
働き方改革で兼業・副業やフリーランスの働き方が広がり、ジョブ型的な人事制度が導入されるなど、労働の現場ではさまざまな変化が起きている。こうした中で、法制度はどのような役割を果たすべきだろうか。早稲田大学教授の水町勇一郎氏に聞いた。
ジョブ型導入、副業・兼業促進で、働き方の多様化を進める
―労働市場と労働者にまつわる法制度を時代にフィットさせるため、現時点で最も重要な取り組みは何だと考えますか。
政府はこれまで、時間外労働に上限規制を設けたり、副業・兼業の解禁を通じて多様な働き方を促したりすることで、日本型雇用システムに内在する「正社員中心主義」の弊害を排除しようとしてきました。今後も、この取り組みを続けることが重要だと考えています。
日本企業は無期・直接雇用のフルタイム正社員を中心に据え、それ以外の人を非正規という、周縁的な存在として位置づけてきました。これによって正社員は、企業側の命令で受動的に働くようになり、キャリアオーナーシップを奪われています。賃金水準や雇用の安定性の面で、正規と非正規の間に格差も生まれました。
こうした弊害を取り除くための策の一つがジョブ型的な働き方の推進で、2024年にはジョブ型人事指針も公表しました。企業が社員をがんじがらめにするのではなく、「職務」を客観化することで、ジョブを軸とした労働者の主体的な移動を促したのです。同時にフリーランスや副業・兼業といった多様な働き方を普及させることで、働き手にキャリアオーナーシップを発揮してもらおうとしています。
一方で、勤続年数が長い人ほど退職金への課税が優遇される制度や、本業と副業・兼業の労働時間を通算して割増賃金を支払う仕組みなど、変化を妨げる法律もまだ残っています。今後は法的な障壁を取り除くと同時に、インセンティブによる政策誘導という「アメ」と規制という「ムチ」の両方を使い、働き方に中立的な制度を実現させていく必要があるでしょう。