ミドルシニア 多様な働き方 40代・ 50代・ 60代からの人生を充実させる ‐ つながりのすすめ ‐

「人とのつながり」がキャリアにもたらす好影響 ~40代・50代・60代の人生を豊かにする人間関係とは~

iction!の取り組みキャリア

2021年04月26日

「人とのつながり」がキャリアにもたらす好影響 ~40代・50代・60代の人生を豊かにする人間関係とは~

「今すぐ転職したい訳ではないけれど、人生100年とも言われる時代だからこそ第二の人生に向けて準備をはじめたい」「新型コロナウイルスの影響で社会の大きな変化を目の当たりにして、今のままでよいのか、もやもやする」…。そんな気持ちで自分の働き方やキャリアを見直したい40代・50代・60代もいらっしゃるのではないでしょうか。一方で、キャリアの悩みや不安を払拭してアクティブに活動する同年代もいます。アクティブなみなさんに共通するのは、「日常の関係性を越えた社内外の人とのつながり」が豊富なこと。人間関係の違いがキャリアに影響を与えるのはなぜなのでしょうか。そこで今回は、リクルートワークス研究所による2020年のレポート「マルチリレーション社会」に携わった中村天江主任研究員にインタビュー。40代・50代・60代が人脈や交友関係を広げるために何をすればよいのか、一歩踏み出すきっかけやすぐはじめられることについて聞きました。

中村 天江(なかむら あきえ)

中村 天江(なかむら あきえ)
リクルートワークス研究所 主任研究員

「労働市場の高度化」をテーマに調査研究・政策提言を行う。「2025年」「Work Model 2030」「マルチリレーション社会」など働き方の長期展望を発表。「マルチリレーション社会」の提案の一部で、2021年全能連マネジメント・アワードでプログラム・イノベーター・オブ・ザ・イヤーを受賞。博士(商学)。

人とのつながりが多いほど、「幸福感」や「あらたな仕事」を得られやすい

── リクルートワークス研究所では、キャリアと「人とのつながり」の関係性に注目し、多様なつながりを持つ「マルチリレーション社会」を提案していますが、なぜこのテーマに取り組んでいるのですか。

主な背景にあるのは、日本社会の変化です。日本は海外に比べて交流のある人間関係の種類が少なく、「家族」と「職場」に集中しているのですが、1社で長く働き続ける終身雇用が前提の時代であればそれでよかったのかもしれません。しかし、今や労働者の7割、正社員の5割強に退職経験があるという時代。転職という選択肢だけでなく、副業などさまざまな人間関係を持つことができる時代になってきたからこそ、「人とのつながり」がキャリアに与える影響を正面から捉える必要が出てきました。

図1:人間関係の特徴人間関係の特徴

また、「孤立」が社会問題になりはじめていることも、「人とのつながり」に注目した理由の一つです。人口に占める高齢者の割合が世界トップクラスである中で、仕事を引退すれば職場のつながりもなくなりますし、2040年には65歳以上の高齢者世帯のうち40%が独り暮らしになると言われています。世界経済フォーラムなど海外では、孤独・孤立は暴力や貧困、健康に並ぶリスクだと問題視されており、これに追随するように日本でも2021年の2月には内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」が設置されたんですよ。

── つまり、孤立=人とのつながりがない状態が国家や世界のリスクだと考えられているのですね。

私たちの調査でも、人とのつながりと「幸福感」や「キャリア」には一定の関係があることが確認されました。つながりが充実している人ほど幸せを感じている割合が高く、「突然会社を辞めることになっても、希望の仕事につける」と感じている割合も同様の傾向だったのです。しかし、日本は先に述べた通り家族や職場との人間関係に閉じやすいのが特徴。人々がご機嫌に人生を生きていくためには、人とのつながりをいかに豊かにしていくかが大切なのだと言えます。

図2:人とのつながりの重要性人とのつながりの重要性

やみくもに人脈を広げるよりも、質をともなう人間関係を築くことが大切

── 人生を豊かにする「人とのつながり」とはどのような人間関係ですか。

人とのつながりが充実している状態とは、やみくもに名刺交換をして得られるものでも、単に顔が広いことでもありません。私たちが注目したのは、人間関係の質。「一緒に過ごすと活力がわく」「仕事がうまくいくよう助言や支援してくれる」といった、質をともなう人間関係であることが重要で、むやみに関わる人を増やしても、かえって悪影響をもたらします。人とのつながりを増やすには、目の前の人を大切にして関係性を見直すことや、しばらく疎遠だった旧友との関わりをもう一度深めるようなアプローチからはじめることが効果的です。

── 「質をともなう人間関係」とはどのようなものでしょうか。

互いにキャリアを応援し合っている夫婦や、活気ある職場の人間関係に注目しました。よい人間関係には、ありのままの自分でいられる「ベース・リレーション」と、共に実現したい共通の目的がある「クエスト・リレーション」が揃っていると思うのです。そこで我々は、両方を兼ね備えた人間関係を、「ベース&クエスト・リレーション」と呼ぶことにしました(図3)。

裏を返せば、たとえ家族や職場の同僚であっても、「ありのままの自分でいられない、困ったときに頼れない」「目的がバラバラで、同じゴールをめざすことができない」という状態では質をともなった人間関係とは言えません。ベース&クエスト・リレーションを持っている人は、そのつながりから「安心」「喜び」「成長」「展望」をより多く得られていることが、調査結果からも分かっています。ベース&クエスト・リレーションは、人生を豊かにするんですよ。

図3:めざすは「ベース&クエスト」のつながりめざすは「ベース&クエスト」のつながり

── 「人とのつながり」を増やすにはどうしたらよいですか。

人間関係を広げるには、家庭でも職場でもない第三の場所、自分が居心地のよさを感じられる「サードプレイス」を見つけるとよいでしょう。例えば、副業やプロボノなど本業とは離れた環境で共通の目標に向き合う仲間ができる状態こそ、まさしく質をともなう人とのつながり。他にも、エンジニアや人事といった同じ仕事をする人が参加する勉強会や、同郷の人が集まるSNSコミュニティなど、共通項でつながるのもサードプレイスになります。

ただし、「共通点のある人同士が飲み会で盛り上がって終わり」ではあまり意味がありません。ベース&クエスト・リレーションを手に入れるには、そのつながりの中で共通の目的を持ち、一緒に何かをすること。すると、イベントの企画・運営を通してお互いの持っているスキルに刺激を受けたり、アイデアを出し合う中で自分にはない視点ややり方を学んだりといった気づきが得られます。普段の職場とは違う経験の中で、自分が持っている能力に気づくこともあるでしょう。

関係性の質を高めるきっかけ「4つの小さな行動」

── では、40代・50代・60代は何からはじめるとよいでしょうか。特に今の世代は、若い頃に長時間労働が当たり前の時代を過ごし、仕事以外の人との接点が少ない人も多い印象です。

確かにそういった人が多いですよね。とはいえ個人差はあるので、積極的な人であれば、働き方改革で時間ができたり副業などの就業規定が変わったりといった時代の変化によって、自然と動きはじめています。一方で、最初の一歩をどう踏み出すかが不安な人は、「4つの小さな行動」を意識してみるとよいでしょう。

図4:リレーションに影響を与える「4つの小さな行動」リレーションに影響を与える「4つの小さな行動」

一つ目は、「ちょっとした手助けをする」。過剰な負担にはならない程度で、自分がすぐにできる範囲の手伝いをして、相手との関係を深めていくのも一つの方法です。二つ目は、「助言を求める」。自分が困っていることにアドバイスをもらうことはもちろん、「あなたの活動に興味があるので教えてください」と聞いてみることも効果的でしょう。ここまでの二つは、相手と小さな「ギブ」「テイク」の関係性をつくるものだと言えます。

残りの二つは、「自分を振り返る」と「自分を伝える」。自分がこれまでにやってきたこと、関心があること、うちに秘めた想いを知ることで、自分自身がどんな人・どんなコミュニティとつながりを持ちたいかがより明確になっていきます。また、振り返り(内省)は自分の主観だけでは気づけないことも多いため、客観的な視点が必要。だからこそ、自分の話を聞いてもらうことに意味があり、こうした自己開示によって相手との関係性を深める効果があります。

「ちょっとお試し」くらいの軽やかさで、一歩踏み出してもいい

── 「小さな行動」というくらいですから、はじめはそこまで意気込まなくてもよいのかもしれませんね。

まさしくその通りです。社外の交流会や趣味の仲間などのサードプレイスは、会社のように雇用契約で結ばれているわけではなく、もう少し“ゆるい”関係でつながったコミュニティ。転職や起業・独立のように清水の舞台から飛び降りる一大決心は必要ありません。人が入れ替われば活動の内容や方針が変わることも珍しくないですし、自分に合わなければフェードアウトしたって良い。副業だって本業があるからこそ無理のない範囲が大前提。普段の生活を見渡してみても、地域の行事や子どもを介した親同士の交流など、人とのつながりを深めるきっかけは割とあります。そうしたきっかけに気づいて「ちょっとお試し」くらいの軽やかさではじめてみるとよいのではないでしょうか。

── ミドル・シニアがサードプレイスで活動する上で気を付けるべきことはありますか。

やはり「会社とは違う」ことですね。会社のような上下関係ではなくフラットなつながりの場合も多いですし、売上のような明確な達成指標があるわけでもありません。普段は管理職などの立場を務めている場合が多い40代・50代・60代が会社と同じ感覚でいると、まわりから浮いてしまいます。でも、会社での経験が全く通用しないわけではなく、外に出てみることで自分の培ってきたものを再発見できるケースも多いです。だからこそ、社外のつながりでは自分の強みを活かしながらも、相手との信頼関係を高め続ける姿勢が重要でしょう。

── 契約に縛られない自由な関係性だからこそ、関係を続ける努力が必要ということですね。

日本での人とのつながりは家族と職場に集中していますが、この二つは婚姻契約や雇用契約など、法的に規定された結びつきです。しかし、コミュニティにはその縛りがないので、常に選び選ばれ続けるという緊張感もある程度は必要。今はSNSやオンライン会議などコミュニケーションツールの普及もあって、つながる機会は豊富になりましたが、つながって終わりではなく関係性の質を上げていかなければ、本当の意味で自分の人生やキャリアをよくするリレーションにはなりにくいです。

── 最後に、ミドル・シニアがマルチリレーションを手に入れていく意義について、考えをお聞かせください。

40代・50代・60代には、長年の経験に裏打ちされたスキルやノウハウがあります。特に今の40代・50代・60代は、下の世代よりも正社員比率が高く、長く働き続ける中で手厚い育成を受けてきた世代。企業の中でも一定の役割を担っているため、使えるリソースやできることのスケールが若手に比べると格段に大きい傾向があります。

そうしたアドバンテージを携えてこれまでとは違った環境にも挑戦できるのが、40代・50代・60代が多様なつながりを持つ醍醐味です。特に、若手世代が持つ柔軟な発想力とベテラン世代が持つスキルやリソースが掛け合わさると、とても強いものになります。今やビジネスにおいてはオープンイノベーションが前提の時代ですから、こうした発想は本業にも還ってくるのではないでしょうか。

人間関係は絶えず変化していくものです。人とのつながりが多ければ安心、関係が深ければ問題ないという単純なものではないでしょう。でも確かなことは、人とのつながりは自らの行動によっても変えていけるということ。自分自身の小さな一歩が、いずれ人生になくてはならない大きな存在との出会いにもつながっていくはずですから、しなやかな発想で多様なリレーションを築いていただきたいですね。

参考:
マルチリレーション社会
「つながり」のキャリア論 ―希望を叶える6つの共助―

─専門家COLUMN─
人生100年時代。人とのつながりが、自分らしい人生のヒントになる

河野 純子(かわの じゅんこ)さん

河野 純子(かわの じゅんこ)氏
ライフシフト・ジャパン株式会社 執行役員CMO

リクルートで『とらばーゆ』編集長を務めたのち、住友商事に転身し、新規事業開発に取り組む。2017年にライフシフトし、海外留学を経て、2018年個人事務所を設立。事業開発コンサルティング・プロデュース活動を開始するとともに、ライフシフト・ジャパンに参加。慶應義塾大学SFC研究所上席所員としてライフデザインやコミュニティの研究も行っている。共著に『実践! 50歳からのライフシフト術』(NHK出版)がある。

私たちライフシフト・ジャパンでは、人生100年時代を見据え、これまでの常識や役割意識にとらわれず、自分の価値軸を大切にして人生をアップデートし続けている人たちを「ライフシフター」と定義しています。自分らしい人生の道のりは人それぞれ違ってよいもの。一方、多くのライフシフターにお会いするうちに、いくつかの共通点も見えてきました。

そのひとつが、3つ以上のコミュニティに所属し、人との豊かなつながりを持っているということ。会社と家庭だけでない第3・第4のコミュニティを持つことで、人は多様な価値観に触れ、自分を固定概念から解放するきっかけを得たり、「自分らしさ」に気づいたりすることができるのです。

また、ライフシフターの人生に大きく影響している「人とのつながり」は、きっかけを与えてくれるだけではありません。自分らしい人生を歩んでいくうえでさまざまなサポートをしてくれます。

同じ志を持って一緒に活動する人、挑戦を応援してくれる人。進むべき道のヒントをくれる出会いもあるでしょうし、本気の覚悟を問われることで決心がつく場面もあるかもしれません。色んなタイプの仲間があなたの旅路を鮮やかに彩ってくれます。

そして、ライフシフターたちの人生を変えた「人とのつながり」は、ほんの些細な出来事や偶然の出会いからはじまる場合が多いのも特徴。この連載企画で登場するのも、そんな人たちです。いやいや引き受けた町内会の役員で地域とつながり、世界が広がった人。子どもの朝食としてつくったスープをSNSに投稿したら思わぬ反響を呼んで、スープ作家としての道を歩んでいる人。たまたま参加した社外イベントでの出会いをきっかけに人生を見つめ直し、独立・移住をした人。いずれも日常の中の小さな変化が、やがて大きな決断に発展しています。

だからこそ、最初の一歩は「ためしにちょっと動いてみる」くらいの気持ちで大丈夫。コロナ禍で移動がしづらい今だからこそ、自分の暮らす地域に関心を持ってみたり、家族とじっくり話してみたりするのもよいでしょう。家にいながらでも、SNSやオンラインのイベントを通して世界中と交流することだってできます。また、「人とのつながり」とは生身の人間との関係だけではありません。本や映画などを通して新たな考え方や価値観を学び、刺激を受けることも“つながり”のひとつだと思います。

このような小さなアクションを積み重ねていくうちに、やがて自分らしい人生を生きるための価値軸が見つかるはず。すぐに見つかる人もいますが、5年かけて悩み苦しみながらようやく見つかったという人もいます。でも、安心してください。だって私たちは人生100年時代に生きているのですから、焦ることはありません。40代も50代も、60代だって、まだまだ時間はたっぷりあります。この長い旅路を、ぜひ楽しんでいきましょう。

参考:
ライフシフト・ジャパンHP

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