中川 賢治
(株)リクルートキャリアコンサルティング キャリアカウンセラー
リクルートグループで新卒・中途採用支援の企画営業や新規事業(現ホットペッパー)の立ち上げに従事。その後、人材紹介会社にて経営管理職として経営管理、営業、カウンセラー業務を経てリクルートキャリアコンサルティングに入社。カウンセラーとしてキャリア相談や再就職支援を担当している。
2020年12月24日
「自分の意思で転職や独立、異動・出向・副業等をしている人や、意図しないキャリアチェンジでもその変化を機に自分の進むべき道を自覚した人ほど、仕事もプライベートも充実している」。前回の記事では、調査結果から見えてきた、中高年のキャリアと満足度の関係についてご紹介しました。
では、主体的にキャリアを決断している人とそうでない人にはどんな違いがあるのでしょうか。私たちが、45歳〜64歳の働く価値観を調査した結果では、アクティブに考え行動していくには3つの壁を乗り越える必要があることが見えてきました。今回ご紹介するのは、ミドル・シニアをキャリア意識の度合いで分類した「自信なし層」「将来不安層」「展望層」「行動層」のうち、「自信なし層」がぶつかっている「自信の壁」。"将来を見据えると今のキャリアにはもやもやする。このままでいいのかと思ってはいるけれど、自分に自信が持てず動けない"という人たちは、どうすれば壁を突破できるのでしょうか。
※詳しい調査の背景・対象ついては、「調査にあたって」をご覧ください
自分のキャリアに関心はあっても、行動に移せないのはなぜなのか。その理由を「自信なし層」「将来不安層」「展望層」に問いかけたところ、回答の傾向にはそれぞれの特徴が見られました(図1)。
「自信なし層」は、「どのような手段・方法が適切なのかわからない」が1位。具体的なキャリアの選択肢(転職・独立・起業・フリーランス・副業・社内制度を活用した異動・出向など)がわからない場合に加えて、年齢の壁を感じるからこそ自分の世代に適した手段が分からず動けないという意味合いもありそうです。
また、「2位:専門知識・資格が不足している」「3位:社内でのビジネススキルが他で通用するかわからない」と、自らの知識・スキル不足を不安に思う気持ちが、自信を持てない原因であることが分かります。これらを総合すると、キャリアを考えるための全般的な情報が他の層に比べて不足しているとも言えるでしょう。
図1:キャリアのための行動をしない(できない)理由
自信を付けるためにはどんな状態を目指せばよいのでしょうか。そのヒントを探るべく、私たちは対象者にメンタル・スキルの両面から自分自身をどう捉えているかを聞いてみました。(図2)。
「自信なし層」と最も前向きな「行動層」のスコアを比較してみると、ギャップが目立ったのは、自分の仕事の能力をどう評価しているか。例えば、「将来、困難なことが起きたとしても、私は大丈夫だと思う」が44ポイントと最も乖離しており、「自分の強さが好きである」「将来、状況が変わっても、自分を頼りに乗り切っていけると思う」の差も顕著。「自信なし層」は「経験の積み重ねとともに、自分を頼りにできるようになった」の割合も他の層より少なく、仕事で自らの価値を発揮できたと実感する機会が少なかったことがうかがえます。
また、「自身のキャリアの棚卸しができている」の差も42.1ポイントと大きく開いているのも特徴。キャリアの棚卸しは一般的に自分の得意不得意を自覚し、自分が活躍しやすい環境を知る効果があると言われていますから、自分に自信があるかどうかは、個人の能力の大小というよりも「自分の特徴をどれだけ知っているか」が大きく関係していると言えるでしょう。そもそも10代後半〜20代から継続的に就業している人であれば20年〜40年と働いてきた実績があり、それぞれの仕事で何かしらのスキルを習得していると考えられます。「自信の壁」を突破できない原因は、「本当は能力があるのに、自らの価値を実感できるような機会が少なかった」からではないでしょうか。
図2:自身の状態(自分自身をどう捉えているか)
では、自分を見つめ直す機会を増やすには何をしたらよいのでしょうか。そのヒントは、人間関係にありました。図3のように、周囲のさまざまな人間関係の中で悩みを相談できる相手を調査。すると、「行動層」は「自信なし層」に比べていずれの人間関係においても悩みを打ち明けやすい間柄を築いていることが見えてきました。これは、自組織の同僚・上司など社内の関係性はもちろん、取引先や社会人コミュニティ、地域コミュニティなど会社の外の人間関係にも共通すること。職場の内外を問わず、様々なコミュニティと繋がりを持っていることが分かります。
自分の強みや得意なことを自覚している人は、自分と近い立場の人だけでなく、他部署のメンバーや取引先など幅広い立場の人との関係が深いということ。客観的な視点で自分のよい面や弱点を指摘されたり評価されたりする機会が多いため、自分自身では気づきにくいような強みを自覚し、自信を得ていることがうかがえます。
図3:周囲の人間関係(悩みを相談できる相手)
中川 賢治
(株)リクルートキャリアコンサルティング キャリアカウンセラー
リクルートグループで新卒・中途採用支援の企画営業や新規事業(現ホットペッパー)の立ち上げに従事。その後、人材紹介会社にて経営管理職として経営管理、営業、カウンセラー業務を経てリクルートキャリアコンサルティングに入社。カウンセラーとしてキャリア相談や再就職支援を担当している。
長年同じ環境に身を置いてきた人にお伝えしたいのは、「自社の当たり前は、世の中の当たり前ではない」ということです。例えば、私が以前キャリアカウンセリングを行った40代半ばのAさんは、工場でオペレーターの仕事をしてきた人物。誇れる経歴は何もないと話すAさんでしたが、詳しく聞いてみると、20年間無遅刻無欠勤で昼夜二交替制の仕事に向き合ってきた勤勉さをお持ちでした。Aさんいわく「社内ではそれが当たり前」。でも、社会一般に照らしてみると、20年も休まず続けられるのは並大抵のことではありません。そこで私はAさんに、仕事に向き合う真摯な姿勢がご自身の強みではないかとお伝えし、それをアピールした転職活動で、再就職を実現されています。
また、専門職を続けてこられた方も、ぜひ社外と接点を持ってみてほしいですね。50代後半のBさんは、アパレルメーカーでデザイナーとして働いていましたが、昨今の業界不振を受けてキャリアチェンジのご相談にいらっしゃいました。デザイナー以外の道がイメージできないと話すBさんでしたが、これまでのキャリアを紐解く中で私が注目したのは「関係者との折衝・交渉を繰り返してデザインに落としこみ、納期厳守で着実に具現化する力が強い」こと。人柄も明るくタスク管理や折衝ごとに長けたBさんなら、企業の管理部門やコールセンター・接客サービスのSV等でも十分に活躍できると他業界での選択肢をご提示し、将来の可能性をイメージしていただきました。
自分のよいところを自分自身で探そうとしても、案外分からないものです。自分一人の視点では見えなかったことが、客観的な視点を借りれば気づきやすくなります。最近は大手企業を中心に「企業内キャリアカウンセラー」を設けるケースも増えていますので、まずは身近なところに機会が転がっていないか調べてみるところから始めてもよいかもしれません。
このようなアプローチで自分の強みを自覚することができれば、第一関門の「自信の壁」は突破できるはず。しかし、それだけでは将来が不安な気持ちは解消しきれないことも見えています。次なる壁は「展望の壁」。将来のために主体的にキャリアを決断していくには、さまざまな選択肢を知り、自分に合った最良の選択ができる状態が欠かせませんが、今の環境以外でも活躍できる可能性が見えないと、結局は今の仕事を続ける選択しかできません。この壁を乗り越えるにはどうすればよいのか。次回は、「展望の壁」そして最終関門である「行動の壁」を突破している人たちの傾向について、調査結果から詳しくお伝えしていきます。
40代後半~60代前半の働く価値観調査