6月10日、リクルートキャリアは『海外最新研究に学ぶ「リーダーシップと自分らしさ」の両立』と題して、未来の女性ビジネスリーダーに向けたセミナーをパソナキャリアと共催しました。第1部では株式会社Warisの小崎亜依子氏より、自身が翻訳・構成を担当した「女性が管理職になったら読む本」ギンカ・トーゲル著、日本経済新聞出版社)をもとに「自分らしいリーダーシップのあり方」について講演がなされました。第2部では株式会社アビームコンサルティング、株式会社神戸製鋼所、スリーエム ジャパン株式会社、株式会社リクルートライフスタイル、4社の女性リーダーを招き、普段の業務の中で心がけているリーダーシップの発揮の仕方について パネルディスカッションがおこなわれました。
女性がリーダーになりたがらないのは何故?
小崎氏は講演の中で、女性がリーダーになりたがらない理由として、社会全体の 「女性はこうあるべき」という無意識の偏見と「リーダーはこうあるべき」という偏見との 間にギャップが存在していることを挙げます。
一例として女性らしい特質についてアンケートを取得すると、「優しい」、「周囲への気遣い」、「良い聞き役」、といった共同的な特質が挙げられ、リーダーらしいと認識される作動的な特質と女性らしい特質がほぼ真逆の結果となったと言います。
「女性は思いやりがあって、 利他的である」という社会全体の認識のもとに育つことで女性自身の考え方や行動にも 影響を及ぼし、女性自身が「リーダー的な存在であってはならない」 と思い込んでしまう傾向があるのではないか、と指摘します。
女性が得意とされる資質が今の時代のリーダー像にマッチしている?
一方で、今の時代は女性が持つ資質こそリーダーに求められている、と小崎氏は話します。 リーダーシップには「交換型リーダーシップ」というインセンティブを用意し達成したら 報酬を与える、という従来型のアメとムチのやり方と、「変革型リーダーシップ」 というメンバーが自主的に動くように内面にある価値観を変革していくやり方の大きく 2つあります。
変化と競争環境が激しく、新しいイノベーション創出が求められる今の 時代においては、メンバーのひとつひとつの行動を管理するマイクロマネジメント型の 交換型リーダーシップより、メンバー自身が新しいビジネス、アイディアを見つけるよう 促す変革型のアプローチの方が有効、と言われています。
小崎氏は、今の時代に求められるリーダーシップに必要な資質は、 従来「女性らしさ」とされてきた資質であると話します。
「変革型リーダーシップに必要な資質として、主に4つあると言われています。 1つは、信頼ですね。その人らしさに溢れた魅力で、みんなに尊敬される資質。 2つ目はモチベーション。メンバーに対して、仕事の意義を実感させることでモチベーションを 高める資質。3つ目は刺激、『どんな意見をいっても問題ないよ。意見に制限を設けないので、 どんなものでもテーブルに出してください』という雰囲気を作れる資質。最後はコーチング。 メンバーの幸せや能力開発に高い関心をもって、それをサポートしていく資質。 この4つの資質が得意なのは、さまざまな論文をまとめると、男性よりも女性という 結果がでています。」(小崎氏)
仕事で発揮する自分らしさとは?
時代が求めるのは変革型リーダーシップ、つまり女性らしいとされる資質を活かした リーダーシップであるものの、多くの女性が「100%の条件を満たしていないと手を挙げられない」 「自己宣伝をするのをためらってしまう」「仕事の成功を自分の力によるものと考えない」など、 自分を過小評価してしまいがちだと言います。小崎氏はこうした傾向について、 求められているリーダー像が変わってきているのだから従来のリーダーらしさという型に 嵌る必要はなく、自分らしくいることが重要だと話します。
「ただ、『自分らしい』ってどういうことなんだろうって、すごく議論しました。 ひとつ、『自分らしい』というのは、決して楽な場所、 コンフォートゾーンに留まることではないんですね。 『私、こういう風にしているときが一番楽だから、こういう風にしよう』と。 そういうことではなくて、自分らしさというのは、自分の奥底にある価値観、 自分が実現したいと思うビジョン、社会。そこまで大げさじゃなくても、日々の業務の中で、 『自分だったらこうした方がいいんじゃないか』、『こういう価値を実現したほうがいいん じゃないか』といった、日々の改善項目を目標に反映する。それが自分らしいリーダーシップ、 自分らしさということなんですね。」(小崎氏)
自分らしい選択の背景にある考え方とは?
つづくパネルディスカッションでも、各社の女性社員から自分らしく働くための 工夫について同様の内容に言及がありました。神戸製鋼の小倉氏は、 目の前の仕事をコツコツやる中でプラスアルファの改善を積み重ねることでキャリアが 広がっていったと話します。
「基本的に何かを選択する際に、簡単な方と難しい方だったら、 できるだけ難しい方を選ぼうと思って業務に向き合ってきました。 やってみてだめだったら戻ってこようと。今、やっている業務でも、 その中に何か改善点はないか、何かこういうふうにしたらもっと良くなるんじゃないか、 という視点はずっと意識しています。」(小倉氏)
スリーエム ジャパンに勤める宮下氏は、元々は看護師としてキャリアを始めたそう。 その後、留学・転職の後、現在の職場でマーケティング業務に携わる中、小倉氏同様、 恐れずに行動し続けることの重要性を話します。
「行動をしていると、新たな道を見つけたり、チャンスを拾うことができて、 そこで道が拓けるのかなと思います。今スリーエムという会社でマーケティングをして いると英語が必須なわけです。留学をした際は、マーケティングに携わろうと思って 英語を覚えたわけじゃなかったんですけど、何かやりたいと思ってやったことって、 きっと後々何かしらの形でつながっていくんだなと思います。自分らしく働くために は、やりたいことをやり続ける。そしてそれをアピールし続けることを心がけています。」(宮下氏)
リーダーとして意識している事とは?
リクルートライフスタイルでグループマネジャーとして現在約70名の営業メンバーを 率いる小沢氏もマネジメント職に携わった当初は、やる事ばかりをメンバーに 指示してしまった事でメンバーが辞めてしまう、という失敗を経験したそう。 こうした経験を踏まえ、現在は「やる事」ではなく「考え方」を伝えるように しているといいます。
「『目標達成のためにはこれが必要だ』ということをメンバーに指示してきたことが一 番の失敗でした。成果を出している方々に直接話を聞き、自分との違いが何か 言語化した結果、やる事ではなく、考え方を伝えるということを意識しています。」(小沢氏)
またアビームコンサルティングで執行役員としてプロジェクトを統括する織田氏は リーダーシップにおいて「相手の立場に立って共感すること」「多様性を尊重すること」 を意識しているといいます。
「今の時代は非常に生き方が多様化していて、それぞれの人の人生や仕事の捉え方も様々です。 自分の想像の範囲を超えていることもあるんですね。その事を認識して、 その人の働き方とか、生き方を尊重した上でチームを作って、 仕事を進めていくようなリーダーシップというのはかなり心がけています。」(織田氏)
こうした違いがあるという前提に立った際に、 意見の違いを言葉にして伝えるという点はとても重要であると話します。
「男性的な言葉で言うと『これくらい言わなくてもわかるだろう』。 女性的な言葉で言えば『察してください』。そういう風に思うことってあるんですけど、 たいてい伝わらないんですね。伝わらない事で生まれるちょっとの差が、 だんだんと溝になっていくという事は、これまでの経験の中でありました。 なので今は『伝える』、『はっきり言う』ということは重視しています。」(織田氏)
イベントを通じて講演者の小崎氏、ならびに各社で活躍する女性社員から、 自分らしいリーダーシップを発揮するにあたって、共通して「行動すること」 「伝えること」「違いを理解し合うこと」といったキーワードに言及がなされました。 講演の最後では小崎氏から来場した女性たちにメッセージが贈られました。
「自分らしさを抑えているのって自分自身だったりすることって結構あると思います。 私も時短で働いていた際にリーダーをやらないか、という打診を『時短なのでできません』 と断り続けていました。ですが、仕事の進め方って誰が決めたわけでもないんですよね。 18時に電話が掛かってきても『時短なので帰りました。』と言えばいいだけじゃないかな、 と気づいて。誰かが止めているんじゃなくって、自分が止めていたんだな、 ということに気がつく。そんなこともあります。自分を解き放って、自分らしく、 ちょっとずつ前進してください。」(小崎氏)
◆参考情報
女性が管理職になったら読む本 ―「キャリア」と「自分らしさ」を両立させる方法 ギンカ・トーゲル (著), 小崎 亜依子 (翻訳), 林 寿和 (翻訳)