男性の育休取得率が33.1%(2022年度)と全国平均の約2倍!広島県は、なぜ男性育休をリードする自治体になれたのか
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2024年01月12日
男性の育休取得促進は、現在、日本が国を挙げて取り組んでいるテーマ。企業だけでなく全国の自治体も地域の企業・個人に向けてさまざまな働きかけを行っています。その中で、全国平均のおよそ2倍の33.1%の男性の育児休業取得率を誇るのが広島県です(2022年度実績)。女性の取得率に比べればまだまだ道半ばとはいえ、全国平均を大きく上回る水準で取得率が向上しているのは、なぜなのでしょうか。
そこで『iction!(イクション)』では、広島県 商工労働局 働き方改革推進・働く女性応援課 課長の大山 利恵さんと主査の上川 晶子さんにインタビュー。広島県における男性育休取得の現状や、自治体・企業の取り組みについて伺いました。
※この記事の内容は、リリース当時(2024年1月現在)のものです。
知事自らが育児のための休暇を取得。リーダーが率先することで男性育休が県内の企業・個人にも波及した
― はじめに、広島県が男性育休に取り組む背景や位置づけを教えてください。
広島県では、2020年に「30年後のあるべき姿」を構想し、その実現に向けた取り組みの方向性を示した「安心▷誇り▷挑戦 ひろしまビジョン」を策定しました。30年後のあるべき姿からバックキャストで導き出した「10年後(2030年)に目指す姿」には、「仕事も暮らしも」「欲張りなライフスタイルの実現」といったキーワードが含まれており、男女分け隔てなく仕事と家庭や子育てといった暮らしを両立できることは、そこに通じる大切なテーマになっています。また、ひろしまビジョンには17の施策領域があり、その一つが「働き方改革・多様な主体の活躍」、その一環として私たちは男性の育休取得促進に取り組んでいます。
― 広島県の2022年度の男性育休取得率は33.1%。全国平均の17.13%と比較するとおよそ2倍です。また、過去にさかのぼってみても、2010年以降、常に全国平均を上回る水準で上昇を続けています。この結果は何が影響しているのでしょうか。
(図表1)「男性の育児休業取得率推移」
2010年は、本県知事の湯崎 英彦が、知事として全国で初めて育児のための休暇を取得した年です。それ以前の広島県は他の自治体よりも特別に男性の育休取得率が高かったわけではなく、県の取り組みとしてもまずは女性の支援をという時代でした。それが、知事自ら率先して取得することで、県として男女共同参画社会のありたい姿を示すことになった。当時の世間の反応としては賛否両論ありましたが、結果的には「男性育休」そのものの認知度が高まり、ポジティブに受け止める空気感へと変わっていったように思います。
― 県のリーダーである知事自らが率先して育児のための休暇を取得したことが、県内の男性育休に対するムードを変えたのですね。その意味では、県庁の男性職員の皆さんの動向も気になります。
現在、県庁職員における男性の育休取得率は8割を超えています。子どもが生まれたら男性も一定期間育児に専念するのは当たり前という認識になってきており、100%取得を目標として掲げて促進しています。実際の取得期間としては、1カ月未満の取得が多いものの、入庁時から男性育休を当たり前に見てきた若手職員の中には、6カ月~1年程度取得している人も少しずつ増えてきています。知事が最初に道を示したように、地域における促進の旗振り役である県の職員が自ら率先して取得していこうというムードを感じます。子どもが生まれる男性はもちろん、上長である管理職も同じ意識で部下の育休を応援しています。だからこそ、取得率8割という高い数字が実現できているのだと捉えています。
男性育休の取得促進成功の秘訣は、経営者が経営課題の解決につながるテーマとして取り組むこと
― 広島県は、男性の育休促進施策としてどのような取り組みを行ってきたのですか。
県としては、 2010年度から「男性育児休業等促進宣言企業登録制度」を設け、運用を開始。まずは企業経営者の男性育休に対する認識やスタンスを変えていく意味で、企業に男性育休の取得促進をコミットしてもらい、実績を出した企業には奨励金を出すという施策でした。その後はさらに、経済界と一緒になって活動を盛り上げるべく、2013年度より「イクメン企業同盟ひろしま」という企業経営者の同盟が立ち上がっています(後に育児を応援する上司の育成という目的も加えた「イクボス同盟ひろしま」に発展)。
こうした時代を経た現在は、2022年の法改正が大きな後押しになり、男性の育休取得を促進する取り組みは次の段階に入ったと認識しています。男性育休が社会の当たり前に近づくことが期待されるからこそ、これからは男性育休だけにフォーカスして特別に取り組むというよりも、人手不足などの経営課題の解決や持続的な事業成長に欠かせない「ダイバーシティ経営」を実現するためのテーマの一つだと位置づけています。県内の企業に対し経営者や管理職向けの各種研修を実施しており、その中で男性育休の取得には上司や同僚の協力が不可欠であると伝えています。加えて、まだまだ企業単体では取り組みの歴史が浅いからこそ、地域全体でノウハウを共有していくために、「男性育児休業取得促進の取組ベストプラクティス」を募集。地域の優良事例から学び合える状態を目指しています。
― 男性育休実現のヒントを地域全体で蓄積し、発信しているのですね。企業の取り組み事例から見えてくる共通点や育休促進の秘訣はありますか。
例えばある社会福祉法人では、理事長が従業員に向けて「男性育休取得100%」の目標メッセージを配信。トップダウンで、職場を「男性も育休を取るのが当たり前」という雰囲気に変えていったことが、取得率の大きな伸びにつながっています。また、ある従業員40名弱のものづくり企業でも、社長が全体朝礼の場で「女性だけでなく男性も仕事と家庭を両立させていくために、積極的に育休を取得してほしい。子育てを通じて視野を広げ、仕事にも生かして成長してほしい」と、男性育休の推奨を表明。その結果、2020年から男性の育休取得率100%を継続しています。
また、普段から一つの業務を複数の人が担えるようにしておき、誰かが休んでも別の人でカバーできる「多能工化」もキーワードだと思います。業務が特定の人に依存しないようにすることで、男性の育休に限らず休みが取りやすい環境づくりをしている企業もあります。
― 知事の率先した行動により県内の空気が変わったように、企業もトップがどのようなメッセージをするかが重要なのですね。
育休を取りたい男性は、「自分が休んだら迷惑がかかるのでは」という不安がありますし、管理職である上司としても「応援したい気持ちはあるけれど、業務はうまく回るだろうか」と心配していて、現場の自主性に任せるだけではなかなか進みません。会社のトップである経営者が自らの言葉で、男性育休は働く個人にとっても企業経営にとっても意味があると伝え、推奨していくこと。そうやってはじめて、社員の皆さんも安心して取得に向けて動けるのではないでしょうか。だからこそ県としても、経営層や会社の管理職向けの研修を実施し、支援をしています。
男性育休の浸透には、個人や企業だけでなく「地域社会全体での意識変化」が必要
― 全国よりも早く男性育休が浸透しはじめているからこそ、広島県では男性が実際に育休を取りはじめたことで新たな課題も見えてきたのではないですか。
男性の取得率が高い県とはいえ、33.1%(2022年度)という実績は女性と比べればまだまだ道半ば。一番のテーマは引き続き男性の育休取得自体を当たり前にしていくことです。ただ、対象者の約3分の1が取得するような地域になったことで見えてきたこともあります。それは、育休の中身。育休を取ったのはいいけれど、実態はほとんど育児に参加していない“取るだけ育休”や、育休期間が短すぎて家事育児があまり身につかず、職場復帰後は結局妻に任せきりになってしまうのでは、育休を取得した意味がありません。
育休はあくまでも子育てにおけるスタートライン。本当の意味での子育ては、夫婦ともに仕事に復帰してからが本番です。夫も妻も、仕事と暮らしを両立できるようにするための準備期間として取り組めるように、私たちも支援していきたいです。
― 男性が育休を取りやすくするには、企業(経営者、上司、同僚)の認識を変えることだけでなく、配偶者や家族、地域の皆さんの意識を変える必要もありそうですが、県としてどのような働きかけをしていますか。
広島県と株式会社サンフレッチェ広島との女性活躍・男性育休の取得促進連携協定(2021年7月14日締結)
地域全体に向けては、男性育休というテーマについてあまり堅苦しくし過ぎず、楽しく理解を深めてもらうことを意識しています。具体的には、地元のサッカーチームである「サンフレッチェ広島」を、男性育休促進のサポーターとして「広島県イクメン推進アンバサダー」に任命。元選手で現在は同チームアンバサダーの森﨑浩司さんに企業を訪問していただき、男性育休の取り組みを紹介する動画を広島県の公式YouTubeチャンネルで展開しています。
また、家庭に向けてはそれぞれの夫婦における理想の役割分担を考えるきっかけとして「家事・子育て分担表」というツールを提供。出産直後や育休後の状況をイメージしながら話し合ってみることで、夫婦が納得してともに子育てに向き合う支援をしています。実はこのツールは、もともと女性向けの仕事と育児の両立支援で使っていたもの。妻の両立支援に夫の存在が欠かせないように、夫の育休を考えるには妻の状況や希望を踏まえることが絶対に必要で、行きつくところは同じなのだと感じました。
― それでは最後に、社会全体で男性育休がもっと当たり前になるために、広島県として目指していることや取り組みたいことを教えてください。
広島県が究極に目指しているのは、一人ひとりが豊かな人生を送れること。そのためには、「男性は家庭を妻に任せて働くのが当たり前、女性は子育てをするのが当たり前」というまだまだ根強い性別役割分担意識の改革を進め、仕事と家庭や子育てといった暮らしを、二者択一的な関係から共に充実できる関係に転換していきたいです。 そのためにはただ理想を掲げてメッセージを発信するだけでなく、男女が共に仕事も暮らしも両立できる方が良いのだという具体的なメリットを感じられることが必要。例えば、男性が育休を取りやすいように働き方改革を進めても、単に残業を減らすだけでは企業は労働力不足に陥ってしまいます。そうではなく、一人当たりの生産性を高めることで企業の業績を向上させ、それが働く個人にも還元されれば、時間面でも収入面でも豊かになる。そういった具体的なメリットを地域と一緒につくっていくことが、これからの男性育休の促進にも必要だと考えています。
広島県 商工労働局 働き方改革推進・働く女性応援課 課長の大山 利恵(右)さんと主査の上川 晶子さん(左)
取材を終えて…
今回のインタビューで象徴的だったのは、広島県の男性育休が、知事のアクションをきっかけに大きく促進されていったことです。男性の育休取得を社会や組織の中で促すには、制度をつくるだけでなく育休を推奨するムードづくりが必要不可欠であり、それにはトップが自らの言動をもって発信していくことが大きな一歩になると感じました。 また、全国をリードする広島県が見据えるのは、男性の育休取得のさらに先にある、男女分け隔てなく仕事と暮らしを両立できる社会の実現。男性育休を「働き方改革・多様な主体の活躍」につながる施策の一つとして、働き方改革や人手不足の解消なども含めた包括的な施策・支援を行っていこうとする印象を持ちました。
私たち『iction!』も、夫婦におけるキャリアと育児の両立という視点から、男性が育休を取得することが男女どちらにとっても働き方やキャリアの幅を広げることにつながると考えています。また、「労働時間が長い」「長期休暇がとりづらい」といったワークスタイルや、職場での男女格差につながる性別役割分担意識がまだまだ根強い日本社会にあって、男性の育休取得が、性別や世代を問わず働き方を変える一つのきっかけになりうる。誰もが自分らしいワーク・ライフ・バランスを実現できる社会につながっていく可能性が感じられるインタビューでした。
『iction!』では、広島県内の男性育休の促進に積極的な企業にもインタビューを行っています。男性の育休取得を社内に浸透させた秘訣や育休促進のさまざまな効果や影響について語っていただきました。ぜひ合わせてお読みください。
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