両立支援 企業視点で考える「男性育休のすすめ」

男性育休積極企業に学ぶ:会社の本気度が何よりの育休取得の後押しに【株式会社広島銀行 (広島県)後編】

男性育休積極企業に学ぶ:会社の本気度が何よりの育休取得の後押しに【株式会社広島銀行 (広島県)後編】

男性育休の取得促進に積極的な企業はどのような取り組みを行っているのでしょうか。
『iction!(イクション)』は、だれもが望む形で育児とキャリアを両立できる社会の実現に向けて、その一歩となる男性の育休取得率向上のためのヒントやアイデアを発信しています。その一環で今回は自治体や企業向けに男性育休に関する研修やコンサルを展開する広中 秀俊さんをインタビュアーに迎え、企業へインタビューを実施しました。今回お話を伺ったのは、株式会社ひろぎんホールディングスのグループ企業である株式会社広島銀行。人事課の木下さんに会社としての取り組みについて伺った【前編】に続き、【後編】では、実際に育休を取得した従業員の山本 真さん、平前 幸大さんの2名にお話を伺いました。

※この記事の内容は、リリース当時(2024年1月現在)のものです。




男性育休が浸透しつつある職場だからこそ、取る前提で育休プランを夫婦で相談できる

広島銀行 人事総務部 担当課長昨年、育休を取得した総合企画部 山本 真さん(右)と曙支店 平前 幸大さん(左)

広中さん:まずはそれぞれのお仕事内容やどれくらいの育休を取得したのかを教えてください。

山本さん:私は現在、広島銀行の本店で財務担当として決算業務などに従事しています。育休期間は、2023年7~8月にかけての1カ月。第三子である長男の出生直後に取得しました。

広中さん: 三人目とのことですが、今回が初めての育休取得なのでしょうか。

山本さん:そうですね。長女(5歳)が生まれた時は里帰り出産で、妻と娘は実家に滞在していたので、自分がわざわざ休業して育児に専念する必要がなかったんです。次女(3歳)の時も休まなかったのですが、広島で出産。この時に家事・育児が回らなくてなかなか大変な思いをしました。当時の私は早朝に出社して帰宅するのは21時過ぎという生活。妻が一人で新生児の次女と2歳の長女を見なければならず、おまけに妻は出産後の体調が一人目以上につらそうで…。「三人目の時は、夫婦で臨まないと乗り切れないよね」と話していたこともあり、今回は妊娠が分かる前からまとまった期間、育休を取る前提で考えていました。

広中さん:たしかに、山本さんのように第二子以降のケースでは、しっかり育休を取りたいと思う男性は多いです。最初のお子さんの時に取らなかったことを後悔している人もいますし、上の子たちがまだ小さければ、その分だけ手がかかりますから。では、平前さんはいかがでしょうか。

平前さん:私は、広島市内の支店でコンサルティングアドバイザーとして主に個人の資産運用についてアドバイスする営業職をしています。初めての子どもで、生まれたのは2023年の2月。育休は、2023年の9月中旬に1週間取得し、10月の1カ月間は定時より1時間早い16:30終業の短時間勤務をしていました。

広中さん:平前さんはお子さまが生まれてすぐではなく、時期をずらしての育休なんですね。法律や就業規則で定めている期間内であれば、育休取得時期は本人の自由ですが、一般的には出生後すぐに取得する人が多い。平前さんがその時期に育休を取ったのはなぜですか。

平前さん:これは妻と話し合って決めました。出生後すぐよりも、生後半年くらいの離乳食が始まる時期に手がかかりそうなイメージがあったので、そのタイミングで大人の手が増えた方がいいのではないかと思ったんです。

広中さん:育休を取ること自体はご夫婦の中で最初から決まっていたんですか。

平前さん:実は、私たち夫婦は社内結婚で妻も在籍中のため、広島銀行が男性育休に力を入れていることや推奨取得パターンが提示されたことは夫婦共に理解していました。そのため、取る・取らないではなく、取ることを前提に「どう取得すると私たち家族にとって最適か」を話し合って決めた感覚ですね。



定型パターンからの選択方式が男性育休の取得を後押し。取得者は利用しやすく、上司は受け入れやすい

(図表1)ひろぎんホールディングスの男性育休の推奨取得パターンひろぎんホールディングスの男性育休制度方針

広中さん:広島銀行では、2022年4月の法改正に合わせて、男性育休の推奨取得パターンを作り、周知しました。そのことは、お二人の育休取得にどう影響していますか。

山本さん:制度内容はもちろんですけど、私の場合は大々的に社内に周知されたことが、取得の後押しになりましたね。今回は、家庭の事情もあって、上司ととことん話し合うことになっても育休を取るつもりでしたが、会社が男性育休の取得を推奨していたことにより、問題なく上司と職場の理解を得ることができました。

平前さん:私は子どもを授かったことが分かる少し前に、会社が男性育休取得を積極的に推進し始めたこともあり、先行事例がある状態で上司に妊娠の報告をできたことがありがたかったです。上司も男性が育休を取ることを当然の認識として話を聞いてくれました。

広中さん:制度の内容以前に、職場が取得を当たり前だと思ってくれていることがまずは重要だということですね。では、制度自体についてはどうでしょうか?「①1カ月以上の育児休業取得(分割可)」または「②5日以上の育児休業取得+1カ月以上の短時間勤務制度利用」のどちらかを家庭・仕事の事情を考慮しながら選択できるのが、広島銀行の男性育休の特徴ですよね。法律上も本人の事情に合わせて一定の条件の中で自由に取得することは問題ないものの、ゼロから考えるのではなく、会社が用意してくれた選択肢から選ぶやり方は、育休当事者の使い勝手としてはどう感じましたか。

山本さん:制度としてある程度の枠組みが整備されており、利用したいものをチョイスすればいい状態にしてくれているから、申請する側としても使いやすいと思いました。私はまとまった期間育休を取ろうと決めていたので➀を選びました。制度内容自体も、1カ月という期間が仕事との兼ね合いなどを含めて自分の希望にマッチしていたので良かったです。

平前さん:上司とも話が早かったですね。フルオーダーメイドであれば、「その希望は本当に可能なのか」とお互いに確認・問い合わせをする手間がかかりますが、会社として運用の検討が十分にされているやり方をベースに相談できたので、最初から上司と目線がそろっていた気がします。

広中さん:実際に育休を取得したことで、ご家庭ではどのようなメリットがありましたか。

山本さん:私の場合は産後1カ月に集中的に育児に参加したことで、妻が体調の回復に専念できたのが大きいですね。私が職場に復帰した今は、妻が主に三人の子どもたちに向き合っていますが、そのための準備期間にもなったようです。二人目が生まれた時よりも順調だと妻は言ってくれています。

平前さん:私は初めての子どもだったので、何も分からない状態から育児の理解を深める良い機会になったと思います。出産からしばらくは妻に頼りっぱなしだったものの、半年後のタイミングでも夫婦で育児の大変さを分かち合うきっかけになりました。



自分に合った育休を取得できたからこそ、思った以上のメリットが仕事にも生まれた

広島銀行

広中さん:仕事の面ではいかがでしょうか。山本さんは1カ月の完全休業なのでその間の業務の引き継ぎもしっかりとする必要がありましたよね。

山本さん:私の場合はチームで仕事に当たっており、普段からチーム内でお互いの担当業務は理解しているので、育休だからといっても引き継ぎ自体はそこまで大変ではありませんでした。むしろ、一緒に働く先輩たちも男性育休を理解してくれていて、「子どもの出生直後は家庭優先が当然。いつ休んでも大丈夫なように準備しておこう」と応援してくれたことがありがたかったです。

広中さん:なるほど。日頃から仕事をできるだけ属人化しない意識や仕組みがあって、その上で早めに伝えることで、育休に対する職場の準備も整うんですね。一方の平前さんはどうでしょうか。平前さんは、山本さんとは違い、お客さまに接する仕事ですよね。顧客からの反応はどうだったのでしょうか。

平前さん:私が1カ月の完全休業を選ばなかったのは、それも理由でした。短時間勤務なら日中にお客さまの対応はできるので、ご不便をおかけせずに済むかなと。ただ、実際にお客さまに1週間の休業と1カ月の短時間勤務をお伝えしたところ、むしろ皆さんに応援していただけて。「率先して新しい取り組みを実行するなんて、さすが広島銀行だね」と言っていただくこともありましたし、経営者のお客さまの中には「うちの会社でも制度化したい」と興味を持っていただいた人もいます。そんなふうにお客さまの理解もあったため、短時間勤務でも私が帰った後に代理対応が発生したことはほぼありませんでした。

広中さん:たしかに短時間勤務であれば仕事への影響が少なくて済みますよね。一方で育児参加の面ではどうでしょうか。全休ではなく短時間勤務という形であったとしても、会社の育休制度を利用した意味はありましたか。

平前さん:16時半に仕事を終えると17時台には帰宅できるので、子どもをお風呂に入れたり、妻が食事の支度をしている間に他の家事をしたりと、できることが格段に増えました。この点は妻も喜んでくれましたし、私自身も子どもと接する時間を持てたことはうれしかったですね。それに子育てだけではなく、仕事の面でも変化がありました。働く時間を1時間短くしたことで、これまでより一層、効率的に仕事をしようという意識が高まりましたね。それを1カ月続けると習慣になり、結果としてフルタイムに戻った今もほとんど残業せずに帰宅できるようになりました。



育休は夫婦のワーク・ライフ・バランスを考える出発点。企業は、取りたい人が取れる仕組みづくりを

広島銀行

広中さん:最後に、育休の経験者として男性の育休を促進したい企業や育休取得に迷っている男性にアドバイスをお願いします。

平前さん:男性・女性に関係なく、家庭のコンディションが良くないと仕事にも集中しづらいと思うんです。特に夫婦の関係性が良好でコミュニケーションが取れていれば、仕事のパフォーマンスにもいい影響がでるはずだと私は思います。子育て中の誰もが仕事と家庭にバランスよく向き合えることが、何よりも大切なのではないでしょうか。そうした働き方のベースを作る上で、育休取得は、男性が育児に専念したり、育児や家庭の比率を上げたりする機会として欠かせないものだと思います。

山本さん:女性の場合は、会社の制度にかかわらず育休を取得することが社会のスタンダードになりつつあると思いますが、男性は取りたくても会社の仕組みが整っていないとなかなか言い出せないのが、今の社会の実態だと思います。もちろん最終的にはそれぞれの家庭の事情に合わせて自由に選択すべきだとは思いますが、私たち家族のように父親も休まないと乗り切れない事情を抱えているケースも必ずあるはず。その時にちゃんと声を上げられるように、企業には仕組みを整えてほしいと思います。また育休を取得する側も、取ればよいというわけではなく、ちゃんと夫婦で話し合うことが大事。自分やパートナーのキャリアや家族の将来設計を二人で考えた上で、それを実現するために育休を取得するという意識が大切ではないでしょうか。



取材を終えて…

インタビュアーの広中さん(右)と広島銀行の新社屋(2021年完成)の社員食堂にて
インタビュアーの広中さん(右)と広島銀行の新社屋(2021年完成)の社員食堂にて

前・後編にわたってお届けしてきた株式会社ひろぎんホールディングスおよび株式会社広島銀行の事例はいかがでしたか。同社では全休の育休だけでなく短時間勤務も組み合わせた独自の制度を導入し、柔軟に選択できる仕組みにしたことが、取得率を大きく引き上げていました。社内での制度周知にも力を入れ、上司や周囲に男性育休の意義を深く理解してもらうことが、男性の育休取得のハードルを下げることに寄与しているようです。
そして実際に育休を取得した男性が、単に家庭に向き合う機会を得ているだけでなく、仕事へのモチベーションアップや生産性向上などの効果を語っていたのも印象的でした。その上、就職活動中の学生や顧客からもおおむね好意的な意見が届いており、企業が男性育休に取り組むことは、さまざまな経営課題の解決につながるメリットがありそうです。
また、ひろぎんホールディングスが男性育休に取り組むことは、広島県の中核企業として地域への波及効果の意味合いも大きいのではないでしょうか。そしてそれは、単に男性の育児参加や子育て世代の支援ではなく、地域の人手不足や人口減少の解決にもつながっていくはずです。職場にある長時間労働や性別役割分担意識を解消し、誰もが自分らしいワーク・ライフ・バランスを実現できる社会をみんなでつくっていくためにも、各地域の中核企業にこそ、男性育休に積極的に取り組んでいただきたいと思います。

「男性育休積極企業に学ぶ:育休によって「男性の育児」を職場の当たり前にする【株式会社広島銀行(広島県)前編】」はこちら

【インタビュアー紹介】

育Qドットコム広中秀俊さん

育Qドットコム株式会社代表取締役社長
広中 秀俊さん

東京都パパ育業事業 アドバイザー兼セミナー講師(令和4年度)
大学卒業後、ミサワホーム入社。2児の父親であり、厚生労働省から「イクメンの星」に認定される。2019年に独立。「育休で日本を元気に、世界を平和にする」をミッションに、男性育休が当たり前になる世の中を目指し、自治体や企業向けに研修やコンサルを展開。ファイナンシャルプランナーとしてお金に関するアドバイスも実施。



ピックアップ特集

この記事をシェアする

シェアする

この記事のURLとタイトルをコピーする

コピーする