今、管理職の業務負荷が高いという話をしばしば見聞きします。管理職の大変な状況や管理職になりたい人が多くない状況を称して「管理職は罰ゲーム」といった言葉も出ています。また、弊社の調査でも、人事担当者および管理職層に「会社の組織課題」について尋ねたところ、「ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」がそれぞれ第1位でした(人事担当者65.3%、管理職層64.7%)。
前回、前々回は、管理職の業務負荷と働き方改革というテーマで、管理職の負荷が高く忙しいことの背景や、管理職の業務負荷軽減に関して先に知っておくと良いことについて見てきました。本稿では、筆者がコンサルティングを通じて見てきた、業務改革が進まない企業の特徴を取り上げながら、管理職の業務改革のポイントをご紹介します。
- 管理職の業務改革が進まない組織に見られる特徴
- 管理職の業務改革のポイント
管理職の業務改革が進まない組織に見られる特徴
業務改革が進まない組織に見られる特徴のうち、特に管理職の業務改革という観点で絞って4つご紹介します。
1点目は、「業務をまるごと“業務”と捉える」です。このような組織は、「うちの部署の業務にはムダがない」「私の仕事はすべて大事だ」と、業務や仕事をひとかたまりで「業務」「仕事」と呼ぶことが多いです。これが派生して、「この業務は、当時の専務が大事にしていたからなくすことはできない」といった、業務改革の及ばない聖域のような形で表れることもあります。
2点目は、「業務改革に取り組もうとする人のエネルギーを削ぐ事象が多い」です。業務改革は、目的として負荷軽減を掲げていたとしても、一時的には通常業務に改革が乗っかることで、負荷が上がることが多いです。つまり、業務改革が検討される部署や人は忙しいので、当事者からすると、「中長期でいえば業務改革をやった方が効果的・効率的かもしれないが、今の大変さを踏まえたらやりたくない」と思われがちです。そのようななかでエネルギーを削ぐことがあればなおさらです。
エネルギーを削ぐことの最たる例は、業務改革に取り組む人が孤軍奮闘してしまう状況です。例えば職場の管理職が、自身の業務を見直そうとしたときに、会社や上司が何も支援してくれない、部下が「余計なことをしてくれるな」と思うような状況では、管理職もそれらを気に留めることなく取り組みを行うのは難しいでしょう。
他にも、自社は、顧客向けには、業務効率に寄与する商品・サービスを提供したり、テクノロジーを活用した商品・サービスを提供したりしているのに、社内はそうした商品・サービスを使えず紙文化が根強い、といった「できるはずなのにやらない」と社内の人から思われる組織も業務改革のエネルギーが削がれやすいです。
3点目は、「管理職はこうあるべしという管理職への期待・要望が強固」です。前回も触れましたが、会社にとって管理職は会社側の人という認識であることが多いため、管理職が、いつでも、どこでも、何でもすることが要望されることがあります。また、近年の働き方改革の流れもあって、メンバーの業務を管理職が引き受けることもあります。
こうしたことに加えて、「管理職は現場の細かいことを知っておくべきだ」「管理職はその部署とのコミュニケーションの窓口であるべき」といった「べき」を本社や本部、他部署の人が思っていると、担当者の方が圧倒的に詳しい内容でも、管理職にとりまとめや統括を求めがちです。
さらに、「メンバーの信頼を得るためには、こまめに対面で接点を持つことが大事だ」「会議で提案への承認を得るには、***しておく必要がある」と、やり方も規定されている場合は、目的を達成することができたとしても、やり方が違うという理由で許容されないことが起きます。
4点目は、「管理職自身が取り組みに賛同しない」です。管理職の負荷軽減がテーマになるということは、管理職が大変な状況にあるということでしょう。とすれば、管理職の負荷軽減は、管理職自身がその取り組みの利益を受け取る人であるはずで、取り組みに反対することはないはずです。しかし、実態は必ずしもそうではありません。管理職は会社や組織からの期待に応え、役割を果たしてきたので現在の地位にあります。業績達成へのプレッシャーも担っています。よって仮に3点目で触れたような状況に対して気になることがあってもそんなものだろうと思うかもしれません。また、2点目でも取り上げたように、管理職自身がすでに忙しいので、日常に変化を起こすような気持ちにはなれない人も多いでしょう。管理職がこれまで築いてきた自分なりの成功の方程式が、手間や時間がかかるものである場合は、業務改革はその成功の方程式が否定されることになるという気持ちになることもあります。
加えて、会社が業務改革をすべきと思っていることを管理職やメンバーの業務にムダがあると会社が認識しているというメッセージだと受け取り、自分のやってきたことが否定されたと感じることもあるでしょう。これが転じて、業務改革が成功し管理職の負荷が軽減したら、管理職やメンバーの人数が減らされてしまうのではないかと不安に思うことも、管理職が取り組みに賛同しない背景になっていることがあります。