第2回となる本コラムでは、市場環境が今後変容すると考えられるなか、企業が賃上げの効果を把握することの重要性について、労働市場で生じている事象や経済理論をもとに説明していく。
国際比較上、日本のパートタイム労働者の賃金水準は低い
図表1では、フルタイム労働者の賃金を100(%)として、2010年代の日本と欧州各国のパートタイム労働者 の賃金水準を比較している。日本は欧州各国と比較してパートタイム労働者(※1)の賃金水準が相対的に低いことが確認できる。2010年代以降、パートタイム労働者の賃金水準が上昇しているとはいえ、最新となる2022年の水準でみても6割程度に留まっており、差はまだ大きい。
図表1 パートタイム労働者の賃金水準の国際比較
出所:Eurostat Structure of Earnings Survey(2010、2014、2018)、賃金構造基本統計調査(2010、2014、2018、2022)、毎月勤労統計調査(2014、2018、2022)
注1:欧州諸国と日本の比較は、2010年、2014年、2018年の値の平均(毎月勤労統計調査は2014年、2018年のみ)で実施し、日本のみ2022年のデータも併記した。
注2:対象者は、Eurostat 10人以上の雇用者を有する企業;賃金構造基本統計調査 10人以上の常用労働者を雇用する事業所;毎月勤労統計調査 常時5人以上を雇用する事業所。
日本においてパートタイム労働者の賃金水準が相対的に低い要因の1つとして、企業内部の問題が指摘できる。具体的には、職務や人材の活用に関して、正社員との差がある点があげられる。厚生労働省「パートタイム労働者総合実態調査」(※2) によれば、「正社員と職務が同じであるパートタイム労働者がいる」事業所は、2011年には16.7%、2016年には15.7% あった。最新の2021年調査では、正社員と職務が同じパートタイム・有期雇用労働者がいる事業所の割合が示されているが、それでもこの割合は21.5%とあまり拡大しなかった。すなわち、日本においては、そもそも正社員と同一の職務に就くパートタイム労働者が少ないといえる。このことが、日本におけるパートタイム労働者の賃金水準が低い大きな要因となっている。