社会におけるリモートワークの普及や研究分野でのオンライン実験の増加に伴い、「どこで働くか・どこから参加するか」の効果を考慮することが重要になってきています。本レポートでは、実験に参加する場所(実験室/オンライン)がグループワークと個人のパフォーマンスに与える影響を検証した研究成果について紹介します。
はじめに
新型コロナウィルスの感染拡大を契機として、リモートワークが急速に一般化しました。
それにともない、リモートワークの位置づけも変貌してきています。リモートワークはコロナ禍以前から徐々に浸透してきていたものの、感染拡大による社会的な要請を受けて導入範囲が大きく拡大されました。以前は、リモートワークはそれが可能な人が望んで行うことができるものだったのに対して、感染拡大後は、リモートワークを望まない人も含めて、ある意味で強制的にも行われるものとなってきています。
こうした状況は今後も継続する見通しとなっているため、「働く場所」によって、業務遂行にどのような影響があるのかを理解することが必要です。管理職にとって、リモートワークは部下の自律性や生産性、ワーク・ライフ・バランスを向上するといったポジティブな面がありながらも、「部下がさぼっていないか心配である」との回答が半数以上という調査結果もあります*1。働く環境によって人々の仕事への取り組みはどのように影響されるのでしょうか。
当研究所では、こうした疑問に関連する研究を、鹿児島大学法文学部の大薗博記准教授と共同で実施し、その内容をワーキングペーパーとして公開しました。
ワーキングペーパーでは、学術研究の方法論の問題についても扱っていますが、以下では、その中のリモートワークに関連する部分を抜き出して概要を紹介します。(詳細な内容については論文をご覧いただくか、お問い合わせください。)
研究の背景
経済学や心理学では、従来、参加者を実験室に集めての行動実験が研究手法として活用されてきました。しかし、近年ではインターネットや研究デバイスの発展により、実験室内ではなく、オンライン上で行動実験を行う例も増えてきています。つまり、大学内の実験室で実験者や他の参加者と同じ空間の中で実験に参加するという形から、自宅等で他の参加者や実験者とは物理的に離れた場所からオンラインで参加するという形に変わりつつあります。
こうした実験室とオンラインという「参加する場所」の違いは、オフィスでの業務とリモート環境でのそれとの違いと並列になっています。実験室とオンラインでの行動傾向の違いを調べることで、リモートワークの有効性について有益な知見を得ることが期待できます。
そこで、本研究では、そうした「参加する場所」の違いが、人々の行動に与える影響について検討します。具体的には、グループでのワーク場面と個人タスクでのワーク場面の両方に焦点を合わせ、参加する場所の影響を検証しました。