女性の活躍 「働く女性が知っておきたい<カラダの不調と向き合うコツ>」
人手不足の時代にこそ、ウェルビーイング経営を ~女性の健康支援に取り組む企業事例【株式会社桃谷順天館】~
企業事例 、 キャリア 、 ワーク・ライフ・バランス 、 健康・体調管理
2024年04月16日
ウェルビーイング経営の視点から「女性特有の健康課題に対する取り組み」が注目される理由
企業において「社員の健康が企業の利益につながる」という健康経営の視点が注目されつつあります。その背景の一つが人手不足。健康で働きやすい職場は、社員の定着率や生産性にとって重要だからです。これまでにも社員に対する健康支援は行われてきましたが、生活習慣病予防など、どちらかというと男性基準の対策が中心でした。しかしながら働く女性が増え、その活躍が一層期待される今、企業にとって女性社員への健康支援も重要な課題となりつつあります。
女性には妊娠・出産以外にも、生理に伴う症状や疾病、更年期症状などの年齢やライフステージごとに生じやすい特有の体調不良があり、 それらは、女性がキャリアを重ねる上でいろいろな影響を与えています。また、そのことは経済産業省「働く女性の健康推進に関する実態調査」などでも明らかになっており、女性が健康で働き続けるためには、女性自身だけでなく、職場もこういった不調について理解し支援していくことが欠かせません。それには何から始めればいいのでしょうか。今回は、社員の健康と働きやすさを重要視し、さまざまな制度の拡充や風土づくりを行う株式会社桃谷順天館 の取り組みを、女性社員への健康支援施策を中心にご紹介します。
※この記事の内容は、リリース当時(2024年4月現在)のものです。
大阪に本社を構える明治18年創業の老舗化粧品メーカー、株式会社桃谷順天館。日本で初めて西洋医学処方を取り入れて開発した『にきびとり美顔水』で有名な企業です。老舗企業でありながら、会社の理念にも込められているウェルビーイングを体現する働き方を推進し続ける同社で、女性社員への健康支援を担当する人事部の平川さんにお話を伺いました。
平川 沙弥さん 株式会社桃谷順天館 人事部
女性への健康支援はピンクリボン活動への賛同から
当社の女性社員への健康支援は、2005年に始めたピンクリボン活動から始まっています。化粧品メーカーであり、お客さまも自社の社員にも女性が多いこともあり、ピンクリボン活動に賛同し、活動をスタートさせました。社内外に乳がんの早期発見・早期診断・早期治療の重要性を伝える啓発活動を行うと同時に、2006年より自社の健康診断の一環として会社全額負担での乳がん検診を導入。年齢制限は設けず、正社員・パート社員といった雇用形態も問わずに希望者は誰もが受けられる体制にしたところ、全員から手が挙がりました。やはり気にはなっていたけれど、自分で受けに行くのはハードルを感じてしまう方も多くいたようです。
さらに2010年からは、男性社員の配偶者にも適用し、会社からの全額負担で受診可能に。現在は受診希望者の乳がん検診率はほぼ100%で、実際に導入後は早期発見にもつながっています。当初は女性社員向けに始まった支援ですが、男性社員の配偶者の健康もサポートすることで、男女を問わない支援になっていると考えています。
取りづらかった生理休暇を「エフ休暇」に名称変更。合わせてPMS(月経前症候群)も制度の対象に
女性特有の体調不良に関する施策としては、2020年に生理休暇制度の見直しを行いました。きっかけは生理でしんどい思いをされている社員が生理休暇を利用していなかったこと。「上司に言いにくい」というのが主な理由かと考えましたが、そもそも生理休暇に関する社内認知度が低いという課題もありました。そこで、取得しやすくするために名称を変えることを決め、新名称を周知目的もかねて全社員にアンケートで募集しました。その結果、女性を意味する「female(フィーメイル)」の頭文字から取った「エフ休暇」と名称し、新たにスタートさせました。
同時に制度自体の見直しも行いました。女性特有の体調不良について調査を進める中で、PMS(月経前症候群)による不調に悩んでいる人も多いと知ったことから、対象を生理による不調だけでなくPMSにも拡大。生理やPMSの症状の重さやその期間は人それぞれのため、年間の取得日数に上限は設けず、時間単位での取得も可能にしています。また、事前申請をすることが難しい休暇のため、当日上司に連絡することで取得でき、事後に勤怠システムで申請を行えばOKというように実態に即した運用ができるようにしています。
さらに、生理やPMSの調査をしている中で見えてきたのが、女性だけでなく男性も含めて不妊治療で悩んでいる人が思った以上にいること。そこで、新たに不妊治療による通院や安静のために取得できる「ライフサポート休暇」も同時に導入しました。2022年からは、不妊治療だけでなく、がん・脳卒中・肝疾患・難病・心疾患・糖尿病といった病気治療にも適用できるように拡充し、取得上限は年10日で、時間単位での取得も可能になっています。 このように休暇や支援の対象はさまざまですが、女性・男性ということではなくそれぞれに健康不安や事情を抱える社員誰もが健康第一で働くためのサポートという意味での支援を行っています。
「エフ休暇」の利用者は翌年には倍以上に!制度は導入するだけでなく社内認知度を高めるのがカギ
制度や施策を推進していく上で何より重要なのは、導入するだけでなく、社内における認知度をいかに高めていくかということだと思っています。生理やPMSについての理解度は、男性はもちろん、女性でも症状が軽い人もいるため、人それぞれです。ましてや不妊治療となれば、自分事として捉えていない方も多いのではないかと思います。実際エフ休暇やライフサポート休暇の導入の際には「本当に休む必要があるのか?」という声が、ゼロではありませんでした。そこで、産業医による生理やPMS、不妊治療に関するコラムを社内ポータルサイトにアップしたり、月に一度の全体朝礼の場を使って制度を周知したりと、理解を深めてもらう活動を行いました。その他にも気軽に質問できる相談窓口の設置や制度の理解度に関する社員アンケートなどを継続的に実施しています。こうした周知活動により、エフ休暇については、制度改定の翌年には取得者が倍以上に増加しています。
「健康で働きやすい職場環境」の推進が社員のエンゲージメント向上につながる
健康支援だけでなく、社員の皆さんが望むワーク・ライフ・バランスの実現をサポートする施策も進めています。
2016年には、小学生以下の子どもを持つ社員に対し、学校行事などの参加を目的として、「親子の絆休暇」を導入。介護休暇とは別に、子ども一人につき年5日間取得できます。また、2017年からは「連続5日休暇」と称して、年次有給休暇を連続5日間取得して土・日と合わせることで、最長9日間の連続休暇を取得することを全社員に奨励しています。 こういった休暇制度に加え、柔軟な働き方ができるように2019年4月には、フレックスタイム、テレワーク、時間単位年休制度も導入。結果として、2020年のコロナ禍でも適応できる体制が先行して実現できました。また、最近では男性育休の取得も推進しており、2023年度の取得率は85.7%、取得期間は平均1カ月を超えています。
他にもウェルカムバック採用制度(退職者の再雇用)を用意しており、病気療養、子育てや介護との両立、配偶者の転勤などの家庭事情でやむを得ず退職した場合はもちろん、スキルアップのための通学や留学などを理由に離職したケースでも、再び当社で活躍してもらえる環境を整えています。
ここで紹介しただけでも制度はたくさんありますが、それぞれの社員が状況にあった制度を活用し、自分に合った働き方を選択しながら、健康第一で長く働き続けてほしいと思っています。すぐに利用する機会がなくても、制度がある安心感は、社員のエンゲージメントにも寄与するのではないかと思うので、今後は制度の浸透を今以上に推進していく予定です。
それぞれの社員が体調や状況に合わせて効果的に働けるよう、さまざまな制度を設けてきた桃谷順天館。では実際に制度を利用する側の社員は、その魅力や導入後の社内の変化について、どのように感じているのでしょうか。実際に「エフ休暇」を活用しているコーポレートブランディング部の中田さんにお話を伺いました。
中田 千尋さん 株式会社桃谷順天館 コーポレートブランディング部
制度利用者の声:エフ休暇の活用で、PMSの不調による仕事への影響を回避
私自身はPMS(月経前症候群)の症状が重く、生理前の不調の影響が仕事に出てしまっていました。そのため、パフォーマンスが低下し、そんな自分に落ち込むといったような負のスパイラルに陥りがちに。しかし、2019年にフレックスタイムやテレワークが導入されてからは、それらを活用することでうまく乗り切れるようになりました。さらに、2020年にエフ休暇の制度が導入された時は、「しんどい時は休んでいい」と会社に言ってもらえたようで気持ちの部分でも楽になりましたし、メリハリをつけて働けるようになったことで、生産性が上がった実感もあります。エフ休暇は無給での休暇ではありますが、フレックスタイムで労働時間をコントロールしながら問題なく活用できています。さらに生理にまつわる不調について社内周知が進んだことで、自分の状況を職場の仲間にも理解してもらいやすくなった点も嬉しいポイントです。以前よりも同僚との会話の中でPMSが話題に上がることも増え、「みんな同じように悩んでいるんだ」と気が付きました。
当社では、存在意義(パーパス)として「“人と地球の美しい未来を創る”For Beauty and Well-being」を掲げています。当社の制度やマネジメントにも浸透している「良い仕事をするためには、精神的にも肉体的にも常に良い状態=ウェルビーイング(Well-being)であることが大切」というこの理念に、私自身も共感しています。今後、ライフステージに変化があった際も、ウェルビーイングを大切にした働き方を続けながら会社に貢献できたらと思っています。
社員一人ひとりが「ウェルビーイング」で働くことが、会社の生産性や創造性の向上につながっている
最後に企業の存在意義としてウェルビーイングを意識した経営を行っている桃谷順天館グループで働く三名の皆さんの声をご紹介します。制度の利用促進に向けて組織として取り組んでいること、キャリア入社組から見た魅力、休暇制度の活用方法など、ざっくばらんに伺いました。
<座談会参加者紹介>
株式会社明色化粧品 代表執行役員 山本 武志さん(右)
経営企画部で営業、マーケティング、管理全体のマネジメントを担当。
株式会社明色化粧品 マーケティング部 杉村 萌さん(中央)
2年前に同業他社より転職。商品開発やマーケティングを担当。
株式会社桃谷順天館 コーポレートブランディング部 中田 千尋さん(左)
人事部を経て、現在は企業広報を担当。
———社員の多様な働き方や健康的な働き方を支援する制度が年々整ってきていますが、率直にどのように感じていますか?
中田さん:これまでは、ライフステージによって生活環境が変わる中で仕事を続けられない人もいたと思いますが、会社がさまざまな制度を用意してくれることで、どんどん働きやすい環境になっていると感じています。
杉村さん:私は2年前に中途採用で入社しました。当社はさまざまな部署や職種で女性比率が高く、管理職としても女性が多く活躍しています。前職でも一般的な産休・育休はありましたが、当社はさらに制度面で充実しており、妊娠・出産といったライフイベントにしっかり向き合ってくれる会社だと感じますね。私も転職後に結婚をして、今後はさらに女性としてのライフステージを歩みながら、ここで長く働いていきたいと思っています。
山本さん:コロナ禍により世の中では働き方に大きな変化が生まれましたが、当社ではそれ以前から働き方の多様性を広げてきました。当社は、化粧品メーカーとして、商品企画から研究、製造販売まで自社で一貫して行うことを特徴としており、多様な人材が活躍できる土壌が必要になります。さらに化粧品という女性の感性やスキルが非常に大切なビジネスでもありますので、女性社員がライフステージの変化によって本人が望まない形でキャリアを中断したり断念せざるを得ない状況は、会社にとっても大きな損失です。だからこそ「人を大事にする」というスタンスにこだわり、健康経営や働き方の柔軟性を重視して、時代に合わせて、時に先取りしながら、多様な制度を備えてきたという背景があります。
———社員の多様な働き方や健康的な働き方を支援する制度が年々整ってきていますが、率直にどのように感じていますか?
山本さん:私自身、以前は女性の生理痛の大変さに考えが及ばない部分もありましたが、制度導入と周知活動が進む中で「きっと無理して働いていたんだな」「毎月のことだから過酷だろうな」と気が付きました。男性だって風邪をひけばつらいもの。生産性のことを考えても、会社は誰もがそれぞれの体調に合わせて働けるようサポートすべきだし、今はそうなってきていると感じます。
杉村さん:体調が悪いときは、上司や先輩から「無理しないで早く帰って」といった声掛けもしてもらえるので、つらい状況で無理して働くといったことはないですね。
———制度を使いやすい状態をつくることも大切だと思いますが、組織としてどのような取り組みや工夫をされていますか?
山本さん:仕事の大部分は期日や納期があるものでありますが、業務の中心になっている人が休むことによって滞ってしまい、その結果納期などに遅れが生じるというケースもあると思います。そうしたことを防ぐために、例えば毎朝のミーティングで互いの業務を共有したり、バッファを持たせたスケジュールを設定したりしておくことで、数日であれば急な休みでも組織内でカバーできる体制をつくっています。
杉村さん:私の部署もそれぞれが担当を持ちつつも、状況や書類が共有されているので、みんなで対応できる仕組みになっています。急な体調不良など、いざという時も相談しやすいと感じます。
中田さん:うちの部署でもチャットで常に情報共有をして、メールにも誰かをCC、BCCに入れるようにしています。体調不良での急な休みはもちろん、有給休暇や連続5日休暇などの取りやすさにもつながっていると思います。
———ちなみに皆さんは、休暇制度はどのように活用されていますか?
中田さん:木・金に有休を取って、土・日と合わせて旅行に行ったり、一人でゆっくりと美術館を訪れたり。同僚では、連続5日休暇を使ってパリコレを見に行った人もいるんですよ。仕事以外に充実した時間を持てるようになったことで、気分転換もでき、生産性アップにつながっていると感じます。
杉村さん:確かに長期休暇は取りやすい雰囲気ですね。私も新婚旅行を計画中で、結婚の際に取れる特別休暇を利用して長く休みを取る予定です。また、平日でも休みを取りやすいので、土・日はなかなか混んでいて行きにくいテーマパークなどにも行ってみたいなと思っています。こうした楽しみが増えると、仕事のモチベーションも上がりますね。
山本さん:こんな風に、社員同士がお互いの休暇の話を気軽にできる雰囲気もわが社の特徴だと思います。誰もが休暇を取りやすく、リフレッシュしたことで、休暇明けのメンバーのやる気も生産性もアップしているのもいい。メンバーに対して有給休暇を取得するようにマネジメントをしているので、もちろん私自身もしっかり休暇を取って、趣味に時間を使うことで気分をリフレッシュしています。あと今後は、年齢的に介護の可能性も出てくるので、その時に制度が使えるのはありがたいですね。
———今後さらに会社に期待することがあれば教えてください。
中田さん:働く女性にとって妊娠・出産と仕事との両立は大変なものですよね。具体的な話になりますが、妊娠中、つわりの症状がある中で出勤するのがとてもつらいという話をよく聞きます。当社は、リモートワークやフレックスタイム制などさまざまな制度があるので、それらをうまく組み合わせれば対応できるのかなとも思いますが、つわりは期間も辛さの種類も人によっていろいろなので、つわりの時期をサポートしてもらえる制度があると助かる人も多いのではと思っています。
杉村さん:その時々の状況に細かく対応した働き方や休暇制度があるので、まずは私自身がそれをきちんと把握して活用できるようにしていきたいですね。人事部が遠い存在の会社もあると思いますが、当社の場合は気軽に話しやすく、相談をすればアドバイスももらえる。働きやすい環境をつくってもらえていることに、本当に感謝です。
山本さん:経営側としては、制度としてこれだけ充実したものがありますので、今後はさらに社内で定着させて、誰もが気兼ねなく利用できる心理状態になってもらえるようにしていきたいですね。また、制度の充実や働きやすい環境は、採用の面でもアピールできると考えているので、より多くの方に知っていただくことで、当社でチャレンジしてみようと思う方が増え、会社がもっと活性化することを期待しています。
インタビュー取材を終えて
「企業として女性の健康課題に向き合う」と聞くと、そもそも女性特有の健康課題って…?それがなぜ重要なのか?と考えてしまうかもしれません。また、女性社員のみを対象とする施策やサポートってどうなんだろう…という懸念もあるでしょう。 前述の通り、働く女性が増える中、女性特有の体調不良に伴う生産性の低下や離職リスクは企業にとって無視できないものになりつつあります。
桃谷順天館では、健康で働きやすい職場づくりを進める中で、社員の声に耳を傾けることで女性の健康課題にも気付き、制度を見直すなど支援を拡大。またその運用においても、広く利用してもらうための環境づくりや周知を徹底しています。
社員誰もがワーク・ライフ・バランスを実現できる施策に加え、女性社員への支援も行った結果、会社全体で社員のモチベーションやエンゲージメントが向上し、また業務効率化や生産性アップも実感しているようです。合わせてこういった働きやすさは、新規採用や離職防止にもつながっているとのこと。
今回の事例のように、生産性の向上や人材確保のために企業が健康経営に取り組む中で、女性特有の体調不良への理解が進み、その結果、男女問わず誰もが自分の思う働き方を実現できるようになることを願っています。