昨今の企業を取り巻く環境変化や働き方の多様化にともない、自律的な職務遂行や経験から学んでいくことへの期待が高まっています。皆さんも、これまでやったことがない仕事に取り組むときに、過去の経験を参考にしながら、どうやったらうまくできるかを自分なりに考えることがあると思います。このような、自分なりの仕事をうまく進めるコツ、つまり経験から得た「持論」が、環境変化への適応に役立つ可能性に着目して研究を進めてきました。
実際に、調査・研究結果から、多くの人が持論を形成していて、その持論が今後仕事を進めていくうえで役に立つと感じていること、自分なりの持論をもつことを重要だと認識していることが明らかになりました。本レポートでは、働く個人の持論にはどのようなものがあるか、その性質によって役に立つ度合いや持論形成のきっかけがどのように異なるのかを紹介します。
変化適応に「持論」が役立つ可能性に着目
DX、グローバル化、そして昨今の新型コロナウイルス感染症対策をはじめとして、企業は大きな環境変化にさらされており、そこで働く個人にとっても、変化に適応していくことの重要性はますます高まっているといえるでしょう。現在勤めている会社のなかでの環境変化にとどまらず、転職や兼業・副業の増加など、キャリアにまつわる変化に対応していくことも求められてきます。
筆者たちの研究でも、中高年ホワイトカラーの転職者を対象としたインタビュー調査において、経験から得た「持論」を、転職後の仕事場面に応用して、新しい環境に適応したことを報告しています※1。一方で、経験を積む、あるいは同じスキーマ(構造化・体系化された知識)を繰り返し使うことで、認知の柔軟性が低下することも示されています。中高年の採用時に、「自分のやり方を押し通そうとする」ことなどを企業側が懸念材料として挙げるのも、その1つの表れでしょう。
働く個人が環境変化に適応することに、経験から得た持論はプラスの影響を及ぼすのでしょうか。また、変化適応に有効な持論はどのように形成されるのでしょうか。