
イントロダクション
私たちはキャリアショックの時代にいる。
近年、働く個人を取り巻く環境変化のスピードはますます速くなっている。予期せぬ異動や失職、仕事内容や必要なスキルの大幅な変化、事業からの撤退、所属組織の買収や合併、職場の上司や仲間の突然の退職、役職定年のルール変更など、働く個人を取り巻く環境変化のスピードは速く、予想もしていなかった衝撃的な変化に「直撃される」機会が増加している。このように個人のキャリアの過程で起こる予期せぬショッキングな出来事がその後のキャリアにもたらす影響について検討したのが、キャリアショック研究だ。
現代社会においてキャリアショックは、もはや限られた人に起こる特別な出来事ではなく、すべての人に起こり得る。そして、突然の変化によって、それまでに思い描いていたキャリア展望が失われてしまうと、個人は、大きな失望感・動揺・不安に見舞われることになる。ところが、これまでの研究によると、キャリアショックは一時的に大きな動揺をもたらすかもしれないが、乗り越え方によっては「あの時のあのショックがあったから今の自分がある」といったポジティブな影響をもたらす可能性を含んでいることが明らかになっている(Pak.,K他,2020)。
しかし、個人のキャリア形成に影響を与えるキャリアショックにはどのようなものがあるのか、キャリアショックをよい形で乗り越えるために必要な個人資源は何か、どのようなプロセスでショックからの回復に向かうのかなど、これまでのキャリアショック研究で明らかになっていないことは多い。
そこで、本コラムでは、キャリアショックについてこれまでに明らかにされてきた理論について、事例や定量調査の結果、インタビューデータを用いて紹介する。そうすることで、「キャリアショック」という事象をより具体的なものとし、キャリアショックを経験したとしても恐れることなく、未来のキャリアにつなげていくためのヒントを得たいと考える。
第1回の本稿では、アムステルダム自由大学経営学部教授でキャリアショックについての研究を進めるJos Akkermansが筆頭著者となり2018年に発表された論文、“Tales of the unexpected: Integrating career shocks in the contemporary careers literature“を参考文献としつつ、キャリアショックの定義について丁寧に確認した後、日本では具体的にどのようなキャリアショックが起こっているのか、データから明らかにする。