両立支援 「共働き夫婦 家事育児の実態~夫のホンネ、妻のホンネ~」
「働きやすい」だけでは意味がない? なかなか進まぬ女性のキャリア|vol.05
iction!の取り組み 、 調査レポート 、 共働き 、 キャリア
2019年08月15日
「週5日勤務の共働き夫婦 家事育児 実態調査2019」〜夫のホンネ、妻のホンネ〜
夫婦ともフルタイム勤務、それに近い働き方をしている共働き世帯を対象とした調査結果報告。最終回は、働く価値観や職場環境についてお伝えします。 行政だって企業だって、様々な取り組みで女性が働きやすい環境を整備していますし、女性の力が社会から期待されているのは事実。では、肝心の働く女性たちはどのような想いでいるのでしょうか。仕事と家事育児の両立に対する男女の意識の違いから、女性のキャリアについて考えます。
※本連載記事は、「夫婦ともに週5日以上勤務かつ、1日平均6時間以上勤務の世帯」を対象とした調査結果をもとに構成しています。詳しい調査対象については、こちらをご覧ください。
ワーキングマザーの働きやすさが向上している一方で、父親が取り残されている
今回調査した夫婦は、いま働く職場環境をどう感じているのでしょうか。仕事と家事育児を両立していくうえで鍵となる「働き方の柔軟性」について訊ねてみると、男女によって自身の職場環境の捉え方に違いが見えてきました。
女性は、「子どもの発熱など急な用事が入ったときに仕事を休みやすい(61.9%)」「仕事と子育ての両立に関して社内関係者の理解がある(57.6%)」「仕事と子育ての両立に関して社内関係者が協力的である(42.3%)」と半数前後の割合で現在の職場が両立しやすい環境だと回答。フルタイムもしくはフルタイムに近い働き方をするワーキングマザーが一般化していく流れの中で、女性の働きやすさは着実に向上しているようです。
しかし男性の場合、上記3項目が当てはまると回答した人は1〜2割程度。その一方で「仕事の進め方を自分でコントロールできる」人は37.7%と女性より高い数値を示しています。つまり、男性は4割近くが自分の裁量で仕事を進められるのに、家事育児を理由とした遅刻・早退・休暇が取りづらいと感じているのです。男性の家事育児参加率が依然として低い背景には、本人の意欲だけでなく職場の上司・同僚たちの無理解や配慮に欠ける言動も影響していそう。言い方を変えれば、「女性だけが」家庭と両立しやすい職場環境になっている状態とも考えられます。
家庭が最優先だけれど、働くことは人生における大事な要素
このように、仕事と家庭の両立に向けては男女で職場の理解・協力に大きな違いがみられたことを踏まえ、今度は「仕事観」にも注目してみましょう。
「仕事より家庭を優先したい」と回答した人は、女性で7割以上。男性も半数以上は家庭優先だと回答しており、二人とも一定時間以上を仕事に費やす夫婦であっても、家族を犠牲にしてまで仕事を優先したいとは思っていない人が多数派です
しかし、仕事の優先度が必ずしも低いわけではない様子。「仕事は自分の人生において重要な要素だと思う」と回答している人は、男性67.9%、女性57.4%。「自分の仕事にやりがいを感じている」割合も男女とも過半数を超えており、ホンネでは「どちらも大事」だと思っている人が多いと言えます。
職場の理解が、夫婦の役割意識に影響している
では、男女ともにホンネでは仕事も家庭も大切だと考える人が多いのに、女性の方がキャリア形成や昇進について悲観的で、会社からの評価や仕事を通したやりがいをある程度諦めているのはなぜでしょう。この意識の差がなぜ生まれているのか、私たちは追加調査(※)を実施しました。
※第一次調査と同一家庭を対象に追加調査を呼びかけ、600世帯から回答を得ている。内、夫婦の労働時間にあまり差がない共働きで、夫婦ともに週5日以上&1日平均6時間以上働くという条件に該当する、490世帯の回答をもとに分析、 詳細はこちら。
「子どもの発熱など、急に保育園のお迎えや看病などが必要になった場合」というケースを想定して、夫婦のどちらが対応すべきだと思うかを訊ねてみると、女性の9割以上が「自分(妻)が行くべき」だと回答。男性の場合、「自分(夫)が行くべき」と考えている人は3割程度しかおらず、多くの家庭にとって、仕事を調整して子どもの対応をするのは、妻の役割になっていることが分かります。
また、同じようなケースが発生したときに仕事を休みづらい理由も調査。男性の方がより休みづらいと感じていることは他の調査結果からも明らかなものの、その理由は男女でやや傾向が異なりました。
たとえば、男性も女性も休みにくい理由は「自分の仕事を代わってもらえる人がいない」がトップ。しかし、女性の場合は「周りの目が気になるから」と職場環境や人間関係を理由にする人が多いのに対して、男性の場合は「急にずらせない仕事や会議が多い」と業務上の理由を挙げる傾向が強いのが特徴です。
これは、もちろん仕事の性質や役職・役割の違いによるところも大きいでしょう。しかしその一方で、男性は女性よりも「(休むことに)社内の理解がない」と回答しており、この結果からも男性が家事育児のために仕事を調整することは、女性よりも困難が多いという今の職場事情が垣間見えます。
働く時間の長さで評価している限り、「女性活躍」は進まない!?
このように「男性(夫)の休みにくさ」は、女性が家事育児を率先して引き受けざるを得ない要因になっていると考えられ、夫婦間の話し合いだけでは解決できない、社会全体の構造上の問題とも言えます。
その一方、仕事上のキャリアを諦めている女性たちは、その気持ちの原因を何だと捉えているのでしょうか。外部による阻害要因に目を向けてみると、「時間に制約がある働き方をしていると、適正な評価がされないと感じる」が一番の阻害要因に挙げられています。
つまり、夫婦ともに一定時間以上働く家庭であっても、大部分の妻は家事育児のために時短勤務や残業を免除された働き方をしており、それが自身の希望するキャリアへの足枷だと感じているのです。会社の人事制度や評価基準に則って働く以上、仕事と家庭を両立しようとすると、いわゆる「マミートラック」に入らざるを得ないと感じているのが、現状なのかもしれません。
しかし、一歩引いて考えてみると、もはや男性だって無制限に働ける(働かされる)時代ではありません。働き方改革も進み、新たな残業規制の基準も施行されています。こうした世の中の流れがあるからこそ、企業が従業員を評価する基準は、働く時間の長さよりも仕事の価値の大きさが重視されるようにシフトしていくのではないでしょうか。そうすれば仕事上の役割や任せ方に性別の差が埋まり、それが家庭内の役割意識にも影響していくかもしれません。