マネジメント層の意識改革がダイバーシティの鍵を握る? 理論と事例に学ぶマネジャーに求められるこれからのスキル
2018年03月02日
2018年1月29日(月)、iction!事務局主催のイベントとして「ダイバーシティ組織のマネジメント層に求められることとは」と題し、企業の人事部門向けにセミナーを開催しました。
イベントの冒頭、iction!事務局長の二葉美智子より、女性の就業率の変化ならびに妊娠出産を機に仕事を辞めた人と辞めなかった人にどのような違いがあるか、という点について調査データを紹介しました。
妊娠出産を機に仕事を辞めた人と辞めなかった人の間で顕著に見られる差が、 育児に対する職場の理解の有無や会社の制度が適切に運用されているか否か、という点でした。
職場の理解や制度の適切な運用を促すためには、組織を運営するマネジメント層の理解・ 育成が大事であること。そうすると結果的に、妊娠・出産をきっかけに女性が辞めなくて済むということ。 さらにはダイバーシティ組織を実現する点でより一層重要になっていると指摘します。
個のマネジメントスキルに依存するのではなく組織としてのバックアップを。
・働き方改革を通じた長時間労働の是正/テレワークを始めとする働き方の柔軟化
・構造的な人材不足/グローバル化に伴う人材の多様化
・マネジメント層のプレイングマネジャー化...
第一部で「多様な部下をマネジメントする秘訣とは」と題し、 講演をおこなったリクルートワークス研究所 所長の大久保幸夫は、 現在のマネジャーはこれまでとは異なり、多重な業務負荷を抱えているといいます。
「働き方改革に伴い会社はルールや制度を整えていくが、現場での運用をどうしたらいいのか」 「ダイバーシティに伴い女性の部下や高齢者、LGBTsやメンタルヘルスの問題を抱える部下など、 これまで関わる機会の少なかった人材もマネジメントすることが求められており、 社内での過去事例もほとんどない」
「プレイングマネジャーとして成果を追いながら、ひと昔と比べて多様な領域をマネジメントすることが求められている」
やり方を変えずにひとつひとつに対応すれば業務量が増え、さらなる高ストレスにさらされる...。 本来こうした問題を解決すべきマネジャー自身が現在その問題に直面していると指摘します。
大久保はこうした問題について、現場のマネジャー任せにするのではなく、 組織的な対策を取らなければならないと話します。
具体的には専門支援部署の設置や産業医の活用、そして研修・勉強会の整備。 これまではマネジメントについて以前の上司から受けてきたマネジメントを再現することで、 それほど新しいスキルやテクニックを学ばなくてもできたことがあったといいます。 しかしマネジメント対象がこれまでの同質的なメンバーから多様なメンバーに変化している中では 新たにスキル・テクニックを学ぶことが求められていると指摘します。 ある程度マネジメントを経験したマネジャーに対して、多様な人材をどうマネジメントすべきか、 ジョブ・アサインメントの考え方を学び、普段行なっている業務を言語化し分解した上で 効率化を図りながら組織活性化に活かしていく、といった研修をした方が良いと話します。
「ダイバーシティ経営、働き方改革というのは人材・人事という問題に関しては大きな構造的な変化です。 構造的な変化が起こった時というのは、会社は個人に問題解決を委ねるのではなく、 体制を作り変えていかなければならない。そういう変化の中に現在のマネジメント問題があるのではないか、 という風に思っています」(大久保)
マネジメント層をバックアップするための組織運営とは
第二部では「実践から学ぶマネジメントの進化」というテーマで日本生命保険相互会社にてダイバーシティ推進を担当する浜口知実氏、リクルートホールディングスにて同じくダイバーシティ推進を担当してきた伊藤 綾、リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所所長の古野庸一を招き、 パネルディスカッションを行いました。
日本生命で現在マネジメント層への意識改革の取り組みの柱は「イクボス育成」 というキーワードだといいます。
日本生命のダイバーシティの取り組みは、約7万名の従業員のうち9割が女性であったことから、 女性活躍推進から始まったといいます。当初育児との両立支援から始まり、 次に女性のキャリア支援の方にフェーズが移った際に課題になったのが、 周囲の男性をどう巻き込んでいくか、という点。そこで「男性育休100%取得推進」 に象徴される男性の理解を得ていく取り組みを推進したところ、一人で抱えていた仕事を共有 するようになったり、業務プロセスを見直し、効率化を意識するようになったりと、 管理職も含めて組織風土が変わる大きなきっかけになったといいます。
さらにはワークライフバランスという点で育児中の職員だけではなく、 介護やそれ以外のケースも含めて全従業員に尊重すべきライフがある、 という観点から職場のキーパーソンとなる管理職をターゲットとして意識改革を図るべく 「ニッセイ版イクボス」の育成に着手したそうです。
「ニッセイ版イクボス」とは「4つのイクジ」を実践する人、次世代を育成する「育次」、 闊達な組織風土を作る「育地」、部下のワークライフマネジメントを大切にする「育児」、自らも成長する 「育自」と定義し、社内に発信しています。
こうしたイクボスを育成するために大きく3つの軸で取り組みを行っているそうです。
①イクボスが主導して部下に働きかける仕掛けを提供
②イクボスにマネジメント力を高めてもらうためのインプットの機会を提供
③イクボスの上司の大ボスにも率先して行動してもらうこと
具体的には管理職がイクボス宣言をしたポスターを部下に見えるように掲示し、 「イキイキ職場ミーティング」と題し年に3回、部下との対話の場を持つこと。 育成のレベルアップの機会を図るため管理職向けのセミナーをおこない、 部下へのキャリア面談マニュアルの提供、そして一度きりの意識づけで終わらないよう毎月管理職向けの メルマガを発行すること。さらには社長から働き方に関するコミットメントを発信してもらうことで、 例えば課長の上司である部長への念のための慮りなど心理的な阻害要因を取り除いているといいます。
一方でイクボス育成の取り組みをすることで増える管理職の組織マネジメントの負担に対しては、 職場運営を下支えする部下を「ポジティブアクションリーダー」として 任命するよう仕組みを整えているそうです。
「ポジティブアクションリーダーを職場に設けて、連携をとることで、少しでも管理職の負荷を下げつつも、『管理職が主導している』という形で提供することに重点をおいて運営しています」(浜口氏)
リクルートホールディングスでは「Career Cafe 28」という28歳前後の女性メンバーに行う研修に 合わせて、その上司を主な対象に管理職に対しても「Career Cafe 28 BOSS」 というセミナーを行っているといいます。女性メンバーには今後のキャリアを考えるとともに、 キャリアに活かす自らの強みを棚卸しする機会を、そして上司には女性メンバーに対するマネジメント 手法を学ぶ機会を提供することで、普段の職場に戻った際に互いに一歩踏み込んだ対話を生み 相互理解を図っているといいます。
「管理職も悩んでいます。どうやって女性社員のいろいろな事情を考えながら、 キャリア形成の動機付けを行っていけばいいのか。具体的にどうコミュニケーションをとったらいいのか。 女性が管理職を目指したがらないのは自分自身のマネジメントに問題があるからじゃないか。 そうした悩みを受け止めて解決できるような支援を適宜行っていくことが重要です。 『Career Cafe 28 BOSS』ではグループワークを通じて管理職同士で悩みを共有し、 ロールプレイングも実践するため、参加者からは『明日どのような声をかけるか』 といった具体的なところから変化が生まれた、といった評価をいただいています。」(伊藤)
個人としての充実がマネジメントスキルの向上につながる
リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所所長の古野は「ボス充」 というキーワードを通じて、昨今のマネジメント層に求められる変化を話しました。
「ボス充」とは育児や趣味、勉強や副業など社外の経験を積んで生活を楽しんでいる管理職・ ボスの方がメンバーから支持されている、という昨今の現状を指して新たに打ち出した造語です。 社外で多様な経験をしてきているがゆえに、社内の多様さを理解できるということにつながるのではないか、 といいます。
一方で社外の時間を充実させましょう、といった話をすると「ただでさえマネジャー業務で忙しいのにこれ以上どうするの?」といった指摘もあるそう。ただ、社外活動は何でもかまいませんし、1つでも複数でもまったく問題ありません。とにかく、現在の仕事に直接関わること以外のことを行ったり、楽しんだりすることが大切なのです。また、一度社外活動を始めてしまうとその時間までに仕事を終えなければいけないことから、 効率的に時間を回すためにはどうしたらいいか、という点に頭を働かせるようになる、とのこと。
「会社ってなんのためにあるのか、という話があると思います。おそらく会社の論理と世の中の論理は違うことも多いのだろうなと思っています。若い人たちは既にそういった感覚を持っていて、『なんでこの会社ってこんなことやってるんだろう』と引き気味に見ているフシもあるようです。そういった意味も含めて『ボス充』というのは社内のことも、 社外のことについても、もっと知りましょうということだと私は思っています。」(古野)
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