全国平均を上回る男性育休の取得期間を実現した株式会社MIXI。その秘訣とは…?【前編】
企業事例 、 職場マネジメント 、 ダイバーシティ 、 産休・育休 、 ワーク・ライフ・バランス
2024年11月08日
日本における男性の育児休業の取得率は年々上昇しており、2023年度は30.1%と過去最高の実績になりました。一方で、取得期間については、およそ4割(37.7%)が2週間未満にとどまっているのが現状です。そんな中で、平均取得期間が約4カ月という実績を誇る会社が、デジタルエンターテインメントやライフスタイル、スポーツの領域で事業を展開する株式会社MIXI(ミクシィ)。なぜ同社では、長期間の男性育休が実現しやすいのでしょうか。
その秘訣を探るべく、『iction!』ではMIXIの皆さんにインタビュー。2回にわたってお届けする記事の前編では、人事本部労務部の清崎 浩平さんと飯田 悦子さんに、人事制度の設計・運用の工夫を伺いました。
※この記事の内容は、リリース当時(2024年11月現在)のものです。
フルリモートワーク・フレックスタイム・リザーブ休暇・ケア休暇…誰もが柔軟に働ける・休める仕組みの導入によって、男性育休が当たり前の職場に
左から人事本部労務部の清崎 浩平さんと飯田 悦子さん
― 本日は男性育休について伺いたいのですが、まずは前提として、MIXIが目指す社員の働き方やワーク・ライフ・バランスについての考えを教えてください。
清崎さん: MIXIでは、人材こそが最大の資本という考え方の下、多様な従業員が集い、一人ひとりが個性を発揮しながら長期的に活躍していける姿を目指しています。そのために、会社としては誰もが働きやすい職場環境・ワークスタイルの整備に取り組んできました。
例えば働き方でいえば、「マーブルワークスタイル」という出社とリモートワークを組み合わせた働き方を導入(2020年から試験運用、2022年に正式制度化)しました。組織単位で出社とリモートワークのバランスを自由に選択できるのが特徴で、部署によってはフルリモートワークも可能です。また、通勤手段を飛行機や新幹線などにも拡大し、通勤交通費を上限15万円/月に。12時までに自組織のあるオフィスへ通勤できるのであれば、日本全国どこでも居住可能です。これにより、人材採用の面ではMIXIの拠点から離れた場所に住む優秀な人材にもリーチできるようになりました。また、社員が育児や親の介護といった事情で毎日の通勤が難しくなっても、退職をするのではなく働き方を変えることで継続的に活躍してもらいやすくなりました。
加えて、2023年4月からは働く時間の自由度をもう一歩進め、フルフレックスを試験導入。一人ひとりのライフスタイルに合わせた働き方を支援しています。
― 「働く時間」と「働く場所」を柔軟にすることで、多様な属性・ライフステージの社員が活躍できる状態を実現しようとしているのですね。
清崎さん:その意味で、もう一つMIXIがこだわったのが「休み方」です。2021年に導入した「リザーブ休暇」は、期限内に利用できず失効してしまった有給休暇を最大40日まで積み立てて、私傷病や慶弔、妊活、ファミリーケアなどに有効活用できる制度です。また、2023年に新設した「ケア休暇」は、社員自身と家族の体調不良時に活用できるもので、年度ごとに12日付与しています。
この制度のポイントは、育児や介護を目的とした需要を想定しつつも、特別な事情のある社員だけが行使できる権利ではないこと。MIXIは、かつては20~30代が中心の会社でしたが、近年は30~40代が中心になってきており、平均年齢が徐々に上昇することでライフステージの変化を経験する社員も増えています。また事業拡大に伴って社員構成も多様化しています。属性を問わず全ての社員が幅広い理由で活用でき、どんなライフステージでも働きやすい制度を目指しました。
― では、男性の育休取得については何か特別な支援を行っているのでしょうか。
清崎さん:「男性育休」にフォーカスして特別な施策を打っているわけではないんです。先ほど申し上げた通り、あくまでも目指しているのは多様なライフスタイル・ライフステージの社員が活躍できる状態。そのための仕組みを整備し運用するうちに、結果として男性の育休取得率や取得期間が伸びていきました。
制度はあくまでも手段。土台にあるのは“お互いさま”のカルチャーと社員に寄り添ったサポート体制
― とはいえ、男性育休の平均取得期間4カ月というMIXIの実績は、世の中平均と比較するとかなり驚異的です。特別な支援なしにここまで推進できるものなのでしょうか。
飯田さん:私は制度以上に「風土」の影響が大きいと感じています。当社には「男性も育休を取るのは当たり前」という感覚が根付いています。それは、第一に子育て中の社員が増えているというボトムアップの作用もあるのですが、加えて経営陣も今まさにパパ・ママとして奮闘している世代が中心だということも大きいですね。
経営会議の場でも、「子どもを迎えに来る幼稚園バスが遅れているから、会議に5分遅れます」という連絡が普通にあるようです。経営陣が、育児の大変さを当事者として実感しているし、その意識が伝播して育休を取得した男性管理職も増えてきた。だから「大変なときはお互いさま」「次はあなたが育児に専念する番」という気持ちで男性の育休を応援している社員が多い気がします。
― なるほど。そういった社内の雰囲気があれば、育休を取ろうと考えている男性社員も気軽に相談しやすいですよね。その意味では、人事にもたくさんの相談や問い合わせが入ってくるのではないでしょうか。男女で比較すると、男性に特徴的な相談はありますか。
飯田さん:男性の場合、人事評価や給与(賞与)への影響を気にする社員 が多い印象があります。もちろん女性も気にはなっていると思うのですが、身体的に休まざるを得ない女性に比べて、男性は休むか休まないか、休む場合も、いつ・どれくらい取るか…と選択の幅が広い。選択次第で何が変わってくるのかを理解した上で検討したいというニーズが強い印象です。
だからこそ、私が育休前の人事面談で意識しているのは、社内制度を丁寧に説明すること。国の育休制度、社内の休暇制度の説明に加えて、社会保険料や賞与などについてはテクニカルな話も含めてご説明しています。例えば、「月をまたいで30日休業すると、賞与計算上は2カ月控除されてしまうから、可能なら月初~月末で30日休んだ方が影響は少ない」といった具合です。
― 男性が育休を取得する場合、その期間の収入面に不安を感じる家庭は多いので、具体的なアドバイスをもらえるのは、大きな安心材料になりますね。
飯田さん:また、育休を検討している社員が役職者の場合は、メンバーの人事評価を気にするケースもありますね。“お互いさま”の風土があるとはいえ、「メンバーのキャリアに関することで迷惑はかけたくない、ちゃんと自分の責任で評価してあげたい」という思いからの問い合わせなのだと思います。そこで人事としては、休む前に上長評価をテキストで準備してもらうことで評価に反映されるように対応していますし、あえて人事考課の時期を外して休む社員もいます。重要な仕事や繁忙期を避けてスケジュールを調整するのが不可能ではないのも男性育休ならではですから、人事の私たちも一人ひとりのニーズに寄り添ってサポートしています。
従業員のウェルビーイングを優先した制度運用が、結果的に男性育休の取得率や取得期間のアップにつながった
― 実際にはどのように育休を取得している男性が多いのでしょうか。
飯田さん:面談で各種休業制度について紹介すると、一般的な育児休業にMIXIの「リザーブ休暇」や「ケア休暇」を組み合わせて長期休暇にしている社員が 多い印象ですね。これは、有給の期間をなるべく多くしておきたいという意図が関係しています。また、リザーブ休暇があれば最大40日=約2カ月のお休みが取得できるので、公的な育休制度(無給の育休)は使わずに、MIXIの休暇制度の範囲で休む“実質育休”にしている社員もいます。
そのため、当社の男性育休取得率は30%台後半ですが、“実質育休”も含めると子どもの出産後1年以内に長期休暇を取っている割合はもっと高いと思います。同様に、 育休取得期間は公式には平均4カ月なものの、ほかの休暇と組み合わせてもっと長く取っている社員たちが多い状況です。
― 実態が公式の数字よりもさらに進んでいるとは驚きました。MIXIの男性がそこまで育休を取れるのは、制度や風土を支える人事からのアプローチも影響しているのではないですか。
清崎さん:取得率・取得期間などの数字を全く意識しないわけではないのですが、私たちがそれよりも重視しているのは、多様な休暇ニーズへの柔軟な対応 です。さきほど飯田から申し上げたように、一人ひとりのニーズに丁寧に寄り添い、それぞれに合った最適な休みを取れるようにサポートしてきたことが結果に表れているとしたら、嬉しいですね。
― 育休を長期間取得する男性が多いMIXIですが、育休から復職した後の両立支援へのサポートなどもあるのでしょうか。
清崎さん:これも育児と両立する社員のための支援というよりは、基本的にはほぼ全ての従業員を対象にリモートワークやフルフレックスといった選択肢がありますので、その中で必要に応じて上長とも相談しながら活用しているという状況です。また、MIXIでは時短制度があり、男性の育休の面談でも興味を持って聞いてくる社員もいますね。
― 男性で時短を選択する人はまだ珍しいように感じます。MIXIでは時短制度に何か活用しやすい特徴があるのでしょうか。
飯田さん:制度上、1カ月単位で勤務時間を見直せる運用にしているので、気軽に始めやすいのではないでしょうか。例えば、復職した月は1日5時間からスタートして、6時間、7時間と徐々に長くしていき、4カ月目にフルタイムに戻すというやり方もできます。収入面への影響を最小限にとどめた“ちょっとお試し”ができるのがポイントかもしれません。また大前提として職場を含めた周囲の理解があることも大事だと思います。
― MIXIとして、育休取得者のサポートとしてさらに意識したいことや取り組みたいことがあれば教えてください。
飯田さん:最近は、男性育休の休業前面談が週4件入っているときもあるくらい、以前にも増して男性にとって自分事になってきていることを感じます。ただ、それに伴って出産予定日が近づいてからの駆け込み相談が増えてきたのも事実です。準備期間が短いと、本人にとって納得のいく休み方にならない可能性もあるので、なるべく早めに相談をもらって上司や人事がサポートできる状態にしていきたいです。
男性育休をはじめとした両立支援の秘訣は、制度だけではなく「使いやすい風土」をマネジメント層と一体でつくること
― 最後に、全国の平均と比較し、男性の育休取得期間が長い企業として、取得日数を増やすためのアドバイスをお願いします。
清崎さん:長く休むことが必ずしも正しいわけではなく、子どもが生まれる家庭それぞれに最適な選択肢があるのだと私は思います。これは男性の育休取得に限ったことではなく、それが何であれ従業員が望む働き方を周囲が理解し応援してくれることが重要だと考えます。ただ、そうした空気は経営陣や上司のスタンスが如実に反映されるものだとも思うので、いかに経営・マネジメント層と一体となって取り組むかが大切なのではないでしょうか。
飯田さん:私も同感です。社外の方々とこのテーマで話をすると、「制度はあるけれど使いにくい(休みづらい)」という話をよく聞きます。大切なのは、制度を活用できる風土があること。MIXIでは育休を長く取る男性が珍しくなくなりましたが、それによって大きな問題は上がってきていません。それはやはり「当たり前」と「お互いさま」の風土があるからだと私は感じますし、このカルチャーが根付いているのは、経営層が自ら実践したり、共感する姿勢を示してくれたことが大きいのではないかと思っています。まずはそこから始めてみてもいいかもしれないですね。
人事担当者のお二人と、後編に登場する育休取得者とその上司の皆さん
ここまでは、株式会社MIXIの男性の育休取得への考え方や取り組みについて、人事担当者へのインタビューをお届けしました。
MIXIで特徴的なのは、男性社員の育休取得が進んだ理由がその取得率や取得期間を意識した施策によるものではなく、さまざまなライフステージにいる社員が活躍できる状態を目指した結果だということ。誰もが取得できる環境だからこそ長期休暇にも“お互いさま”の文化が浸透し、結果として男性社員が数カ月の育休を取ることが当たり前と言える今の姿があるのではないでしょうか。
後編では、実際に2~3カ月の育休を取得した男性社員とその上司にインタビュー。比較的長期間育休を取った理由や長期間だからこそのキャリアへの不安、また上司としての職場マネジメントや取得者への思いについて話を聞きました。ぜひ後編もお読みください。
全国平均を上回る男性育休の取得期間を実現した株式会社MIXI。その秘訣とは…?【後編】はこちら