なぜたくさんの本を乗せたバスで無書店地域を周り、小学校や保育園、被災地などに無償で本を寄付するのか。長期的な視点でミッションを元に事業判断する、Amazon時代の古書店「バリューブックス」の経営に学ぶ
Amazonで購入した古本を、誰から買ったのか覚えているだろうか。
購入画面は非常にシンプルだ。値段、コンディション、販売元/出品元、配送タイミングが分かるのみ。合理的ではあるが、どんな事業者が販売しているのか、その事業者を深く理解できる表現にはなっていない。
しかし、事業者の本に対する思いや活動が、働く人の息遣いが聞こえるような言葉で綴られた冊子が届いた本に同封されていたらどうだろう。次に古本を買うときに、名前を探したくなるはずだ----そんな「らしさ」が伝わる古書店が「バリューブックス」だ。
Amazonで古本を売る事業者として6人でスタートした同社は、設立12年で売上約23億7千万円、年間販売数は約322万点、従業員は約400人にまで成長した。売上のほとんどがAmazon経由。事業のことだけを考えれば、そこへの最適化を強めればよいにもかかわらず、同社は先述の冊子をパッケージに同封したり、同社の価値観を伝えるオウンドメディアを運営したりしている。
バリューブックスから感じる「らしさ」には、どんな想いがあるのだろうか。取締役の中村和義さん、創業メンバーのひとり市川健吾さんに話を聞いた。
「売る」より「買う」。スムーズな本の循環こそが鍵
冊子やオウンドメディアなどで「らしさ」を伝えるバリューブックス。10年で社員数70倍近くまで拡大するなかで、こうした取り組みは本を売る上でどのような役割を果たしているのだろうか。
インタビューの冒頭、これらを「また買いたくなるための仕掛けなのか」と問いかけると、同社はそもそも「販売にフォーカスしていない」という意外な答えが返ってきた。