「流産」「早産」は、起きてほしくはないことですが、働きながら妊娠生活を送るからこそ、きちんと前もって知っておくべきことでもあります。流産は全妊娠の約15%、早産は約5%の頻度で起こると言われています。基本的な知識と仕事を続けるうえでのアドバイスについて、産科医の竹内正人先生にお聞きしました。
「流産」「早産」が起こる週数と発生率
流産とは、妊娠22週よりも前に、赤ちゃんが子宮の外に出て亡くなってしまうことを指します。妊婦さんにとってつらいことですが、全妊娠の約15%に起こります。
一方、早産は、22週以降から37週未満に赤ちゃんを分娩することです。全妊娠の約5%と言われています。なぜ22週が流産と早産の境目かというと、赤ちゃんが子宮外でもなんとか助かる可能性があるのが22週以降だからです。しかし、早すぎる時期の早産は、赤ちゃんの発育が不十分で、NICU(新生児集中治療室)での治療が必要なことも多くあります。
流産の原因とは
流産の約80%は、妊娠12週より前の早い時期に起こります。これを「前期流産」といいます。流産をした人のなかには、自分のそれまでの行動の何がいけなかったのか、仕事をしていたせいか、などと思い悩み、自分を責める人が少なからずいます。でも、ほとんどの流産が卵子の染色体異常で受精卵が育たないことが原因。どんなに安静にしていたとしても、防ぐことができないものです。妊婦さんの日常の行動のせいではないし、もちろん、仕事をしていたせいでもありません。自分を責める必要はないのです。
流産のサインを見逃さないために
妊娠12週以降の「後期流産」では、細菌による感染症や子宮頸管のゆるみなどが主な原因になります。妊娠全体の約1.6%と言われています。
進行していく流産をくい止めることは難しいのですが、それでも予防のためにあえて言うとすれば、忙しい毎日でも健診は決して後回しにせず、きちんと行くことと、体調の変化に気をつけ、おかしいと思ったらすぐに受診することが大切です。流産が起こりかけるサインは、性器からの出血、おなかの張り、痛み、おりものの異常(褐色や赤、水っぽいなど)などです。このような症状に気づいたら、早めに主治医の診察を受けにいくことが大切です。
「切迫流産」とは
「切迫流産」とは、流産するかもしれない状態のことです。性器出血やおなかの張りといった症状はあるものの、おなかの赤ちゃんは生きていて、妊娠の継続が見込めそうな状態です。
多くのケースでしっかり診察を受けて様子をみていれば妊娠を継続できます。しかし、12週以降の切迫流産は、そのまま流産につながる可能性が少しだけ高くなります。主治医の指示に従って安静にしましょう。
万が一流産になってしまった場合...
もしも「流産」となってしまった場合、症状に応じて、胎児が自然に出てくるのを待つか、胎児とその付属物(胎盤のもとになる組織)を子宮外へ出す処置(子宮内容除去術)をするかを選びます。
働く妊婦さんでは、手術を選ぶ人が多いようです。手術そのものは10分ほどで済み、術後しばらくベッドで休んだ後、日帰りか1泊程度の入院で帰宅できます。出血が1週間ほど続きますが、体調が良ければ翌日から無理のない範囲で仕事をしても差し支えありません。
近年増えている早産
早産は、妊娠22週〜37週未満の期間に赤ちゃんが生まれることです。ですが、早産とひとくくりにしても、20週台と正期産に近い30週台後半では、赤ちゃんの発育の成熟度はかなり違います。
早すぎる週数で生まれた場合、たとえ設備の行き届いたNICUで治療を続けても脳室内出血やさまざまな合併症が生じ、赤ちゃんの生命が危険にさらされたり、後遺症を残すことがあります。そのため、子宮内環境が悪くない限りは、1日でも長くおなかのなかで育てるための治療がなされます。
早産は全妊娠の約5%に起こりますが、近年、増加傾向にあります。妊婦さんの年齢が高ければ、早産のリスクも高くなります。
早産予防のためにも仕事の頑張りすぎに注意!
切迫早産は、切迫流産と同様に、早産になりかけている状態です。しかし、切迫流産よりも切迫早産のほうが実際に早産に至る可能性が高く、およそ3割がそのままくい止めきれずに生まれてしまいます。
早産の原因として最も多いのは、細菌感染です。膣から入り込んだ菌が膣、子宮頸管、赤ちゃんを包む膜へと順に炎症を起こし、破水や陣痛が始まってしまうのです。清潔にしていれば防げる、というわけではなく、体力が落ちている時に、普段ならどうということのない菌に感染してしまうことがあります。そのためにも、仕事の頑張りすぎによるストレスや睡眠不足には気をつけて。
切迫早産と診断されると、即入院となる場合があり、仕事を続けられなくなります。そうならないためにも、疲れをためずに働くことが大切です。
万が一早産になってしまった場合
もしも早産の進行が食い止められず、分娩となった場合、赤ちゃんの体重、発育状況などを総合的に評価して、NICU(新生児集中治療室)やGCU(回復治療室)、保育器などで治療やケアを受けます。
NICUで小さな赤ちゃんがたくさんの管につながれている様子をみて、少なからずショックを受けるお母さん・お父さんは多いのですが、日本のNICUは世界的にも高水準であり、適切な医療を受けさせてあげることができます。
大変だとは思いますが、毎日母乳を搾乳して届けることは、赤ちゃんの発育を促進し、病気への抵抗力を高めることにもつながり、大きな意義があります。
著者プロフィール
※プロフィールは、取材当時のものです。
産科医 竹内正人
日本産科婦人科学会専門医。2006年より東峯婦人クリニック勤務(東京都江東区・副院長)。より優しい「生まれる」「生きる」をめざし、地域・国・医療の枠をこえて、さまざまな取り組みを展開する行動派産科医。マタニティー&ママのための鍼灸アロママッサージ院「天使のたまご」顧問。
著書・監修『はじめての妊娠&出産~おなかの中を可視化する!』『はじめてママ・パパになる!Happy妊娠・出産オールガイド』『はじめての妊娠・出産 安心マタニティブック』など。
「カムバ!」では妊娠週に応じた赤ちゃんの様子、アドバイスのページも監修。
竹内正人HP
All About「妊娠・出産」ガイド 竹内 正人
マタニティー&ママのための鍼灸アロママッサージ院「天使のたまご」