仕事を続けながらの妊娠生活。仕事、食べ物、運動、美容...からだをきちんと気遣いたいけれど、何をどこまでやっていいのか悪いのか、線引きがわからず不安も多いもの。働く妊婦さんが気になるいろんなことを、産科医の竹内正人先生にお聞きしました。
≪通勤≫満員電車は?自転車通勤は?車の運転は?
妊娠中の通勤は体力的な負担はありますが、体調さえ良ければ日々の暮らしにリズムがついて規則正しい生活が送れるメリットがあります。 やってはダメなこととして、つわりがつらい時期にギュウギュウの満員電車に無理して乗ること。 押し出されて転ぶ心配もありますし、吐き気などの消化器症状がひどくなる可能性もあります。 男女雇用機会均等法で妊婦には時差出勤が認められていますので、通勤時間や乗るルートなどを工夫しましょう。 また、発車数秒前の電車にダッシュで乗り込むのも避けてください。
電車の駅などで配布しているマタニティマークをバッグなどにつけるのもおすすめです。 最近は一般でも知られてきて、気づいた人が席を譲ってくれることが多くなりました。 まだおなかが目立たない時期こそ役に立ちます。
自転車や車での通勤は、人によっては注意力が散漫になるので十分に注意を。 事故さえ起こさなければ直接妊娠に悪い影響を与えることはありません。
≪仕事≫立ち仕事は?出張は?夜勤は?
仕事を続けるうえで、慢性的に疲労を感じるような状況は問題です。そうでなくても妊娠中は血液が薄まり、疲れやすいもの。 立ちっぱなしの仕事は、自分ができると思えるなら続けて大丈夫です。でも疲れたな、と思ったらすぐに休めるよう、 傍らに椅子を置くなど工夫をしておきたいですね。それが許されない職場ならば上司に体調について相談し、 配置転換で軽易な業務に変えてもらうよう、交渉しましょう。 力仕事も、おなかが張りやすくあまりおすすめできません。
出張は、行ってもかまいませんが、度重なる場合や長期の出張は避けたほうがいいでしょう。 万が一、出張先で出血が起こり、駆け込んだ病院で切迫早産と診断されれば、そのまま生まれるまで入院することになる可能性もあるからです。
深夜業務は、疲れやすい妊娠中は不向きです。これには労働基準法の母性保護規定があって、妊婦さんが勤務先に申し出れば免除になります。 こうした法律での規制は、行わなければ雇用者(会社や勤務先)が罰せられるという強制力のあるものです。
≪食べ物≫外食は?コンビニ弁当は?
特に気になるのは仕事中の食事についてでしょう。外で働いていると、食事は基本的に外食のケースが多いでしょう。 コンビニのお弁当を買ってそのままデスクで...という人もいると思います。 結論から言えば、外食やコンビニだからダメ、ということはありません。大切なのは何を食べるのか、その内容です。
メニューの偏りがないよう、いろんなものを食べるようにしましょう。 いろんなものを、というのは、時々、気に入ったものばかり食べる「ばっかり食べ」が問題になるからです。 例えばヨーグルトが気に入ってヨーグルトばかり食べると糖分や脂肪の摂りすぎが気になります。 魚は胎児の脳の発達によいオメガ3系の脂肪を含むスーパーフードなのでおすすめですが、 毎日マグロばかり摂ると、今度は水銀の問題が気になります。色々なものを食べることはリスクの分散にもなります。 毎日、野菜のビタミンや肉・魚のたんぱく質を必ず摂って。便秘予防には食物繊維として海藻類や根菜もよいでしょう。
また、妊娠中の人が気を付けなければならない生もの(生肉や非加熱のチーズなど)はもちろん避けたほうが良いでしょう。 トキソプラズマという寄生虫やリステリアという細菌が胎児の病気を引き起こすことがあります。
≪飲み物≫コーヒー・紅茶は?お酒は?炭酸飲料は?
コーヒーや紅茶など、カフェインを含む飲み物は、一切飲まないほうがよいという方もいますが、少しなら飲んでもいいと思います。 ただし、1日に2~3杯くらいまでにとどめましょう。カフェインは胎盤を通過し、おなかの赤ちゃんに移行します。 大量に摂りすぎると流産や低出生体重児のリスクが高くなります。 職場にカフェインレスのデカフェや妊婦向けのハーブティを常備するなどぜひ工夫を。
お酒も、妊娠中はできるだけ飲まないようにしましょう。アルコールが胎児に移行し、 胎児性アルコール症候群や、成長した子どもの行動問題に発展する可能性が指摘されているからです。 ジュースやコーラなどの炭酸飲料は、たまに飲む程度ならOK。 でも意外に多量の糖分を含むので、毎日ペットボトル1本飲むような人は、他の飲み物に切り替えるようにしましょう。 つわりで食べられない時期でも水分だけは摂ってほしいですが、色々なものを試して、 気分がすっきりするお気に入りのドリンクを見つけましょう。糖分を含まない炭酸水や、ルイボスティーなどが役立った、 という声もよく聞きますよ。
≪美容≫パーマは?ヘアカラーは?まつエクは?ネイルは?
職場では、外見に気を遣うことは日々必要なことでしょう。 パーマやヘアカラーは、それ自体が胎児や妊娠に悪い影響を及ぼすという報告はないので、行ってかまいません。 まつ毛のエクステなども同様です。ただし、長時間同じ姿勢で座っているのがつらかったり、においに敏感になったり、 肌が荒れやすくなる妊婦さんがたまにいます。おかしい、つらいと感じたら無理はしないこと。
ネイルもかまいませんが、臨月近くなったら落としておきましょう。万が一、緊急帝王切開になった場合、 指先にパルスオキシメーターという機器をとりつけ、酸素飽和度を測るのに障害となります。 また、医師や看護師は、顔色のほかに爪の色などで妊婦さんの体調を判断することがあります。
ふだん家で使うシャンプー、リンスやスタイリング剤などのヘアケア製品が何か妊娠や胎児に影響した、という報告は聞いたことがありません。 自分が使って気持ちがいいもの、肌質に合ったものを使うのがいいと思います。
≪健康≫マッサージは?サプリは?歯の治療は?
マッサージや整体、鍼灸などは、おなかに影響のない姿勢で、妊娠中だと伝えても施術してもらえるならばかまいません。
サプリメントは、飲んでいいものとダメなものがあります。 葉酸など、妊婦さん向けと謳われているものなら飲んでもいいでしょう。 一方で、ビタミンAは大量に摂取すると胎児に影響が出る可能性があると言われています。 このため、ビタミンAを含むサプリを同時に何種類も摂ることはおすすめできません。 大豆イソフラボンも、サプリからの摂取は推奨されていません。(食事での大豆製品の摂取はとてもいいことです。) 栄養は食事で摂るのが基本なのですが、もし飲みたいサプリがあれば、主治医に見せて、飲んでもよいか聞いてみるといいでしょう。
また、歯の治療の際のX線や麻酔注射を心配する人がいますが、局所のみであるため、妊娠には影響はありません。
≪職場・レジャー≫カラオケは?飲み会は?
同僚たちとのカラオケ、歓送迎会、職場でのボーリング大会、バーベキュー、温泉での慰安旅行など、 さまざまなおつきあいに絡んでの行事があると思います。妊娠中だからダメ、ということはあまりなく、 体調さえ良ければ無理のない範囲で参加してかまいません。
一つ基準を挙げるとすれば、自分のペースで行動できない行事は避ける、ということです。 参加してみたものの、途中で疲れたり、気分が悪くなったりすることは十分考えられます。 そんなときに、休んだり、退席してもいいか、事前に断りを入れてから、参加するようにしましょう。 バーベキューでの生肉はNG。もちろん、お酒は飲まないでくださいね。温泉は入ってかまいません。
悩むことがあれば主治医にどんどん質問を
これらの日常生活のアドバイスは、週数や体調、これまでの妊娠経過によってOK、NGの答えが変わることがあります。 自分で「これってやっても大丈夫かな?」と疑問に思うことは、メモしておくなどして、健診のときに主治医に聞いてみましょう。 ご自身の体調と照らし合わせてアドバイスをくれるはずです。
著者プロフィール
※プロフィールは、取材当時のものです。
産科医 竹内正人
日本産科婦人科学会専門医。2006年より東峯婦人クリニック勤務(東京都江東区・副院長)。より優しい「生まれる」「生きる」をめざし、地域・国・医療の枠をこえて、さまざまな取り組みを展開する行動派産科医。マタニティー&ママのための鍼灸アロママッサージ院「天使のたまご」顧問。
著書・監修『はじめての妊娠&出産~おなかの中を可視化する!』『はじめてママ・パパになる!Happy妊娠・出産オールガイド』『はじめての妊娠・出産 安心マタニティブック』など。
「カムバ!」では妊娠週に応じた赤ちゃんの様子、アドバイスのページも監修。
竹内正人HP
All About「妊娠・出産」ガイド 竹内 正人
マタニティー&ママのための鍼灸アロママッサージ院「天使のたまご」