Tさん(55歳・医療事務職)
3年前からPython・PHPといったプログラミング言語を学び始めるも、現在はHTML・CSS・JavaScript・WordPressなどのWeb制作スキルを中心に習得中。
ミドルシニア 多様な働き方 「40代・50代 中高年からのデジタルスキル習得」
変化の激しい時代、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が急速に進み、デジタル人材化のためのリスキリングという言葉を耳にするようになりました。しかしミドルシニア世代の中には、「デジタルというだけで苦手意識がある」「デジタル用語が分からず会議についていけない」といった悩みを抱える人も少なくありません。キャリアのことを考えるとデジタルスキルを身に付けた方がいいことは分かっているものの、何をしたらいいのか分からず、足踏みしている人もいるのでは。
そこで、このシリーズでは、50代からデジタルスキルの習得を目指すミドルシニアにインタビュー。学び始めた背景や目的、学ぶことで得られたもの、今後のキャリア展望などを紹介しながら、はじめの一歩を踏み出すためのヒントをお届けします。
第1回に登場するのは、50代半ばのTさん。医療事務の仕事を続けつつ、これから先も長く働き続けるために新たに身に付けるならとデジタルスキルを学び始めました。学習の中でウェブサイトの制作に興味を持ち、副業として稼ぐことを目標にさまざまなスキルを習得するべく学び続けています。
※この記事の内容は、リリース当時(2024年10月現在)のものです。
※本文中に出てくる用語を含めた、「知っておきたいデジタル用語」をこちらの記事にまとめています。気になる用語があれば、ぜひチェックしてみてください。
Tさん(55歳・医療事務職)
3年前からPython・PHPといったプログラミング言語を学び始めるも、現在はHTML・CSS・JavaScript・WordPressなどのWeb制作スキルを中心に習得中。
もともとはアパレルメーカーで事務をしていましたが、結婚とともに退職。夫が転勤のある仕事ということもあり、どこでもできる仕事がしたいと考え、資格を取得して医療事務の仕事に就きました。ただ、同じ仕事をずっと続けていると、日々の仕事も単調に思えてきて。そんな中、夫が中小企業診断士を目指して勉強を始めたので、その影響も受けて、自分も何か新しいことを学んで稼げるようになれればと漠然と考えるようになりました。そんな時に、たまたま読んだ新聞記事に、今後プログラミング人材が不足すること、今から学べば、中高年でも在宅で仕事を受けられるまでになれる可能性があることが書かれていたんです。 今後デジタル技術が進化していくと、これまで人がやっていた仕事もAIに置き換えられていく可能性がある。どの業界にいてもそのリスクはありますし、自分も決して例外ではないと感じていましたので、むしろITを使いこなす側になりたいと思ったのが、学ぶことを決めた理由です。
パソコンは普段から使っていて、仕事でも、医療系の専門ソフトの入力作業をしています。特に苦手意識はなく、新しいツールを使うような場面でもむしろゲーム感覚に近く、楽しく感じますね。以前からゲームが好きで、クリアを目指して割と根をつめてやるタイプなので、夫にプログラミングの勉強を始めるかどうか相談した時も、「向いているんじゃないか」とすすめられました。
ITスキルを学べる学校に行ってみようと思ったのですが、年齢的に若い受講生を対象にしているところではついていけないかもしれないという不安はありました。中高年向けのスクールと出会い、全く何もできませんという人から、私と同じくらいのレベルの人、既に高いスキルを持っている人まで、それぞれのレベルに合わせてステップアップできる体制があることを知り、いずれは副業として稼ぐことを目標に学び始めたのが3年前です。
私自身、いずれは副業として稼げるようになることが目標だったので、データ分析などの仕事のニーズに合わせて最初は機械学習のPython(パイソン)の講座を受けていました。ただ、Pythonは少し数学的で、先生に教えてもらいながらであれば動かせるものの、自分で構築しようとするとなかなか難しい。習得するのに時間がかかりそうかなと判断して、途中からはウェブサイト制作(コーディング・デザイン)を学ぶ講座にシフトしました。ウェブサイト制作は自分がコーディングしたものが、ウェブデザインとして形になるのが楽しく、自分に合っているなと感じました。
はい。今はスクールで月に4回、主に土曜に3時間のグループレッスンを受講しています。ウェブサイト制作を学び始めて2年目に入ったころに、実際に学んできたことを活かせる機会もありました。夫の大学時代のラグビー部OB会がホームページを立ち上げることになって、作ってみないかと声を掛けていただいたんです。正直に言うと、夫が勝手に無料で引き受けてきてしまったんですが(笑)。ウェブサイト制作といってもゼロから作るわけではなく、比較的簡単にページ作成や更新ができるCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)もあるので、まあ、何とかなるかなと引き受けることを決めました。
完成までに1年ほどかかったんですが、もちろん苦労したところもありました。サイトの中にメンバーのみに限定公開するページを作ったのですが、そこで使うプラグインという機能がなかなかうまく動かなくて…。なので、分からないことは受講しているレッスンの中で何度も講師に相談しました。まずは仕事が終わった夜や休日を使ってレッスン前に自分で取り組んでみて、分からないことをリストアップ。それを週末のレッスンの時間に持ち込んで講師に聞き、解決することで、受講時間を有意義に使うことができ、納期に間に合わせることができました。
それと、実際に公開するサイトということで、スクールの授業の中で仮想サイトを作るのとは、真剣度が違いましたね。個人情報もあるのでセキュリティーも必要ですし、歴史あるラグビー部ということでデザイン的にもこだわって作りました。
ちょうどできあがったところなんです。予定通りラグビー部の大きなイベントに合わせて公開するとのことで、ちょっとドキドキしますね。今は新着ニュースや過去の戦歴紹介といった4つのコンテンツしかないサイトですが、OB会からの希望があれば、順次ページ追加などもしていきたいと思っています。(2024年7月取材時談)
Tさんが制作したWebページ 写真:Tさん提供
まだ一からコードを書くというのはハードルが高いかなと思っているのですが、実績を積みたいとスクールに相談したところ、「仕事として経験してみますか」という提案をもらい、スクールのウェブページ改修のお仕事をいただきました。WordPress(ワードプレス)を使って構築されたページの一部分のコードを作り直すのが主な仕事で、新しいツールも学びながら取り組んでいます。お試しという感じはあるものの、きちんとお金もいただく仕事として経験する機会をもらえたのはうれしいです。
仕事を受注できるクラウドソーシングのサイトに登録をしました。自分の実績をアピールするポートフォリオが重要になるので、今はそれを作成しているところ。スクールの先生いわく、コーディングとデザインの両方ができることが私の強みだということなので、そこをアピールして仕事が獲得できればと思っています。
ただ、仕事を獲得するには競争もありますし、日常的に触っていないとどうしても忘れてしまうので、学ぶことも続けていくつもりです。これまでに習得したHTMLやCSSだけでなく、JavaScriptも学んでみたいですし、ウェブサイト制作と関連があるGoogle アナリティクスを活用したウェブマーケティングも勉強したいと思います。
デジタルの世界は常に進化していて、ウェブサイト制作についても、新しいツールや技術がどんどん出てくるので、学び続ける必要があるんです。こう言うと、ずっと勉強しなくてはいけないなんて…と思われるかもしれませんが、どんな仕事でも新しいことを学び続けるのは重要なことですし、それに何よりもウェブサイト制作に取り組んでいると、夢中で1日があっという間に過ぎてしまう。できることが増えて、ゲームのようにクリアしていく感じが楽しいんだと思います。しかも楽しいだけでなく、実益にもつながる。将来的には医療事務の仕事と併せて、細く長く収入を得る、私のもう1本の仕事の柱にしていくつもりです。
※本文中に出てくる用語を含めた、「知っておきたいデジタル用語」をこちらの記事にまとめています。気になる用語があれば、ぜひチェックしてみてください。
デジタルスキルを使ってやりたいことが明確な人は踏み出しやすいと思いますが、それが見つかっていないと何から始めていいか分からないですよね。私もそうだったので、よく分かります。でも、「デジタルスキルを身に付けるために何かやった方がいいんだろうな」「プログラミングって流行っているんでしょ」というくらいの感覚を持っている人って実は多いと思うんです。
お話ししたように、私も始めたきっかけは「何か新しいものを学んで、それが副業につながれば」というくらいの感じでしたが、今は学ぶことで毎日が充実しています。なので、もし少しでも興味があるなら、やらないよりはやってみた方がいい。新しいことを習得するためにスクールに入って講座を受講するとなると、確かに少しお金はかかりますが、始めてみたら趣味としても楽しいと思えるかもしれないし、先入観で思っていたこととは違う何かを得られるかもしれません。そして、やってみて合わなれば、やめたらいいんです(笑)。 ただ、今後ますますデジタル技術と仕事や生活の関わりは深くなっていくでしょうし、日常生活に密着したスマホやパソコンを便利に使いこなすコツみたいなものも身に付くので、やってみて無駄にはならないと思います。他にも、プログラミングやウェブの勉強をしたことで、頭の中を整理整頓する考え方が身に付いたのも、私にとってプラスアルファのメリットだったと思います。少しでも気になるなら、まずはやってみて、続けるかどうかはそれから判断してもいいのではないでしょうか。
ここまでご紹介したTさんの体験談を通じて、ミドルシニアがデジタルスキルを習得する際に意識したいポイントについて考えてみましょう。
まずは、「どんなスキルを学ぶか」。
Tさんは、副業というゴールに向かい、まずは仕事の需要が多いスキルを学び始めたものの、途中で方向転換。より自分に合うスキルを学び続けることで仕事にもつなげています。
プログラミングの世界は裾野が広いため、最初から自分に合うものを分かって始められないケースも。その結果、多少の回り道をすることもありますが、その学びはIT/デジタルのリテラシーとして身に付きますし、まずはやってみようと一歩踏み出すことからキャリアの可能性は広がっていきます。「何から始めたらいいか分からない」と迷っている人は、どのスキルを習得するべきかを探すことも学ぶ過程の一つと考えて、まずは広く触ってみることから始めてもいいのかもしれません。そして、自分の中の正解に辿り着くまでの時間を考えると、そのスタートは早いに越したことはなさそうです。
そして、もう一つは「スキルを実践で活かすこと」。
Tさんはある程度の習熟度になった段階で無償であっても仕事を請けたことで、自信と実績を手に入れ、次の仕事へとつなげています。
日々進化を続けるデジタルスキルを学ぶことは、ある意味ゴールがないとも言えます。特にTさんのように今の仕事と全く違う分野のスキルを学んでいる場合、「仕事にするのは全てを習得してから」と考えがちですが、学びの途中の相談できる環境があるうちに実践に踏み出す機会があれば、チャレンジしてみることも大事なのではないでしょうか。
デジタルスキルの習得は、ミドルシニアの皆さんにとってもキャリアを広げるための選択肢の一つになりうる。もし気になっているのであれば、「デジタル」という言葉に身構え過ぎず、学び始めの一歩を踏み出してみてもいいのでは。