ミドルシニア 40代後半~60代前半の働く価値観調査

Vol.4:研修・副業・趣味の仲間...。40代〜60代をポジティブに働く人の共通点は、会社を越えた交友関係にあり

調査レポート副業・兼業

2021年01月07日

Vol.4:研修・副業・趣味の仲間...。40代〜60代をポジティブに働く人の共通点は、会社を越えた交友関係にあり

40代以降もキャリアを前向きに考え行動するためには、3つの壁を乗り越える必要がある。45歳~64歳の男性・女性に聞いた働く価値観の調査結果から見えてきた阻害要因のうち、前回は第一の壁「自信の壁」についてお伝えしました。

「自信の壁」を乗り越える秘訣は、より幅広い立場の人から客観的に自分の評価を聞く、キャリアの棚卸しをするなど、自分の長所短所や、志向性などを自覚すること。それでは、第二、第三の壁はどう突破していくとよいのでしょうか。「仕事や会社を変えたいけれど、社外で通用するかが未知数で不安」「キャリアチェンジしたい気持ちはあるけれど、現状に大きな不満はないしなかなか動けない」といったお悩みへのヒントをご紹介していきます。

40代後半~60代前半の働く価値観調査

※詳しい調査の背景・対象ついては、「調査にあたって」をご覧ください

環境の変化が怖い「将来不安層」、現状にある程度満足している「展望層」

前回の記事でもご紹介した通り、キャリアに関心があっても実際は行動を起こしていない「自信なし層」「将来不安層」「展望層」は、そのカテゴリーによって行動しない(できない)理由が異なりました(図1)。

図1:キャリアのための行動をしない(できない)理由
キャリアのための行動をしない(できない)理由

※各層の上位7位の理由を掲載

第一の壁は突破しているけれどまだまだ不安が大きい「将来不安層」は、「環境を変えることに不安があった」が1位。「2位:行動をするための時間がない」「4位:社内でのビジネススキルが他で通用するかわからない」も特徴的。総合すると「今とは違う環境に踏み出すことを考えなくもないが、そこで自分が活躍できると思えるほど外のことを知らない」のが、第二関門「展望の壁」の正体だと言えます。長年同じ会社・同じ部署で働いている人も多いため、若い時よりも環境を変えることに慎重になるのかもしれませんし、特に40代50代であれば、一般的に子どもの進学などお金のかかる時期とも言われています。「家族のためにも失敗はできない」という気持ちが強いのかもしれません。

続いて、「展望層」の行動を阻む「行動の壁」とは何なのでしょうか。図1で示している通り、キャリアに意欲的な「展望層」が実際の行動を起こしていない理由に注目してみましょう。すると、その理由で最も多かったのは「(今の)仕事内容に満足している」。次点に「行動をするための時間がない」が来ており、そもそも「展望層」は現状にある程度満足しており、わざわざ時間をつくってまで今すぐ行動を起こそうとはしていないことが分かります。言い換えれば、最後の壁を突破するには、"わざわざ時間をつくって動きたい"と思えるほどのきっかけや目的が重要になってくるということでしょう。

今とは異なる環境に身を置き、「なりたい自分」を見つけること

では、こうした二つの壁を乗り越えた「行動層」はどのようにキャリアを決断・行動しているのでしょう。図2に示した4名は、決断時の状況はさまざまですが、共通するのは、「今とは異なる環境に身を置いた経験がある」こと。人事異動、転職サービスの利用、副業、知人からのアドバイスなどをきっかけに、自分の職場とは違う仕事のやり方・価値観に触れており、これらによって「展望の壁」を突破していることが分かります。また、きっかけこそ現状の不満であっても、外部環境に挑戦をするなかで理想の働き方や目指す姿が自覚できた人は、将来のキャリアを見据えた前向きな決断をしている様子。つまり、「行動の壁」を突破できた人は、「自らの意志でキャリアを築く理由」を獲得している人たちだと言えるでしょう。

図2:行動層のキャリア決断エピソード
行動層のキャリア決断エピソード

職場の不満で乗り越えても、キャリアに自信を持てない

一方、「自信なし層」や「将来不安層」の中にも、実際にキャリアの決断をした人はいますが、「行動層」とは何が異なるのでしょうか。図3は、対象者のうち「40歳以降にキャリアの決断(転職や自らの希望による部署異動など)をした人」に限定して、その決断に影響した事柄を調査した結果です。

最もキャリア意識の温度感が異なる「自信なし層」「行動層」を比較してみると、「自信なし層」は、過去の決断の要因に「人間関係の悪化」「出世が見込めない」「仕事への不満」を挙げる傾向が強く、不満を主要因にしてキャリアの決断をしても、自信の獲得にはつながりにくいことがうかがえます。対してキャリアに前向きな「行動層」は、「副業・兼業」「社外研修」など、外部との接点がキャリア決断に影響している割合が高い結果。やはりここでも、通常の仕事を越えた人や環境との接点が密接に関わっていることが分かります。

図3:40歳以降にキャリア決断する際に影響があったこと
40歳以降にキャリア決断する際に影響があったこと

※小数点第二位を四捨五入

COLUMN―専門家の視点―
キャリアチェンジの「理由」と「目的」は、似て非なるもの

キャリア研修・キャリアセミナー主催 杉江則子

キャリア研修・キャリアセミナー主催 杉江 則子

(株)リクルートキャリア ミドル・シニア領域プランナー

リクルートグループの求人広告営業を経て、2000年リクルートエイブリック(現リクルートキャリア)で再就職支援事業の立上げに携わる。以降一貫してミドル・シニア領域に従事。2010年から人材紹介事業でシニア層のキャリアアドバイザー、事業開発、業界団体の委員としてポータブルスキルの開発に関わり求職者・企業双方に向けた啓発活動を行っている。

今のミドル・シニアは新卒で入った会社を定年まで勤め上げる人もまだまだ多い世代で、若い世代に増えている「キャリアアップのためには仕事や会社を変えてもよい」という価値観は、少数派です。自分のキャリアを考え直したい人は、"やむを得ない事情がある"ことがほとんど。例えば、上司とどうしてもそりが合わない、給料が下がった、不本意な配置転換があった...など、それ自体はキャリアを考え直す動機としてごく自然なことだと思います。

ただし、私たちがよくお話ししているのは、「"動機"と"目的"は分けて考えましょう」ということ。例えば会社の上司と喧嘩して辞めざるをえなくなったことが転職動機だとしても、「上司とうまが合うこと」だけをキャリアチェンジの目的にして次の会社を探すのは危険です。ネガティブを解消した先に自分がどうありたいか、どんな価値を発揮して会社・組織に貢献したいかが大切で、それがないと新しい職場には受け入れてもらえません。

そこで、私たちのセミナーでは転職目的を明確にするために、「自分の過去を振り返る」ワークや、「相手の(客観的な)視点を体験する」ゲームを実施。無自覚だった自分の強みに気づいたり、いろんな立場の視点を獲得して客観的に自分をみつめたりする機会を提供しています。

実際に私がセミナーでお会いした方々も、単に自分に強い意思があって次のキャリアを決断したというよりは、第三者の存在が重要な鍵になっている場合が多いですね。例えば、好きが高じてカレー専門店を開業した元電機メーカー勤務の方は、あくまで趣味だったカレーを町内の集まりで振る舞い、みんなの意見を聞いて改良を重ねながら自分の納得のいくカレーをつくりあげたことが、「自分はこれで生きていける」という自信につながりお店を出すきっかけになったそう。また、「給与が下がった分を補填したい」と飲食店でアルバイトの副業を始めた人も、本業では個人のお客様となかなか触れ合う機会がないため、直接ありがとうと言われることが嬉しく仕事の励みになっているそうです。

このように、普段の仕事から少し離れたところに身を置いてみると、仕事では知り合わないような人と話す機会が増え、「どうせ自分は今の仕事しかできない」という思い込みを外すきっかけになります。まずはここから始めてみるのも、ミドル・シニアのキャリアの悩みを解消するには効果的ではないでしょうか。

年齢を重ねても、その人らしく活躍を続けられる社会にしていくには

「自信の壁」「展望の壁」「行動の壁」。40代以降のキャリアを阻む3つの壁を突破するには、「キャリアを振り返り、自分の特徴を自覚する」、「組織の外と接点を増やし、さまざまな選択肢を知る」「実現したい理想像を持つ」ことが効果的だと、調査結果は示してくれました。しかし、「キャリアの棚卸しなんて、やったことがない」「今の組織では制度上の制約がある」など、なかなかアクティブに考えられない人がいるのも現実ではないでしょうか。

かたや、企業・社会は早期退職や定年延長など、高齢者就業に影響する動きが活発化しています。それならば、本人たちの自主性に任せるだけでなく、企業や社会で支援していく必要があるのではないか。次回、調査結果報告の最終回では、40代~60代が必要としている制度・サービスに焦点を当て、社会のあるべき姿を考えていきます。

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