育Qドットコム株式会社代表取締役社長
広中 秀俊さん
東京都パパ育業事業 アドバイザー兼セミナー講師(令和4年度)
大学卒業後、ミサワホーム入社。2児の父親であり、厚生労働省から「イクメンの星」に認定される。2019年に独立。「育休で日本を元気に、世界を平和にする」をミッションに、男性育休が当たり前になる世の中を目指し、自治体や企業向けに研修やコンサルを展開。ファイナンシャルプランナーとしてお金に関するアドバイスも実施。
両立支援 「働くパパ・ママの育休ガイド~育児とキャリアの両立アイデア~ 」
共働き 、 お金 、 産休・育休 、 ワーク・ライフ・バランス 、 法律・制度
2023年10月31日
男性の育休取得が日本の働き方を変える一歩になる。
「働くパパ・ママの育休ガイド~育児とキャリアの両立アイデア~」は、パパの育休をきっかけに、パパとママ、二人の育児とキャリアの両立について考えるためのお役立ちサイトです。
このシリーズでは、気になる産休・育休の制度やお金のこと、またパパの育休を有意義なものにするためのヒントやアドバイスを専門家にうかがいました。
※この記事の内容は、リリース当時(2023年10月現在)のものです。最新の情報については、公的機関のサイトなどをご確認ください。
育Qドットコム株式会社代表取締役社長
広中 秀俊さん
東京都パパ育業事業 アドバイザー兼セミナー講師(令和4年度)
大学卒業後、ミサワホーム入社。2児の父親であり、厚生労働省から「イクメンの星」に認定される。2019年に独立。「育休で日本を元気に、世界を平和にする」をミッションに、男性育休が当たり前になる世の中を目指し、自治体や企業向けに研修やコンサルを展開。ファイナンシャルプランナーとしてお金に関するアドバイスも実施。
国を挙げて男性の育休取得率向上に取り組んでいる今、自分も取ろうと考えている男性も増えているのではないでしょうか。せっかく育休を取るなら事前準備をしっかりして、あなたにとってもパートナーにとっても、より有意義な育休時間にしていきませんか。そこで今回は、男性が育休を取得する際に意識したいポイントや気を付けたい点など、育休のセミナー講師もしている私の視点からお伝えしたいと思います。
ぜひこの機会に「知っておくべき産休・育休制度」「産休・育休期間中のお金」の記事と合わせてご一読ください。
「ママの職場復帰はいつ?」「パパの育休はどうする?」。育休について考える際におすすめしたいのが、育休中のことだけではなく、これから長く続く子育て期間の働き方やお互いのキャリアプランについても最初に話し合うこと。共に働きながら二人で協力して子育てをするために、ぜひ自分たちらしいワーク・ライフ・バランスについて話をしてみてください。その上で、育休を「子育てと仕事の両立の準備期間」だと捉えて、どんな育休を取るのかを二人で考えてほしいと思います。
まず、パパの育休を考えるときに大切なのは、「取得の目的」と「やること(役割)」を明確にすることです。“取るだけ”の育休にならないためにも、まずは「出産直後のママをケアする」「ママと家事・育児をシェアする」「ママの職場復帰と入れ替わりで家事・育児を担当する」といった育休の目的と、それに沿った取得時期や期間を決めましょう。その上で、パパは育休中に何をするのか、自分の役割を具体的にイメージしてみてください。もし初めての子育てで想像するのが難しい場合は、家族会議をサポートするツールなどを参考に夫婦で話をしてみてもいいかもしれません。
また、育休の取得時期や期間を考える上での重要なポイントのもう一つが、保育園への入園時期。このタイミングで育休を終了するケースが一般的だからですが、ここで、入園までのスケジュールについて少し説明しておきましょう。
認可保育園の場合、4月が入園時期で、その前年の秋頃には翌年度の入園申し込みの受付が始まります。年明け1月になると入園の内定通知が届き、その後は説明会などに参加しながら入園準備を進める流れになります(もちろん定員に空きがあれば4月に限らず途中入園も可能)。
例えば、入園申し込み時期より前に子どもが生まれた場合は、翌年4月の入園に向け、妊娠中や出産後の時間を使って保活をします。一方で、出産予定日が入園申し込み時期以降の場合、子どもが生まれる前に入園申し込みをして翌年4月に0歳児で入園させるのか、さらに翌年に1歳児で入園させるのかを考える必要があります。ただし0歳児入園には受け入れ可能な月齢が設けられていることが多いので、1~3月生まれの場合は注意しましょう。
一方で認可外保育園は、空きがあればいつでも入れるケースがほとんどです。ただし入園するための条件はそれぞれの園によって違うので、料金や保育状況と合わせて確認が必要です。
このように、育休の取得期間は子どもの生まれ月が大きく関わってきます。また、実際に入園する保育園の場所は、その後の子育てや仕事との両立にとって重要なポイントの一つでもあります。そのため、保活を積極的に行うためにあえて保活の時期に夫婦二人で育休を取得するケースもあります。
パパの育休取得の目的が決まったら、実際に育休取得計画を立ててみましょう。ここでは目的別に取得パターンを紹介します。
ママが特に大変な時期は、「出産後」と「職場復帰時」の二つ。この時期に合わせてパパも育休を取得することで、ママをしっかりサポートするパターンです。
<出産後>
出産から退院後1週間程度は、ママが体の回復を行う大切な時期。「産後パパ育休」を活用して、パパは積極的にママをサポートしましょう。「産後パパ育休」とは、ママの産後休業中(8週間)に、パパが最長4週間育休を取得できる制度です。2分割できる上に、時間的な制限はあるものの育休中の就業も認められています。パパには、こういった育休が取得しやすい仕組みを上手に活用し、この時期はできる限り育休を取得してほしいと思います。また、里帰り出産の場合は、ママが自宅に戻るタイミングに合わせて取得するのもおすすめです。 *【産後パパ育休】の制度について詳しくみる
そしてこの時期の育休中のパパの役割は、ママの心と体をしっかりケアすること。例えば、出産に関わる公的手続きの申請や、赤ちゃんを自宅に迎えるための準備など、ママと赤ちゃんの退院前にもパパにできることはたくさんあります。また、ママが自宅に戻った後、ほかの家族からのサポートがない場合は、ママの負担を減らすためにも家事は全部自分でやるくらいの心構えで。子育てについては、ママにとっても初めてのことばかりです。「産後うつ」を防ぐためにも赤ちゃんをママに任せっきりにするのではなく、寄り添って一緒に子育てをしましょう。赤ちゃんの様子を聞くなどママの話し相手になることも大切です。また子育ての悩みに多く挙げられる「寝かしつけ」を分担してママの休養時間を作ったというパパもいます。私自身、この時期に積極的に子育てに関わったことで子どもがどんどんかわいく思えてきました。ぜひ育休を取って、いよいよ始まった子育ての楽しさを味わってみてください。
<ママの職場復帰時>
ママが育休を終えて、久しぶりに職場復帰をするタイミングも、パパが積極的にサポートしたい時期。この時期にパパが2回目の育休を取得するのもおすすめです。特に長期間の育休後に新しい職場で復職する場合や、子どもの保育園への入園など、ママにとって初めてが重なる場合はなおさらです。職場復帰タイミングのサポートについては、次のバトンタッチ型で詳しく説明します。
次に紹介するのは、産後パパ育休に加えて、ママが職場復帰するタイミングに合わせて、パパが2回目の育休を取得するパターン。
ママと入れ替わりでパパが育休を取るこのケースでは、職場復帰や子育てとの両立に不安を感じるママをサポートし、ママが新しい生活のリズムに慣れるまでは家事・育児どちらもパパ中心に引き受けるくらいのつもりで。特に子育てはママが安心してパパに託せるよう、それ以前から積極的に携わっておくことが大切です。そのためにも、できれば短期間でもいいので引き継ぎ期間を設けましょう。また、育休中は家事・育児を担う割合が増えますので、妊娠中から積極的に父親学級・両親学級などにも参加しておくことをおすすめします。バトンタッチ型は北欧など育休先進国ではよくある形だそうなので、今後はこういった形も増えてくるかもしれません。 *【北欧の男性育休】について詳しくみる
<ママの早期職場復帰に合わせてバトンタッチ>
子どもが保育園に入園する前にママが職場復帰する場合、入れ替わりで育休を取るパパの役割は、主体となって子育て・家事をすること。ママがリモートワークの場合でも、あくまでパパ主体という意識を持ちましょう。その上で、ママと相談しながら分担のバランスを考えてみてください。もし他の家族のサポートが必要な場合は、あらかじめ相談と段取りをしておきましょう。
<子どもの保育園入園と同時に職場復帰するママとバトンタッチ>
子どもが保育園に入園するタイミングでママが職場復帰し、保育園の慣らし保育期間にパパが育休を取得するケースです。慣らし保育とは新入園の子どもが安心して保育園に通えるよう、短い在園時間から始めて新しい環境に慣らす期間のこと。1カ月程度の慣らし保育期間に限り、育休中の保育園への入園が認められています。 通常、育休の対象期間は子どもが1歳になるまでですが、「パパ・ママ育休プラス」の制度を使えば、子どもが1歳までママが育休を取得していた場合でも、パパが1歳2カ月まで育休を取得することができます。ただし取得にはいくつかの条件がありますので、注意してください。 *【パパ・ママ育休プラス】の制度について詳しくみる
子どもの保育園入園後は、日中の子育ては園中心となりますが、入園したての時期には想定外のことも起こるもの。その際の保育園とのやりとりや対応は育休中のパパの役割です。また、仕事との両立に慣れないママを助ける意味でも、保育園に預けている日中は、家事を積極的に行いましょう。また、二人とも育休から復帰した後の予行練習期間と捉えて、今後の家事・育児の分担について考えるいい機会でもあります。
「産後パパ育休」に加えて、ママと一緒にパパも長期間の育休を取得する場合、育児・家事を分担できるだけでなく、さまざまな手続きや乳児検診、予防接種、また保活なども夫婦で協力して進めることができます。
このケースはまだ少ないのが現状ですが、比較的長期で取得するパパに多いのが、子どもが2人目以降のケース。最初の子どものときに「思うように育休を取れなかった」「もっと長く取っておけばよかった」と考えるパパが多いようです。
長子がいる場合、ママが赤ちゃんの世話をする間はパパが上の子を面倒見るなど、大人が二人いることで子育てがしやすい環境になります。長子が保育園に通っている場合は、日中はパパが積極的に家事を行い、ママが自分の時間を持てるようにすることも大切です。
育休を長期間取得する場合、時期によって家事・育児の分担やそれぞれの役割が変化していくのは当たり前のこと。都度、夫婦で相談しながら柔軟に対応し、育休後を見据えて自分たちに合う形や、やり方を見つけていってほしいと思います。
また、長期間の育休を取得したことで自分自身の働き方やワーク・ライフ・バランスを見つめ直す機会になったというパパもいます。実際に私も育休をきっかけに働き方を変えた一人です。子育ては、自身の人生観や仕事観にも影響を与える貴重な経験になるかもしれません。また人生のうち40年以上働くことを考えると、半年、1年という休業期間は決して長いものではないと私は思っています。ただし、育休を長期間取得する場合、6カ月目以降は給付金の支給率が67%から50%に減額となるので、その点はあらかじめ注意が必要です。 *【育児給付金】の制度をはじめとしたお金について詳しくみる
ここまで読んだパパは、「育休って大変だ…」とかえって尻込みをしてしまうかもしれませんね。不慣れな家事を一生懸命やったのにママのレベルに達しないと怒られてやる気を失うパパは多いと聞きます。また、やったことがないから、ママの方が得意だからと最初からママに任せてしまうパパもいるのでは?そして、子育ても初めての経験であればなおさら分からないことも多いと思います。先ほども言いましたが、育休はこれから長く続く子育てと仕事の両立の準備期間。パパもママもお互いに歩み寄りながら自分たちなりの家事レベルや分担の形を見つけていこうという気持ちが大切なのではないでしょうか。
「子どもは3歳になるまでに圧倒的なかわいさで、一生分の親孝行をする」と言われるように、日々成長する子どものそばにいて得られる喜びはかけがえのないものだと私自身実感しています。ぜひ育休とともに始まる子育てを、パパである男性にも楽しんでほしいと思います。
ここまでは、家族の中での育休の考え方についてお伝えしてきましたが、実際に育休を取得する際には、会社や職場の理解を得ることも重要です。そこで、育休の取得をできるだけスムーズに進めるために、職場でやるべき事前の準備や段取りについてもご紹介します。
育休の取得を決めたら、人事担当者に相談しましょう。国や地方自治体の育休制度のほか、会社で独自の育休制度を設けているケースがありますので、人事担当者に相談し、自身が活用できる制度について把握しておきます。具体的な育休取得日程が決まったら、育児休業申出書を提出します。基本的に休業開始予定日の1カ月前までに会社に申請しなければいけないことが法律で定められていますが、会社ごとに就業規則で設定されているケースもありますので、育休取得に向けた具体的な手続きについても事前に確認しておきましょう。
育休取得にあたっては、業務の引き継ぎや場合によっては代行者の手配が必要になりますので、申出期限にかかわらず、できるだけ早く直属の上司に相談しましょう。その際には、夫婦での話し合いをもとに決めた育休取得の希望取得時期や期間、現在の仕事の状況や今後の見通しについても伝えることで、上司も事前の準備が進めやすくなります。また、育休取得が自身や家族にとってどんな意味があるのか、なぜ取得したいのかをしっかり伝えたことで、周囲の理解と協力を得やすくなったという声もあります。
特に業務に直接関わる同僚には早めに報告しておきましょう。反応はさまざまかもしれませんが、育休取得は国の制度としてある権利の一つですので、後ろめたさを感じる必要はありません。ただ育休取得にあたっては、ほかの人に業務を補ってもらう場面がありますので、職場の理解と協力を求める姿勢が大切です。
まずは自分の業務を棚卸しし、可視化していきましょう。その後、誰にどの業務を引き継ぐのかを上司と相談しながら決定し、引き継ぎを進めていきましょう。どこに何のデータがあるのかが分かるように整理して書類にまとめたり、引き継ぎ書を作成したりしておくと、引き継いだ側も分かりやすくなり、休暇中の連絡が少なくなります。担当している顧客や取引先、社内の関連部署などもリストアップし、育休取得の報告や引き継ぎ先の共有などをしておくことも大切です。
国を挙げて男性育休の取得が進められていますが、残念ながら全ての職場で快く受け入れられているというわけではありません。上司や同僚から「男のくせに育休を取得するなんて」と制度の利用を阻害されたり、「重要な仕事は任せられない」と不当な扱いを受けたりしたら、それは重大なハラスメントです。
もしハラスメントを受けたら、受け流すだけでは事態は改善しません。個人の問題ではなく、会社の問題として、人事労務等の相談窓口や信頼できる上司、労働組合などに相談しましょう。社内での解決が難しい場合は、事業所を統括する都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に相談してください。匿名でも問題ありません。労働局が事業主と労働者の間に入ってトラブルを解決する制度もあります。
今年、大手企業を中心に行われた調査によると、男性の育休取得率は46.2%まで伸びており※、今後もさらに増加していくでしょう。日本の育休制度は世界一と言われており、国を挙げて男性の育休取得を推進している今、取得しなければむしろもったいない状況と言えます。
とはいえ、取得することそのものが目的ではありません。大切なのは、「子育ては二人で協力してやるのが基本」という考えをパパも持つこと。取得期間や時期にかかわらず、自分の都合や希望だけでなくママの気持ちにも沿う形で充実した育休期間を過ごすことができれば、これからの二人での子育ての素晴らしいスタートになるはずです。
もちろん男性の育休取得の流れはまだまだ道半ばですから、前例が少ない職場では、さまざまな声があるかもしれません。しかし、育休期間の家事・育児の経験が仕事にも好影響を与えることは、これまでの取得者の声からも分かっています。あなたが育休を取ることがまさに良い前例となって社内に男性の育休取得を広めていくことになるのではないでしょうか。たとえ短い期間しか取得できないとしても、短ければ短いなりに、もし長く取得できるのであればより一層、育休を夫婦にとって意味のあるものにできれば、それが子育てだけではなく仕事やキャリアへも良い影響としてつながっていくはずだと思っています。
※厚生労働省「イクメンプロジェクト」による「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」従業員1,000人超企業が対象