何気ない夫婦の会話なのに、ふとしたきっかけで"すれちがい"が発生すること、ありませんか? そこで、「夫婦すれちがい会話相談室」では、実際の会話と相談内容を元に、専門家が会話のポイントをアドバイス! 今回のアドバイザーは、NPO法人子育て学協会会長の山本直美氏。長年の幼児教育を通して、これまで6000人以上の子どもと向き合いながら、その保護者に対して「ファミリー・ビルディング」の視点からアドバイスをされてきました。イクメンブーム到来前から、父親の育児参加と伸びる子どもの関係を具体的に示唆されてきた山本氏に、夫から協力を得られる対応をアドバイスいただきます。
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お友達がお稽古始めたから「⚪︎⚪︎ちゃんもしたい」って、毎日言うんだけど。
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させてやればいいじゃん。将来のためだよ。
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毎週送り迎えして、お稽古中ずっと付き添ってないとならないのよ。
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なんとかなるでしょ、協力するし。
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またそうやって、私がなんとかするんだから、結局は。
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協力してますよ、保育園の送り迎えだって。
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あなたの言う協力レベルじゃ、無理なんだってば!
【相談内容】
夫が子どもに甘く楽観的、習い事も子どもがやりたいことをさせたがり、こちらは4歳と2歳の育児と仕事で毎日が手いっぱい。「協力する」と言いながら、結局はほとんど私に任せきりで、いつもぶつかってしまいます。夫が本気で協力してくれるようになる切り返し方って、ないでしょうか?(会社員女性)
【妻側】「協力する」と言葉だけの夫を本気にするには?
子育てが大変な時期、実はどのご夫婦も同じような課題にぶつかっています。「こんな気持ちになるのは、自分だけ?」と悩まれる方も多いのですが、私がたくさんのご家族の関係構築(ファミリー・ビルディング)をお手伝いしてわかったのは、子どもが年齢によって同じような発達課題に直面するのと同様、「夫婦にも発達課題がある」ということです。まずは、このことを知っていただいて、「今の悩みは、どんな家族や夫婦も遭遇する発達課題にぶつかっているだけ。私たち夫婦が成長していくための途中段階」と考えてみてください。
子どもの発達課題は丁寧に向き合っていかないと、成長後に問題が起きてしまうように、夫婦の発達課題も、感情だけで判断してしまうと、好き嫌いの感情領域から出ないまま年月が経ち、修復不可能になってしまいます。
たとえば、子どもがお片付けをしない課題に対して、「もーっ!片付けなさい!」と、毎回怒っているだけでは変わりませんよね。自主的にお片付けができるよう、言い方を変えてみたり、片付けやすく環境を整えてみたりと、工夫すると思います。同様に、ご主人が協力してくれない課題に、「もーっ!手伝ってよ!」と怒って嫌な感情を抱いているだけでは変わりませんから、こちらも少し俯瞰しながら、手伝ってもらうために工夫することが必要になってきます。夫婦の発達課題に対する解決策探しです。では、2ステップでお答えしていきますね。
<ステップ1>「あなたみたいなパパで、うちの子は幸せ」と、まずは認めましょう
人は誰でも近しい人を自分モードにしたいという気持ちを持っています。私が接してきたほとんどのパパやママたちも、家族に言うことをきいて欲しい、つまり、自分モードに洗脳したいと心の中では思っていました。特に仕事ができる優秀なママほど、自分で考えて仕事を遂行していく経験を重ね、先読みすることがとても上手です。仕事と子育てを両立するママに余裕がある人なんていませんから、この先読み能力を存分に発揮するのですよね。ご相談者様もお子さんのお稽古話から、自分ごととして、ご主人の協力体制を先読みされて、「無理だわ」と瞬時に判断されたのですよね。
自分モードに洗脳したいというのは、言い換えると「信用はするけど、信頼はしない」ということを意味します。相手に対して自分が思うように「信じて用いたい」とは思うけれど、相手を「信じて頼ろう」ということはできない。信頼するというのは、先読みしてしまうママにとっては、とても難しいことなのですね。
私がパパたちに「ママにどうして欲しいですか?」と聞くと、「信頼して欲しい」と答える方が圧倒的に多いのです。パパたちは、先読みされて「どうせできないでしょ、やらないでしょ」と言われるより、「あなたに任せるわ」と頼ってもらえるほうが嬉しいし、手伝おうというモチベーションもぐっと上がります。
たとえば、日曜日に子どもと留守番して「ちゃんとお昼も食べさせてね」とパパにお願いしたとします。パパを信用しているから頼めることですよね。ところが、ジャンクなファーストフードに連れて行ったとなると、日頃から食べ物に気をつけていたママは「そんな所で食べさせないでよ!」と怒ってしまうのです。子どもたちが喜んでいたらなおさら、ママは日常の頑張りを否定されたような気持ちになってしまいます。
そこを、「信頼して任せたのだから、たまにはジャンクでもいいか」と割り切ってみる。そして「パパと行けて楽しくてよかったね。パパ、助かったわ、ありがとね」と言ってみる。自分モードの洗脳を手放すのです。「じゃあ、次回はママからお店を3つ提案するから、今度はそこから選んでもらおうかな」くらいに切り返せたら、たいしたものです。そういうことができると、パパも怒られずに、また子どもと留守番しようという気になりますよね。
ママだって、すべてを先読みして一人で抱え込んでしまうのは、あまりに大変ですよね。頼り方を覚えるのも大事です。子育ては共同作業なのですから、もっとパパを信頼してみませんか? パパが習い事を好きなようにさせようと言うのだから、それを信頼して任せてしまうのです。「習い事は何もさせなくていい」というパパに育てられるより、お子さんたちは幸せですよね。「そうね、あなたの言うとおりね」とまずは認めてあげましょう。そして「将来のために好きなことをやらせようなんて、あなたみたいなパパに育てられるうちの子は幸せね。うらやましいくらいだわ」なんて言ってみたら、パパはきっと「だろ?」なんて、得意になって、喜んでくれるはずです。
<ステップ2>「じゃあ、いつなら行ける?」と聞いて本人から日程を出してもらいましょう
パパが喜んだタイミングを逃さずに、次は「じゃあ、 何曜日の何時頃なら、お稽古に行ってもらえそう?」と、自発的に曜日と時間を選べるように持ちかけてみるのです。そして、家族みんなに見えるカレンダーに、パパが送り迎えすると言った日のスケジュールを書き込んでもらいましょう。
予定をきちんと「見える化」するのです。自分から約束して書き込んだスケジュールは、パパだって守ろうと努力しますよね。しかも、女性より男性のほうが、生物学的にも「視覚優位」。視覚に訴える家族のカレンダーは、男性脳にインプットされやすいので、パパを信頼するためのツールとしても効果を発揮してくれるはずです。
そして、再現性を持たせるための意識づけをしてあげましょう。やってくれた時は、雑にではなく、きちんと「ありがとう」を伝えます。早く迎えに行って欲しいからと「お迎えに遅れないで行ってよね!」と釘を刺してしまわずに、「10分前にお迎えに到着してると、早く来てくれたんだ!って、子どもは喜ぶのよね」と、パパが行動を再現できるような、具体性のあるプラスの言い方を試みてください。
もし、マイナスのことを口走ってしまったとしても大丈夫です。「マイナスのことを言ってごめんね。自分でもいやなこと言っちゃったなと思う」と、素直に謝ればいいのです。そのように夫婦で自己開示する習慣ができてくれば、さらにコミュニケーションはスムーズになるはずですよ。
【夫側】もっと本気で育児をしてと妻に求められたら
「一緒に頑張ろうよ」と自分達は仲間であることを伝えましょう
「ママが一人で頑張らなくても、子どもを育てる仲間だよ」という気持ちが伝わると、奥さんも安心できると思います。家族がひとつのチームであるということを意識した言葉で「一緒に頑張ろうよ」と言ってあげてください。男の子というのは、幼少期に「一緒に、一緒に」という言葉を頻繁に使う子が多いのですが、大人になるに従って、なぜかその言葉を言わなくなってしまうようですね。
家族で一つのカレンダーに予定を書き込み、「来週のこの日とこの日、パパは忙しいから帰りが遅くなるけど、この日のこの時間なら大丈夫」と、スケジュールを見える化して、共有できるようにしてみてください。「結局、私がやるんだから」と、パパにとっては否定されているような言葉を言ってしまうのは、ママが子育てに一生懸命な証拠。チームとして一緒にやろうとするスタンスが伝わるようになれば、徐々にお二人のコミュニケーションも変化していくと思います。
プロフィール
山本直美氏
特定非営利活動法人子育て学協会会長。(株)アイ・エス・シー代表取締役。幼稚園教諭を経て、大手託児施設内の立ち上げに参画。95年より自らの教育理念実践の場として、保護者と子どものための教室「リトルパルズ」を運営。キッザニア日本進出時の安全管理監修、リクルート事業所内保育室やウィズブック保育園、リトルパルズ・アカデミーなどを運営。独自の教育プログラムや保護者向けの講座を提供。著書に、『できるパパは子どもを伸ばす』(東京書籍)、『子どものココロとアタマを育む 毎日7分、絵本レッスン』(日東書院)など。
(株)アイ・エス・シー
特定非営利活動法人子育て学協会
【夫婦すれちがい会話相談室】
アドバイザー:『伝え方が9割』の著者 佐々木圭一氏
アドバイザー:映画『うまれる』『ずっと、いっしょ』の監督 豪田トモ氏
アドバイザー:NPO法人子育て学協会会長 山本直美氏
アドバイザー:NPO法人ファザーリング・ジャパンの元祖イクボス 安藤哲也氏