多様な働き方

「キャリア自律」の全体像の描き方

キャリア

2024年05月21日 転載元:リクルートマネジメントソリューションズ

「キャリア自律」の全体像の描き方

昨今「キャリア自律に課題があるのは分かるが、効果的な進め方が分からない」。そんなご相談を多くお伺いしています。 下記は、私が人事の方から聞いた悩みの代表例です。  

キャリア自律」の取り組みは、どの程度進んでいますか?

■ お悩みの代表例

経営陣から、「事業ポートフォリオの転換が必要なので、社員のキャリア自律を促してほしい」と言われるが、何から手を付けてよいか分からない。(ビジョン・方針・戦略などの全体感が未設定)

なぜ会社が社員のキャリアを支援する必要があるのか、当社は生産スタッフも多いなかで現場を納得させるのが難しい。(事業上の必要性が不明確)

キャリア研修は実施しているが、それ以上の取り組みはできていない。(施策の役割・機能が不明確)

マネジャーが多忙で、評価面談でさえ充分できていないのに、メンバーのキャリア支援ができるのか……。(行動誘発を見据えた運用が未設計)

キャリア自律をテーマにいろいろな施策を実施しているが、効果確認ができていない。(効果の可視化・モニタリングの仕組みが未設計)

本連載では、人事領域の担当者の方に向けて、個と組織をともに成長させる「キャリア自律」の進め方について、3回に分けてお話ししていきます。

第1回:「キャリア自律」の全体像の描き方(⇦ 今回)
第2回:施策の現場実装、運用におけるポイント
第3回:施策の効果確認とモニタリング方法

なお、小社では、先行研究の整理(自律的・主体的なキャリア形成に関する研究の軌跡やキャリア自律が組織成果につながる理論的背景の整理)、キャリア自律の実態調査(若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査)、キャリア自律に関するサービス紹介、研修紹介など、過去「キャリア自律」をテーマに発信してきているため、今回は学術的・調査的な内容やサービス紹介ではなく、担当者の方が手を動かしていただけるような仕立てでお話を進めていきます。

(1)「キャリア自律」とは何のために、何をすることなのか(Why・What)

● ゴール:「キャリア自律」を通じて、実現したいことが明確になっていること。特に、個と組織を生かす観点で「キャリア自律」を定義し、位置づけられること

「キャリア自律」という言葉は、おおよそ「自らの仕事人生に対する未来に開かれた肯定的な意志とそれに基づく主体的なキャリア開発行動」といえます。しかし、「自社のキャリア自律の定義が本当にそれでいいのか?」「会社として推進する意義は?」と疑問を持たれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。前述の定義では、“個”の状態については定義されていますが、“組織”の状態まで定義がされていません。また、なぜ、それをする必要があるのかという目的が明確ではありません。それ故に、経営層や現場から「何のためにキャリア自律をするのか?」と事業上の必要性を問われるのです。※

そこで、まず第一歩として、自社にとって「キャリア自律」とは、何のために、どういう状態を目指すのかということを定義していくことが必要です。定義のイメージを持っていただくために、いくつか例を挙げますので、自社の「キャリア自律」を定義してみましょう。

※“個”の状態の定義だけでも上手くいくのは、組織内で「キャリア自律」を会社として推進するメリットについて共通認識がある場合です。メリットについては、例えば、社員のエンゲージメントの向上、生産性の向上、社員の能力向上、ダイバーシティ推進などがあり、多数の先行研究があります。

例1 “個”の実現したい状態と理由(目的)が中心の定義

経団連「Society 5.0時代を切り拓く人材の育成 ー企業と働き手の成長に向けてー」では、「キャリア自律」とは、働き手が当事者意識を持って自らの責任でキャリアを築き上げていくこと。働き手は、“自分ごと”としてキャリアビジョンを描き、自身の価値向上に積極的に取り組む。企業は、社員が主体的に学び、中長期的なキャリアの展望を持てるよう支援する、とあります。

例2 “個”と“組織”の実現したい状態+目的+施策の方向性が示されている定義

図表1は、「キャリア自律とは、社員の幸せと社会への貢献を実現するために、個と組織の価値を高めていくこと」と定義した例です。何を実現したいのか、何のために実現したいのかを“個”と“組織”の観点で示しています。この例のポイントは、個と組織のそれぞれのサイクルのなかに、「認知」「選択」「開発」という実現に向けての施策の方向性が示されている点です。また、“個”と“組織”が相互に影響し合い高め合うという意図も読み取れます。

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