働く女性が安心して子どもを産み育てられるように、法律で定められている「産休」と「育休」。この「産休」と「育休」の取り方次第で、職場復帰後の働きやすさが変わるそうです。5児の母でありながら、社労士として数々の企業とワーキングマザーをサポートし女性活躍を推進してきた菊地加奈子さんに、 知っておくべき制度の注意点やポイントを具体的に伺いました。
きちんと理解したい「産休」と「育休」について
まずは、産前産後の休業について確認しましょう。労働基準法においては、「産前6週間(多胎妊娠は14週間)以内」 に出産する予定の女性が請求した場合は産前休業を取らせることが義務づけられています。 また、出産後8週間は働く側の請求の有無を問わず産後休業を取らせなければなりません (ただし産後6週間を過ぎた女性が請求し医師が支障ないと認めた業務につかせることは可能)。
会社によっては、産前産後8週ずつ、10週ずつなど、独自の規定を設けるところもあります。 産前産後休業では給与の代わりに「出産手当金」があるのも忘れずに。 健康保険から標準報酬日額の2/3の額が支払われる給付金制度です。
また育児・介護休業法では、「産休明けから1歳になる前日まで」が「育児休業(育休)」として定められています。 「保育所への入所を希望し、申し込みをしたが入所できない場合」、「配偶者が養育する予定だったが、 病気などにより子を養育することができなくなった場合」など、一定の場合には、1歳6カ月間まで延長が可能です。 育休期間にも給与の代わりとして「育児休業給付金」が支給されます。 これは、雇用保険から育児休業を開始した時の賃金日額の50〜67%が支払われます。会社によっては、 有給の育休を認めているところもあります。自分の会社の就業規則は確認しておきましょう。
会社に制度がなくても、要件を満たした社員が申し出た場合、会社はこれを拒否することができません。 また、産前と産後の休業を通算で取れる会社の場合は、産後の休業を長めに取得するなど、自分で選択ができる場合もあります。 制度については各職場で確認して、早めに取得のスケジュールを申し出ましょう。 申し出は、休みたい日のおおよそ1カ月前までに(会社によってルールが異なります)、必要事項を書いた書面などを提出して行います。
実は男性の方が取りやすい育休
育休は女性だけが取れる制度と思われがちですが、男性も取得できます。 しかし、男性の育休取得率は2.3%とかなり低いのが現状(2014年度厚生労働省発表)。 まだまだ男性の取得は浸透していませんが、実はメリットも多いんです。
会社を休むことができるだけでなく、育休取得した場合は、実は男性にも女性と同じように 「育児休業給付金」が支払われます(育休前に12カ月以上その会社で働いていれば、180日までは休業開始時賃金日額の67%、 以後子の1歳の誕生日の前日(1歳6カ月)まで50%(上限約28.5万円)までを支給)。厚生年金と健康保険の支払いも免除されます。
ここでお伝えしておきたいのは、男性は女性よりも断然、育児休業を取りやすいということ。 というのも、出産日から産休や育休が自動的に決まる女性とは違い、男性は休業期間を業務の内容やスケジュールに合わせて自由に選択できるから。 繁忙期などを把握しておけば、出産予定日や仕事の状況を踏まえて休業時期と期間を調整できるのです。 職場への負担も考慮しながら、育休取得を目指してみてはいかがでしょうか。意外と育休は取得しやすいものですよ。
育休期間を2カ月延ばせる制度!パパママ育休プラス
ふたりで育児休業を取ることで休業期間が延びるお得な制度「パパママ育休プラス」についてもご紹介しましょう。
2010年より施行された「パパママ育休プラス」は、女性と男性の両方が育休を取る場合、特例として、 休業を取れる期間を1年から1年2カ月へと延長できるというものです。また、原則育児休業は1回のみの取得ですが、 出産後8週間以内(産休中)に男性が 育休を取得した場合、 特例として育休の再取得が認められます。 女性側が働いているか専業主婦かにかかわらず、すべての男性が育児休業を取得できるようになっていますが、実際には、女性(妻)が 職場に復帰するタイミングで再取得する、というパターンで利用する方が多いようです。
これは男性側の育休期間を設けることで、女性の職場復帰を支えようと考え、作られたものです。 ぜひパートナーと話し合って作戦を立てられると良いですね。 こうした制度を利用することで、女性の職場復帰の際に心に余裕が生まれるだけでなく、その後の男性側の育児力もグッと上がるので、 パートナーとの育児生活があとあとになって、とても楽になりますよ。
企業にとってもプラス!「男性育休」のススメ
こうした、男性の育休取得を促進させる制度が増えてはきたものの、まだまだ取得割合が低いのも現実。 「いくら制度があっても、仕事を抜けられそうにない」という声も多いようです。 ですが、先ほど挙げた給付金以外にも、男性の育休取得のメリットとして、男性自身が効率的に働けるようになることも付け加えておきたいです。
実際に育児をされるとわかると思いますが、育児中は赤ちゃんのお世話につきっきりになります。 自分が自由にできる時間ががくぜんとするほど少なくなりますよね。育児以外の時間で用事をこなすためには、短時間でいかに効率を上げるかが、 重要になります。このような状況下で成果を残すために努力を重ねると、次第に段取り力を身につけることができます。 育休を経ることをきっかけに働き方が変わり、職場復帰後に圧倒的なパフォーマンスを発揮する人が、実は多いのです。 仕事ができる「イクメン」を増やすためにも、企業側も男性の育休を推進していくでしょう。
すでに、「男性が、育休を取れる会社」は社会的にも好意的に受け止められることが多く、 男性の育休取得率を会社情報として出す企業もあるようです。さらに男性からの子どもの話題は職場の潤滑油になることも。 男性の育休取得は、会社にとっても社会にとってもプラスの影響を及ぼすといえるのではないでしょうか。
育休中に試す価値あり!月80時間までの「慣らしワーク」
産休と育休の期間は仕事とは少し距離を置くことになりますが、職場復帰の際に「長期間の休業で完全に<ママモード>になっていた自分が、 <仕事モード>にちゃんと戻れるのだろうか」と心配になる女性も多いかもしれません。 そんな方には、育休中からゆっくりと段階的に仕事モードへとシフトさせていくことをオススメします。
一つの方法としてぜひトライしてほしいのが、短時間の「慣らしワーク」。 会社や仕事場の雰囲気に慣れることができる働き方です。育休期間は「〈育児だけ〉に専念するための期間」と考えてしまいがちですが、 実は雇用保険法により月80時間までなら就労が認められています。 「育児休業給付金」をもらっていても、働いた分の給与(休業前の80%以内)は会社から受け取れますよ。
育休中に「慣らしワーク」として週に2日間だけ出勤、もしくは在宅ワークをすることで、 仕事に向けて心とからだの準備ができ、職場復帰もスムーズになるでしょう。「一時預かり保育」などに子どもを預け、 この時期から子どもと離れる時間を設けることで、子どもにも徐々に保育園の環境に慣れてもらえるのでオススメです。 会社側に働く意欲を見せつつ、自分自身のリハビリにもなりますよ。企業によっては前例がないと取得が難しい場合がありますが、 あらかじめ産休前の引き継ぎの過程で、「慣らしワーク」の仕組みを職場に提案したり、 「アシスタント的な仕事をさせてください」とお願いしておくと、実現の可能性も高まるでしょう。
制度を使うにあたって忘れないでほしいこと
仕事と出産・育児を両立させるには、必然的に周りの人からの協力が必要となります。 ですが、実は私が社労士としてお伺いする企業で起こるトラブルの多くは、妊娠期の女性と会社側との間で発生しています。 特に一人目の妊娠時は、つわりなどで体調がつらいと、どこまでからだに負荷をかけていいか不安になってしまい、 過剰に自分の立場を守ってしまいがち。遅刻早退や欠勤が増えてしまう人もいます。 もちろん当然の権利なのですが、サポートしてくれている同僚や上司に対する感謝の気持ちや、体調が落ち着いてからのフォロー、 休業前の業務の引き継ぎをしっかりするなど、円滑に育休を取れるための工夫ができるといいですね。
出産を経て、子どもを育てながら働くということは簡単なことではありません。 しかし、長い視点から見てみれば、出産・育児の期間は人生の中でも、仕事生活の中でも、実はとっても短いもの。 パートナーと協力し、制度をうまく活用しながら、両立に前向きに取り組んでいただければと思います。
著者プロフィール
※プロフィールは、取材当時のものです。
特定社会保険労務士 保育園「フェアリーランド」園長 菊地加奈子
株式会社フェアリーランド代表、厚生労働省中央育休復帰プランナー、神奈川県地方創生推進会議委員。
早稲田大学商学部卒業後、総合商社の子会社から大手銀行の教育研修機関を経て、妊娠・出産を機に退職。 専業主婦として3人のお子さんのママとして子育てを行いつつ、社労士の資格を取得。
社会保険労務士事務所の代表を経て、2012年に株式会社フェアリーランドを設立。 2013年に保育園「育みの家 フェアリーランド」を開園。 女性活躍推進・イクボス育成・ワークライフバランスコンサルティングといったテーマを中心に 企業と女性の双方をサポートする活動を精力的に展開。現在5児の母。
社会保険労務士法人ワーク・イノベーション
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