株式会社HANAEMI代表取締役
和田 聖子さん
大学卒業後、大手生命保険会社に入社し10年間勤務後、上場企業のグループ会社へ転職。事業所の所長として組織運営に携わるものの、更年期が影響する不調によりキャリアを断念。同じ思いをする人を出さないために、「女性の力を最大発揮できる職場作り」をコンセプトに、株式会社HANAEMIを設立。 2023年より一般社団法人ウェルネスチームクリエーション協会 理事。産業カウンセラー、国家資格キャリアコンサルタント資格保有。
女性の活躍 「働く女性が知っておきたい<カラダの不調と向き合うコツ>」
キャリア 、 ワーク・ライフ・バランス 、 健康・体調管理
2024年05月14日
「人生100年時代」「女性活躍推進」といった言葉が多く聞かれる今、働く女性の数は増え、働く期間も長くなり、また責任のある立場で活躍する女性も増えつつあります。一方で女性は、年齢やライフステージ特有の体調不良を抱えていることも。 そこでこのシリーズでは、働く女性が自分らしくキャリアを重ねていくためのサポートとして、不調と向き合いながら働く上で役立つ知識やケアなどについて専門家のアドバイスをお伝えします。今回は、女性特有の心身の悩みを踏まえたキャリア形成サポートなど「女性の力を最大発揮できる職場作り」に取り組む株式会社HANAEMI代表の和田 聖子さんに「つらい更年期症状への対処法と仕事への向き合い方」をご自身の経験談も踏まえながら教えていただきました。
※この記事の内容は、リリース当時(2024年5月現在)のものです。最新の情報については、公的機関のサイトなどをご確認ください。
株式会社HANAEMI代表取締役
和田 聖子さん
大学卒業後、大手生命保険会社に入社し10年間勤務後、上場企業のグループ会社へ転職。事業所の所長として組織運営に携わるものの、更年期が影響する不調によりキャリアを断念。同じ思いをする人を出さないために、「女性の力を最大発揮できる職場作り」をコンセプトに、株式会社HANAEMIを設立。 2023年より一般社団法人ウェルネスチームクリエーション協会 理事。産業カウンセラー、国家資格キャリアコンサルタント資格保有。
更年期に女性ホルモンの変化によって起こる不調は、ときに仕事に支障をきたすほどの症状が現れることもあり、この年代の働く女性にとっては悩みの一つでもあります。また、この更年期症状は「ホットフラッシュ」のようなよく知られたものだけでなく「肩こり」「疲れやすい」といったそれまでにも経験したことのあるものや「ちょっとしたことでイライラする」「怒りっぽくなった」といったココロの変化まで症状はさまざまです。そのため「更年期症状」だと認識できないまま、「つらい不調を我慢して働くことが当たり前」になっている人が多いのが現状です。 そこで今回は、更年期症状について知っておきたい知識と併せてその不調と向き合いながら働くためのアドバイス を、私自身の経験も踏まえながらお伝えします。
皆さん「更年期ロス」という言葉をご存知でしょうか。ほてりや発汗、気分の落ち込みなどの更年期症状により、仕事に何らかのマイナスの影響が出ることを「更年期ロス」といいます。更年期の症状は人それぞれですが、ひどい場合は仕事を継続することが困難となり、キャリアの中断や最悪の場合退職に至るケースも。
2021年に行われた調査※によると、更年期の症状で「仕事を辞めた」「雇用形態が変わった(正社員から非正社員になったなど)」「労働時間や業務量が減った」「降格した」「昇進を辞退した」といった影響を受けた人数は、推計で56.5万人、その経済損失は年間6300億円(※)に上るとされています。
中でも女性の場合、かつては40・50代の女性管理職が少なかったこともあり更年期の不調が仕事に与える影響が大きな問題として捉えられていませんでした。しかし近年、この世代の働く女性の数や管理職の割合が増えつつあり、「更年期ロス」が働く女性の新たな課題として浮かび上がってきています。
更年期の時期に起こる不調で、かつ、その背後に気質的な病気がないものを「更年期症状」といい、中でも日常生活に支障をきたす場合は「更年期障害」といいます。
更年期の症状には、女性ホルモンが大きく影響しています。生理の時期になると脳から卵巣に対して女性ホルモンである「エストロゲン」を出すよう指令が出ます。それがさらに卵巣から子宮に伝わり、結果として指令通りに分泌されたことが脳にフィードバックされるのですが、更年期になると「エストロゲンを出せ」という指令を受けても卵巣機能の低下により女性ホルモンができにくいという状況になります。するとますます脳は女性ホルモンを出すよう指令を出すため、卵巣から出るエストロゲンの分泌量との乖離が広がり、自律神経が狂い出す=ココロとカラダの不調が生じるといわれています。
(図表1) 更年期障害の原因
更年期の不調の代表的な症状として、のぼせ、ほてり、発汗などが起こる「ホットフラッシュ」がよく挙げられますが、私の場合、最初はその症状は全くなく、船酔いのようなめまいや、眠れないほどの動悸、理由のない不安な感覚などが続きました。そのため更年期の症状とは思い当たらず「自分はいったいどうなってしまったのだろう」と自分が自分でなくなるような不安を感じたのを覚えています。何より理由の分からない不調ほど不安なことはありません。実際に更年期の症状は人によって異なり、数百通りもあるといわれています。自分では更年期症状だと気づいていないことも多いと聞きますので、一度セルフチェックをしてみてもいいかもしれません。
厚生労働省では、女性の病気のセルフチェックができるサイトを公開しています。更年期障害のセルフチェックもできますので、ぜひ活用してみてください。
『iction!(イクション)』の調査によると、更年期の症状で「仕事に支障がでたことがある」と回答した人に現在の対処法を聞いたところ、「特に何もしていない」と答えた人が約4割以上と最も多い結果でした。この「何もしていない」という状態をぜひ見直していただきたいと思います。更年期の症状は、身体的・精神的に大きな影響を与えます。治療や休息といった適切なケアをしないままでいると、いずれ症状が悪化し、今までできていたことが思うようにできなくなることで自信を失くしてしまうことも。また、それがキャリアの断念につながる可能性もあります。
(図表2)「Q.更年期の症状に対して、どのように対処しているか」iction!調査※より
更年期症状に悩んだら、まずは婦人科への受診をおすすめします。「不調を抱えているけれど、更年期が影響しているかどうか分からない」という場合でも、受診をためらう必要はありません。その診断をしてもらうための受診ですし、不調の原因が更年期とは別の疾病の場合は、早期発見につながることにもなります。
受診に際し、私の経験から一つアドバイスです。更年期の症状は人それぞれです。医師に自分の状況を理解してもらうためにも、受診する前にどんな症状が出ているのか、できれば身体的な症状と精神的な症状を分けて書き出してみましょう。その中で一番困っているのはどの症状なのか、まずはどんな不調を改善したいのか、などをまとめておくと医師に伝えやすく、診察や治療にもプラスになるはずです。
なお、更年期の不調への対策については、以下の記事で詳しく紹介しています。知っておきたい基礎知識や、婦人科専門医からのセルフケアについてのアドバイスも紹介していますので、ぜひ読んでみてください。
更年期の不調は女性だけのものだと思っていませんか。最近では知られるようになりましたが、男性にも更年期障害とよばれる症状があります。男性の更年期障害は、男性ホルモンの「テストステロン」が加齢やストレスなどが原因で減少することで起こる「加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)」のことです。女性の場合「エストロゲン」の減少は急激ですが、男性の「テストステロン」は、加齢とともに緩やかに減少していきます。ただ、減少の速さや度合い、時期は個人差が大きく、男性ホルモンの分泌の低下が始まる40歳代以降では、どの年代でも起こる可能性があります。ホルモンの影響による不調の症状については、まだ十分に解明されていない部分もあるようですが、女性同様に、ココロとカラダの両方に多岐にわたる不調が現れます。倦怠(けんたい)感などの身体の症状と合わせて、意欲低下やイライラ、抑うつなど精神症状が重なることで仕事との両立が困難になるケースもあるようです。
なお、厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」の調査報告書」の中で、男性の更年期症状についてのセルフチェックシート「AMSスコア(男性更年期障害質問票)」が紹介されています。気になる人はぜひチェックしてみてください。
前述したように、働く女性の更年期症状についての調査※によると、更年期の不調を抱える人のうち、その症状が原因で仕事に支障が出たことがあると回答した人の割合はおよそ8割。うち仕事を休んだり休息をとる必要がある人は2割以上に上り、休むほどではない人も、痛みやつらさを我慢して働いている状況が見えてきます。
(図表3)「Q.更年期の症状に対して、どのように対処しているか」iction!調査※より
また同調査で、更年期症状による仕事への支障として、主にキャリアに関係する影響について聞いたところ、職場での役割分担を軽くしてもらったり、新たな業務へのチャレンジを諦めたといった人や、仕事を続けられず休職・転職をしたという人も一定数いることが分かりました。40・50代はキャリアにおいても重要な時期。更年期の不調によって自分の思い描いていたキャリアを諦めるのは悔しいし、もったいない!まずは症状の改善のためにできることから始めていきましょう。
(図表4)「Q更年期症状による仕事への影響経験」 iction!調査※より
「更年期の症状で、仕事に支障をきたしたことがある」と答えた人が多い中で、自身の不調について、職場にはどのような相談をしているのでしょうか。調査結果によると、更年期症状による仕事への影響について職場に伝えている人は、仕事に支障が出たことがあると答えた人の中で2割もいないという結果に。
そしてそのほとんどは出勤が困難だったり、休憩が必要なほどの不調を抱える人でした。これは裏を返せば「我慢すれば休むほどではない」という人のほとんどは、職場の誰にも自分の症状について話をしていない状況であるといえます。
(図表5)「Q更年期症状がひどい時に職場に伝えるか」 iction!調査※より
更年期症状を抱えながら、職場に伝えないのは、更年期症状ならではの理由もあるのではと私は思っています。例えば、私がこれまで更年期症状の悩みについて話を聞いた人の中には、年齢的に管理職の立場にある人もいて「管理職になったばかりでそんなことは言っていられない」「部下には話せない」といった声や、更年期という言葉自体にマイナスのイメージがあり「加齢によるものなので恥ずかしい」といった話しづらさを口にする人もいます。
でも、それでいいのでしょうか。仕事は自分一人で進められるものばかりではないですし、管理職なら、なおさらその影響は自分だけにとどまりません。できるだけ周囲の理解が得られるように、まずは職場の同性の仲間からでもいいので、自分の症状について伝えてみてはいかがでしょうか。
ここでは、今より状況を良くするために、自分の体調不良について上司へ伝える際に気を付けたいポイントをご紹介します。
上記のポイントを踏まえ、相談の前にしっかり準備をしましょう。更年期が影響する症状の中には集中力・思考力・判断力・記憶力などの低下も含まれるため、準備不足の場合、相談の場での会話が不十分になってしまう可能性もあります。また、症状のつらさや仕事への思いの大きさなどで情緒も不安定になっているかもしれません。冷静に話せないことも想定できますので、情報を整理したものを準備しておくことをおすすめします。
相談内容は、相手によって少し違ってくるかもしれません。上司への相談の場合、もし自身も管理職であるならば、現在のポジションを継続していきたいのか、自分自身のこの先のキャリアについて考えてみることが大切です。ただ更年期の症状により仕事への自信を失ってからだと、どうしてもネガティブな答えになりがち。できるだけ普段から考える機会を持てるといいですね。実際に相談する際には、自分が今後どうしていきたいかを上司に伝えた上で、サポートしてもらいたいことなどを話すとスムーズです。
また、自分の不調について上司の立場で直属の部下やメンバーに伝える場合、正解は分かりませんが、私は、自分が上司に伝えた内容(自身の現状とサポートしてもらいたいこと)を正直に伝えました。どこまで理解してくれていたかは分かりませんが、私が不調を抱えていることをメンバーに伝え、サポートしてくれました。しかし、自分自身が管理職としての機能を十分に果たせていないと感じたため、私の場合は管理職を外れる道を選択しました。
もちろん、不調の悩みを周囲に話すことをためらう気持ちはよく分かります。休むほどではない症状ならばなおさらです。ただ、「まだ我慢できる範囲だから」と思っていても、更年期の症状は変化していきます。また、更年期を迎える年代は、家庭では子育てや介護の悩み、仕事では職場での役割が大きくなったが故のプレッシャーなど、自身ではコントロールできないストレスを抱えている人も少なくありません。そういった過度のストレスが重なり続けると、更年期症状が悪化し、うつ状態になってしまうケースもあります。それほどではない今だからこそ、気持ちの余裕も違い、冷静に話すこともできるのではないでしょうか。一度、前向きに考えてみてください。
更年期真っただ中にいると、「とにかく今がつらい」と思ってしまいますよね。更年期の不調とうまく向き合いながらあなたらしく働き続けるために、まずはできることから始めてみましょう。そして自分に合った適切なケアを見つけていってください。更年期はこれまでの環境や生活習慣を見直す機会として、その後の人生をイキイキと快適に過ごすための切り替え期間にできたらいいですね。
「更年期障害ってどうやって気づくの?」「婦人科に行けば良くなるものなの?」更年期症状を理解いただく参考として、私の更年期障害の症状と治療についてお話ししたいと思います。
私の場合は、45歳ごろから動悸やめまい、不安感の症状が現れ始めました。テレビを見ているときに理由もなく突然急激な不安に襲われたり、涙が止まらなくなるなどの情緒不安、夜中に何度も目が覚めたりするようになったのが最初です。そこでかかりつけ医の内科に行ったところ、甲状腺の病気が増える年齢ということで検査を行いましたが問題は見つからず。抗不安薬や睡眠導入剤を処方してもらいましたが、症状が改善されなかったことから、更年期外来をすすめられました。このときまで「更年期障害」の可能性は考えていませんでした。
更年期外来では、血液検査とアセスメント、問診などのほかに、めまいの症状があったために耳鼻科で検査を受けるように指示されました。そうしたさまざまな検査の結果、「更年期障害」と診断されましたが、診断結果を聞いて何よりもホッとしたのは、不調の原因が、女性ホルモンの分泌量という数値で示されたこと。「なぜこんなにしんどいのか…」原因が分からないまま、なんとかしようとあれこれ頑張る中で、情緒不安定になって落ち込む日々でしたので、「理由があってしんどい」ということが分かっただけでも、心がとても楽になりました。
治療方法については医師とじっくり相談した上で、まずは漢方治療とホルモン補充治療からスタートすることにしました。しかし、3カ月経っても治療の効果があまり実感できず、私の場合は、ホルモンの減少だけでなく、ストレスによる影響が大きいことが分かりました。ちょうど仕事での人間関係や家族の病気などストレスの重なる時期だったこともあり、会社に相談して管理職を降りることに。キャリアを積んできた分、簡単な決断ではありませんでしたが、ストレス原因を避けて休息を取るようにコントロールしていくことで、少しずつ改善が見られるようになりました。また、私の場合は、日常生活で栄養が偏っていることが更年期の症状にも影響していることが分かり、食事も意識するようになりました。現在は6年続けたホルモン補充治療法を卒業し、治療は漢方薬に切り替えました。症状も、ホットフラッシュと倦怠(けんたい)感が残る程度にまで改善されています。