Cさん(58歳/女性/家族構成:夫と子ども2人)
大手保険会社に勤続35年。営業を経て、本社企画部へ異動。結婚・出産後は総務部に復帰。現在は同部署で課長を務める。周囲は上司・部下含め年下が大半を占める環境。周囲から気をつかわれている微妙な空気感が少しストレス。子どもたちは既に独立しているが、近所に住む両親は80代で介護が必要。残業が多い今の仕事との両立は難しいと感じ始めている。別の働き方に変えようとも思うが、自分のキャリアを振り返っても、外で通用する自信がない。
ミドルシニア 「40代からのキャリアのお悩み相談室 ~強み理解でモヤモヤ解消~」
2021年05月13日
「もういい歳だし、今さら新しいことに挑戦できる自信がない」「自分には自慢できるほどの強みや長所が見つからない」…。人生100年時代、コロナ禍で働き方も働く価値観も大きく変わっていくなかで将来が不安になり、これからのキャリアや生き方にモヤモヤとしている40代・50代・60代も少なくありません。
そんな方々の悩みの解決をお手伝いする企画が「キャリアのお悩み相談室」。この相談室では、さまざまな40代・50代・60代のキャリア支援を手掛けてきたベテランキャリアアドバイザーが、日々訪れる相談者のモヤモヤを紐解きながら、自分らしいキャリアを考えるためのアドバイスをしています。
今回相談室を訪れたのは、保険会社で総務課長を務めるCさん。親の介護もあり、転職を考えているそうですが、年齢的にもスキル的にもなんだか自信がないご様子。「私には自慢できるキャリアも功績もないから…」というCさんには、どんな強みが隠されているのでしょうか。
※この連載企画では、実際に寄せられた複数の相談内容をもとに架空の登場人物を設定。キャリアアドバイザー監修のもと構成しています。
Cさん(58歳/女性/家族構成:夫と子ども2人)
大手保険会社に勤続35年。営業を経て、本社企画部へ異動。結婚・出産後は総務部に復帰。現在は同部署で課長を務める。周囲は上司・部下含め年下が大半を占める環境。周囲から気をつかわれている微妙な空気感が少しストレス。子どもたちは既に独立しているが、近所に住む両親は80代で介護が必要。残業が多い今の仕事との両立は難しいと感じ始めている。別の働き方に変えようとも思うが、自分のキャリアを振り返っても、外で通用する自信がない。
アドバイザー: Cさんは転職を検討中なんですね。どのようなご事情でしょうか。
Cさん: 一番の理由は親の介護です。80歳になる両親が近所に住んでおり、年齢的に生活のサポートが必要になってきています。私がこれまで仕事を辞めずに済んだのも、母に子どもたちの面倒を見てもらったおかげですし、今度は私が母のお世話をしたくて。
アドバイザー: それは大事なことですよね。ちなみに、今の仕事を続けることは難しいのでしょうか。
Cさん: 私は保険会社で総務課長をしているのですが、残業が多く時間的な融通が利かないんです。それに職場では私が最年長で、上司は一回りも年下。みんなに気をつかわれているようですし、なんとなく居心地が悪くて…。
アドバイザー: 今の会社にはどのくらいお勤めですか。
Cさん: 学校を卒業してからずっとなので、35年ですね。途中で産休・育休を取っているので休職期間はありますけれど。
アドバイザー: Cさんの世代の女性で、子育てをしながら正社員として勤めてこられたのはかなり珍しいのではないでしょうか。
Cさん: そうですね。同年代の女性は寿退社が大半で、結婚後に働き続けていた人も何人かはいましたが、まだ産休・育休の制度も今のように整備されておらず、子どもができたら辞めるのが当たり前という時代でした。
アドバイザー: Cさんは、男女雇用機会均等法制定後に男性と同じ総合職に就いた第一世代の女性です。自分たちの上には女性の先輩はおらず、キャリアや人生のロールモデルはいなかったはず。同期入社に女性は一握りしかいなかったでしょうし、これまで働き続けてこられたということは相当の努力をされてきたんだろうなと感じました。
Cさん: いえいえ、そんなことはないんです。私の場合はたまたま保険会社に勤めたので、女性が働くことに比較的理解があったのが大きいですね。後は母の存在。協力がなかったら、きっと専業主婦になっていたと思います。
Cさん: 母の身の回りのことをしながら仕事を続けるとなると、せめて都心まで通勤せず近所の会社で働けるとありがたいのですが、この年齢で女性となると転職は難しいですよね。
アドバイザー: では、もし今から面接で自己PRするとしたら何を話しますか。
Cさん: ……。すみません、ちょっと思い浮かばないです。2人の子どもの出産でキャリアを中断した時期もありますし、総務の仕事って社内の細々としたことを一手に引き受ける何でも屋のような側面があるので、「浅く広く」仕事をしてきたなと。
アドバイザー: 普段はどんな仕事を担当してきたのでしょう。
Cさん: たとえば、オフィス機器・備品の管理や、社内行事・イベントの準備。CSR活動の事務局も総務の役割ですし、官公庁へ提出する書類の取りまとめなどもおこなってきました。
アドバイザー: 「人との関わり方」や「仕事の仕方」という意味ではいかがでしょうか。
Cさん: そうですね…。総務部には日々いろんなお願いごとがやってくるので、まずは相手の話を良く聞くようにしてきました。また、総務に相談されるものって、相手もどうしたらいいかよくわからないものが多いので、概要と目的を確認して後はこちらで調べて進めることも大切にしていましたね。これって自己PRになりますか。なんだか、当たり前のことを話しているようで恥ずかしいです。
アドバイザー: 今のエピソードこそCさんの強みであり、ポータブルスキルだと思いますよ。ポータブルスキルとは、会社や部署が変わっても通用する、持ち運び可能なスキル。Cさんは課長を務めているのですから、会社としてもCさんの能力を評価しているはずなんです。先ほど、周囲から気を遣われていると仰っていましたが、それは裏を返すと、「空気が読める」「相手の気持ちに敏感」ということ。この力はどんな仕事にも活かせますし、状況を察しながら相手の立場に立って着実に仕事を前進させられるのは、誰にでもできることではないんですよ。
Cさん: そうなんですか。私は頼まれたらノーと言えない性格で、言われたことをコツコツとやってきただけなんです。自分が忙しくてもつい引き受けてしまうのが弱点だと思っているんですけど。
アドバイザー: ご自身はそうお感じなのかもしれませんが、Cさんの良いところ、人柄として好意的に捉えている人も多いのではないでしょうか。そもそも人は期待していない相手に相談しません。会社のみなさんからすると、Cさんは困ったときに相談したい、助けてくれる存在だったのではないでしょうか。
過去の経験から獲得しているスキル(仕事の仕方)だけではなく、あなたの存在、まわりとの関係の作り方やスタンス(人との関わり方)も強みになります。
Cさん: では、私の性格や仕事のスタイルが活かせる職場を探せばいいんですかね。そんな仕事、本当にあるのでしょうか。
アドバイザー: これはあくまでも可能性の話ですが、例えばオーナー企業の経営者が社長秘書に求める能力とCさんの強みは親和性があります。一を言えば十をわかってくれる。「後はよろしく」で細かいことを引き受けて、関係者に指示を出してくれる存在を求めている社長は割といます。経営者の考えや意思を受け止めるには、ある程度の度量が必要。Cさんの人生経験や総務課長としての仕事の経験が活かせる部分も多いと思います。仕事を探す際は、強み(ポータブルスキル)を軸に、求人の業務内容を見て、今の仕事との共通項を見つけていくようにすると選択肢が広がりますよ。
Cさん: 私が社長秘書!?考えたこともなかったですけど、たしかに共通点がありますね。
アドバイザー: 後は、会社の規模や場所を変えてみると、これまでネガティブに感じていたことやたいしたことないと思っていた能力がポジティブに歓迎されることもあります。
Cさん: ネガティブが場所によってポジティブになるってどういうことでしょうか。
アドバイザー: 世界の鉄道事情を例にしてみるとわかりやすいでしょう。日本社会では電車が5分遅れたら申し訳ありませんとアナウンスが流れますが、電車の遅延が頻繁に起こる社会では、5分程度の遅延は時間通りの範囲内かもしれません。つまり、日本では「5分も遅れるなんてありえない」という評価なのに、国によっては「誤差がたった5分なんて素晴らしい」と感じてくれる。こんな風に自分が弱みだと思っていることが、環境次第で強みに変わることもあるんですよ。
Cさん: なるほど。
アドバイザー: Cさんはご自身のキャリアが「広く浅く」だとネガティブなニュアンスで仰っていましたが、「広く浅く」を必要としている企業も多いんです。例えば中小企業の場合、大手企業のように社内の役割は明確ではありません。決められた役割しかできない人よりも、自らの守備範囲を越えて動いてきた人の方がむしろ必要とされます。今は社会的に業務や働き方の変革が求められていますから、総務への期待も大きいですしね。
Cさん: そうですか。でも、私はやっぱり広く浅くなので、最近話題のDX(デジタルトランスフォーメーション)や働き方改革のことにはそこまで詳しくはないですよ。
アドバイザー: 一口に業務改革といっても、場所が変われば事情も変わります。大手に勤めてきたCさんがイメージしているのはシステムの刷新やAIの活用といった内容かもしれませんが、中小企業では、それ以前に社内システムが整っていないケースも珍しくありません。伝票が未だに手書きというところだってありますから、エクセルやアクセスでちょっとデータをまとめるだけで業務を一気に効率化できるかもしれない。大手の先行事例を知っているというだけでも大きな強みです。
会社の規模や場所を変えてみることも考え方のひとつです。「自社の当たり前は、世の中の当たり前ではない」ということを意識しましょう!
Cさん: 私の強み、なんとなく見えてきました。自分では真面目にコツコツやってきただけのつもりだったんですが、それを必要としてくれる会社もあるんですね。
アドバイザー: 自信を持っていただけたようで良かったです。では、Cさんの強みを軸に、これからやりたいこと(選びたい生き方)と掛け合わせてみましょう。
Cさん: 優先したいのは母親の介護ですけど、働くのも好きなんです。今よりもワークライフバランスの取れた働き方ができたらいいんですけどね。でも、今日話すうちに、今の会社からも評価されているんだと思えたし、もう少し頑張ってみるのも良いかなと思いました。
アドバイザー: 介護の問題でしたら、ひとりで抱え込みすぎないことも大切ですよ。ご主人はもちろん、お子さんたちにとっても大切なお婆様ですから、家族で協力しあえると良いですね。焦って結論を出さず、じっくり考えてみてください。
Cさん: そうですね。今日はありがとうございました。
弱みと強みは表裏一体。自身が弱点だと思っている特徴や性格も、視点を変えることで、強みとして捉え直すことができます。
・・・(後日談)
自分では弱点だと思っていた「浅く広く」が実は強みにもなることに気づいたCさん。これまではどうせ無理だろうと思って足が重かった転職活動をはじめてみることにしました。すると、偶然にも総務の社員が退職したばかりだという中小企業の求人を発見。この会社の総務は経理や人事も兼ねた幅広い役割を担う部門で、面接ではCさんが大手企業で柔軟に対応してきた経験が高く評価されました。最寄り駅から30分程度の場所にある会社でしたが、この企業が検討していたテレワークの導入・仕組みづくりをCさんが担うことを前提に、週3日在宅勤務・残業なしという条件での入社が実現。現職に転職の事情を話すと、惜しまれながらも温かく送り出されたとのこと。仕事とプライベート、どちらにもきちんと向き合える環境が手に入ったそうです。