」(Equal Pay Certification)だ。2018年に施行されたこの法律により、公的機関・民間にかかわらず、同じ労働をする男女には同一の賃金を支払うことが義務付けられ、その対象は大企業から中小企業にまで拡大されてきた。

同じ労働をしている男女に同じ賃金を支払っているかを企業が監査する上で課題となった一つが「肩書」だ。世の中にある多様な肩書。同じ内容の労働でも、肩書が異なることで、結果として給与に差が出ることもある。この肩書に惑わされずに、企業は頭の中を白紙に戻し、時には第三者機関を入れてその仕事に必要とされている「専門性」「パフォーマンス」「責任」を社員が果たしているかを評価する。すると、肩書に惑わされた結果、同じ仕事をする男女に賃金差があったり、人事や評価側にも無意識の偏見があったりしたことに気が付く。

ウォッチングパーティーヤコブスドッティル首相が党首である左翼環境運動。2021年の国政選挙の開票日夜のウォッチングパーティー。選挙の場には女性の姿が多いのも北欧の特徴だ 筆者撮影

このような法律を可能にしたのは、女性たちが続けてきたストライキだ。北欧諸国では今でも賃金値上げを求めて、労働組合を通じて連携してストライキすることが普通だ。「職場に労働者がいなくなると、社会がいかに機能しなくなるか」を社会と雇用者に体験させる。

このアイスランドの行動から学べることは、企業「任せ」にしたままでは、賃金格差はなくならないということだ。また時間「任せ」にしたままでも何も変わらない。市民が怒り行動し、市民の生活に理解のある政治家を選ばなければ、格差は解消されないままである。アイスランドが始めた平等賃金証明法は、いずれ世界のスタンダードになっていくと私は思っている。



フィンランド:進む女性の社会進出。女性議員の割合も約半数を占めるまでに

女性候補者たちマリン首相が党首である社会民主党から立候補した女性候補者たち 筆者撮影

物事の決定の場でジェンダー平等が進むフィンランド

続いて紹介するのが、ジェンダー・ギャップ指数ランキング2位のフィンランドだ。 フィンランドのジェンダー平等の状況を端的に示している「 Gender Equality Index(欧州ジェンダー平等研究所の調べ)」で見てみよう。このレポートでは、「労働(Work)」「お金(Money)」「知識(Knowledge)」「時間(Time)」「力(Power)」「健康(Health)」というカテゴリー別に EU諸国のジェンダー平等を指数で表している。その中で、フィンランドがEUの中でも飛び抜けているものが「力(Power)」だ。「力(Power)」は、政治・経済・社会における物事の決定の場の男女比率で評価している。

ここでは特徴的な政治と経済分野に注目してみよう。

(図表1)「政治・経済分野における男女比率(フィンランドvs.EU諸国)」フィンランドvs.EU諸国政治経済男女比率

上記のようにフィンランドでは、重要な意思決定の場でのジェンダー平等が進んでおり、特に政治の場では顕著だ。その象徴がマリン政権であり、女性議員の多さは日本よりも圧倒的だ。背景には、北欧では労働組合や団体が数多くあり、女性がそういった複数の団体に所属し連携することで、政治や交渉のスキルを身に付け社会を支えてきたことがある。

そもそも意思決定の場では、女性比率が3割を超えると風土が変わると言われている。つまり政界に変化を起こすためには、最低でも女性の比率が3割になるまで市民による長期的な後押しが必要だ。

一方で、日本の議会にはまだまだ女性が少なく「男性による民主主義」空間が残っている。私は2022年にオスロ大学大学院のサマースクールで「北欧のジェンダー平等」を履修したが、授業で読んだ書籍『Has Democracy Failed Women?』(著者Dahlerup Drude、出版社Polity Press)には「女性議員の割合を10%から25%にするよりも、0%から10%にすることが大変で、何年もの時間と何回もの選挙を乗り越える必要がある」とあった。家父長制が根深く男性優位の日本の国会に、数少ないグループで女性を送り込んでも変化は起こしにくい。女性議員を孤独に議会に送り込むような社会にはなりたくないものだ。そして一度の選挙で結果が思わしくなかったとしても、諦めずに取り組むことこそが変化の鍵になるだろう。

選挙にも表れるジェンダー平等への強い意識

フィンランドをはじめとする北欧では、選挙の際に各政党が出す立候補者名簿で、多様性がどれほど象徴されているかが市民に判断される。各地域の政党の立候補者の顔写真がそろうポスターを見れば、男女の割合が一瞬で分かる。

社会のジェンダーギャップ解消のためには、女性候補者が少なければ、市民が「誰が選んだの?」と問いかける機会があることが重要だ。日本ではこの風潮が圧倒的に欠けているように感じる。高齢男性ばかりの政党ポスターであれば党内カルチャーにいくつもの問題があることが明白で、市民は多様性が欠けた政党には投票しないし、メディアも批判するだろう。

タンペレの社会民主党の立候補者の顔触れマリン首相が出馬した故郷タンペレの社会民主党の立候補者の顔触れ 筆者撮影

企業の取締役会も同様で、特定の年齢やジェンダー層だけの集合写真は「恥」でしかないと思われている。平等や透明性の欠けた風潮が丸出しだからだ。日本でも、もっともっと女性のリーダーが少ない現状を話題にするといいだろう。「おじさんだらけ」の集合写真を企業や政府が出すことを「恥ずかしい」と思える感覚を北欧同様に根付かせることができれば、ジェンダー平等も前に進むに違いない。

ただ、フィンランドの現状(図表1)を見ても分かるように、女性議員は十分に増えたが、経済界、特に民間企業ではいまだに取締役会は男性ばかりということも多い。これは北欧共通の課題だ。北欧といえども全てが素晴らしく成功しているわけでもない。育児との両立のために、女性が比較的時間に融通が利くが賃金は低くなる公的機関に転職する一方で、賃金は高いが残業など長時間労働が求められる民間企業に男性が残り続けるという北欧ならではの「職域分離」問題は改善されないままだ。解決のためには「父親がよりケア提供者として子どもと時間を過ごし、家での責任を負う」取り組みが求められるだろう。



ノルウェー:働き、納税し、自立する女性たちを支える社会

最後に私が住むノルウェーの話をしよう。ジェンダー・ギャップ指数ランキング3位のこの国から移民として私が学んだことは「納税」の大切さだ。2008年に移住してから、とにかく「税金」「ジェンダー平等」という言葉をやけに耳にするようになった。働いて納税することが「福祉制度の基盤」「女性の自立」「市民の自立」「移民の主体性を守る」ことに気が付くまでは数年かかったものだ。

市民が「納税」を日常的に意識するようになる理由は、「納税者」という言葉を毎日耳にする環境にある。いかに女性や移民、失業者に働いて納税者になってもらうかを政治家は常に議論し、それをニュースで見聞きする。「納税者であること」が市民としてのアイデンティティーであるかのように、じわじわと頭に染み込んでくるのだ。

各政党のスタンド「選挙小屋」を訪問しての政治の質問2019年の統一地方選挙。選挙では小学生~高校生が社会科の授業の宿題として、各政党のスタンド「選挙小屋」を訪問して政治の質問をする。その中に税金の質問は必ずある 筆者撮影

そんなノルウェーでの「専業主婦」の立場は日本とは大きく異なる。専業主婦は「失業者」と見なされる。「何をしているの?」と聞かれて、「専業主婦です」と答えることは回答にはならず、「それで、何をしているの?」と、ほかに生活の軸となる活動があるのだろうという前提で会話が進むのが普通だ。ここまで書くと、嫌な気分になる人もいるかもしれない。だが、北欧社会のこの在り方は、個人一人ひとりを否定しているわけではない。むしろ全ての市民が持つ才能が開花する社会づくりを目指している。もし経済的に自立するのが難しい立場にある女性たちがいたら、個人の問題ではなく、そうなってしまう社会構造に目を向けて解決策を探る。誰かに生きづらさを感じさせる背景となる「社会構造」に目を向ける意識は、日本人がもっと身に付けたい視点だ。

より多くの女性が働くためには、家事や子育て、介護といったケア労働の時間問題を解決する必要がある

北欧では、男女共に仕事と育児を両立する働き方が一般的だ。そもそもノルウェーの通常の勤務時間は8時から15時もしくは16時迄。14時半にはもうラッシュアワーが始まっている。男女共にほとんどの人は定時で働き、週末や長期休暇はしっかり休む。「子どもを送迎しないといけない」という考えが強いので、残業をしない分、親の労働時間中の生産性は高い。上司が「家族の時間を大切にしている」「残業しない」「フリータイムを満喫する」といった後ろ姿を見せることも重要とされている。

また、家庭でも一般的に男女は対等の立場にあり、夫婦が分担して家事をし、交代で子どもの面倒を見る。女性の家事時間は、1970年から2010年にかけて半分に減ったというデータもある。ノルウェーの女性が家事をする時間は、男性よりも平均50分多いらしい。一方日本では、総務省の2021年度「社会生活基本調査」で、男性の家事・育児などにあてる時間は過去最長の1時間54分となったと騒がれているが、女性の家事関連時間は7時間28分で男性の3.9倍以上に上る。女性が男性より5時間以上長く家事をしている日本の状況を思えば、ノルウェーの家庭でのケア労働の分担がいかに進んでいるか想像できるだろう。

北欧では、老後の介護の責任を担うのは政府と自治体

老後の介護ケアについても紹介したい。北欧では、老後の介護の責任を担うのは政府と自治体だ。ノルウェーでは子どもが親と共に暮らして介護をする文化がない。子どもは高校を卒業した時点で親元を離れ、それ以降は共に暮らさないのが一般的だ。自治体ごとに対応は変わるが、高齢者の親に介護が必要になれば自治体のサービスに申し込む。基本的に「家が一番」という考えから、高齢者は自分で生活ができなくなるまではできる限り自宅で生活し、必要に応じて自宅には1日に何度も看護師などが訪れる。高齢者施設に入るのは、自分では明らかに生活できない・死期が近いと医師が判断してからだ。個人のこれまでの納税額や年金に合わせて、生活範囲内で可能なサービスとその料金が決まるが、金銭的な負担は、日本と比べると自治体が負担する割合は大きい。

現在の制度にもちろん問題がないわけでなく、自宅訪問や高齢者施設でのサービスが劣悪化することもある。それでも子どもたちは「そのような環境にいる親が可哀そうだ」と心配はしても、親を自宅で介護することはなく、政府と自治体に責任の所在と改善を求めるのが普通だ。そのためこうした福祉社会を継続していくためにも、男女問わず市民一人ひとりが生産的に働いて納税する必要がある。

オスロ首都の中心部には新ムンク美術館(右)などの観光スポットや美しいオスロフィヨルドがある 筆者撮影

「教育」も、働き納税し続けるための大事な視点

北欧は日本とは違うタイプの学歴社会だ。日本では「大学名」で評価されやすいが、北欧は大学の数も限られており、大学名よりも「専攻科目」「大学院まで修了しているか」など専門性を極めていることが企業に評価される。最終学歴の専攻科目とは関係のない職種に応募しても、面接に呼ばれることはない。そのため大学入学前からどのような職業に就きたいかを考えて、専攻科目を選ぶ。このように北欧の高い納税額を払えるほど経済的に自立するためには、仕事に必要なスキルや専門性を身に付けている必要がある。

もちろん10代後半で選んだ専攻科目に対して「やっぱり違った」と途中で思うこともあるだろう。そのため転部や学士号をいくつか持っているというのも普通だ。教育費が無料なので、学び直して新たな職探しにつなげる人もいる。リカレント教育は北欧では当たり前のことなのだ。

ちなみにノルウェーでは、高校卒業後は経済的に自立することが当たり前で、大学入学と同時に親元を離れ自立する人がほとんど。大学の学費は無料だが、勉強量が多くアルバイトをするのが難しいため、生活費などは奨学金に頼ることになる。返却義務のない奨学金ももちろんあるが、それだけでは生活が厳しく返却義務のある奨学金も併せて借りることも多い。そのため「働き始めたらどの程度の収入が必要で、いくら返済しないといけないか」をシビアに考えながら学生生活を送っている。



最後に…

北欧も最初から平等を成し得ていたわけではない。かつての歴史を踏まえた上で、「女たちよ、パワーを持て。誰かに依存して自立性を失うな。自立した人生を歩め」というメッセージを送ってくるのが北欧社会だ。

北欧モデルの話をすると、まずは人口規模や社会特性といった日本との違いに目が行き、日本には当てはまらないと考えがちである。しかし、彼らのこれまでの取り組みには、日本社会においても参考にできる点があるはずだ。

例えば、北欧では仕事との両立に困難を来すような個人の問題を社会構造の問題として捉え、社会全体で解決しようと努力してきた。それに対し、日本ではそういった問題は、個人で解決すべきものとして片付けてしまう傾向が見られるように思う。ジェンダー平等や働き方についての問題を、その背景にある社会構造に目を向けないまま、いつまでも個人の問題として捉えていては、今の日本社会が変わるのは難しいだろう。

このコラムを通じて、皆さんが日本の政治や社会の在り方に意識を向け、自分らしい人生や働き方について考えるきっかけになればうれしい。そして、それがジェンダー平等や働き方に関する課題の解決にもつながっていくのだと思う。

〈コラム執筆:鐙 麻樹〉

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