百聞は一見に如かず。
何度も話を聞くより、自分の目で見た方が物事の把握に勝る。そういう意味で、異空間に身を置く旅というのは昔も今もすぐれた学習手段になり得るだろう。
その旅をビジネスモデルの中心に据えたのがリディラバだ。といっても、普通の旅ではない......。
「社会問題の現場を見に行くスタディツアー」を企画運営
ガタ、ゴトと音を立てて安部氏が取材のテーブルまでやってきた。履いているのは一本歯の下駄だ。「社員たちからプレゼントされたんです。ようやく慣れてきました」と笑う。つい先頃、放映されたテレビ討論番組もこのスタイルで出演した。
リディラバとはRidiculous things lover(バカバカしいことが好きな人)を短縮した言葉で、安部氏が大学在学時に立ち上げた任意団体が発祥だ。 「社会問題の現場を見に行くスタディツアー」を、株式会社Ridiloverを通じて企画運営している。その数は300種類にもなる。
取り扱う「社会問題」とはどんなものなのか。安部氏が話す。「障害者やホームレス、性風俗嬢の労働事情といった問題から、食品の大量廃棄、林業や水産業の衰退、過疎化といった産業や政治に関わる問題まで、国内の社会問題はほぼ網羅しています」
実際のツアーは例えば、夕刻、新宿・歌舞伎町のある餃子屋からスタートする。その店は、飲食店には珍しく刑務所を出所した元犯罪者の従業員採用を積極的に行っており、経営者や当事者本人の話を、参加者は餃子を味わいながら、まず聞く。その後は歌舞伎町の散策だ。経営者が同行し、社会の側に偏見があるため、職を得られない出所者が、ここ歌舞伎町で犯罪行為に再び手を染めてしまうプロセスを歩きながら教えてくれる。
企業の人材育成にも奏功
「社会問題に関する無関心を打破したい。そうしないと問題は解決しません。そのためには3つの壁を打破しなければならない。自分が非当事者であることから来る『関心の壁』が1つ。2つ目が情報を得られる便利なプラットフォームがないという『情報の壁』、最後が当事者と容易には交流できないという『現場の壁』です。この3つ目の壁を乗り越えさせるのが、僕らのツアーなのです。2009年の開始以来、参加者はのべ1万人を超えました」