両立支援 世界の人々の「両立」のアイデア

北欧の育休事情:男性の仕事と子育ての両立 ~ノルウェー事例~ | Ex.02

北欧の育休事情:男性の仕事と子育ての両立 ~ノルウェー事例~ | Ex.02

日本でも共働き世帯が70%を超え、働く女性が産休・育休を取得した後に職場復帰するのが一般的になった今、「子育ては夫婦で協力してやるもの」という認識が、特に若い世代では当たり前になりつつあるといわれています。
また、政府の子育て支援策の一つとして「男性育休」が話題になっている今こそ、女性だけでなく男性も仕事と育児の両立について考えるいいタイミングだと思います。
そこで今回は「世界の人々の「両立」のアイデア」シリーズの番外編として、父親も積極的に子育てに関わる北欧から、各国の育休制度の特徴や男性の取得率が高い理由、夫婦で取得する育休期間の子育て事例を紹介します。
執筆いただいたのは、ノルウェー在住歴15年の鐙 麻樹さん。自身の日常での実体験に加え、実際に育休を取得したパパ・ママに取材し、リアルな「北欧の育休事情」について届けてくれました。



北欧の男性育休

ノルウェーに2008年に引っ越して驚いたのは、オスロ大学のキャンパス内でパパ学生たちがベビーカーを押して歩いていたり、学生寮の敷地内に保育園があったり、パパ議員がベビーカーを押しながら国会へ向かう姿を見たり…。数えきれないほどのカルチャーショックを経験してきた。

ノルウェーの男性議員が「子どもを保育園に迎えに行かないといけないから」とインタビューを断り、日本から来た記者をあぜんとさせていたこともある(私はこの記者は素晴らしいカルチャーショックを体験したと思っている)。家庭で男性が育児や家事をするのは当たり前であり、「イクメン」という言葉もなければ、育児や家事をするからといって褒められることもない。また、子育ては親だけに任せるのではなく、社会全体で子どもたちを育てる。子どもは大切な未来の宝だと、子どもを「尊重」しているのが北欧社会の特長だといえる。



北欧の育児休業制度と男性の育休取得率

北欧モデルを理解する上で、「政治」抜きに語ることはできない。政権交代がある度に育休制度もアップデートする。ではまずはノルウェー、フィンランド、アイスランドの育休制度と手当についての概要を見てみよう。

北欧の育休中のお金のサポート

ノルウェーの育休期間は、両親合わせて49週間(343日)と59週間(413日)から選択することができる。育休期間(49週間)の内訳は出産前の母親に3週間、母親ともう一人の親にそれぞれ15週間、両方の親が分け合う期間として16週間が割り当てられる。期間中の手当は、選択した期間によって異なり、49週間では100%支給、59週間では80%が支給される。また、育休手当をもらう条件は「過去10カ月のうち最低6カ月は収入がある」「年収は最低5万9,310ノルウェークローネ(約78万円)」。*1

フィンランドでは、子どもを産んだ親にのみ与えられる産前休暇とは別に、両親合わせて320日の育休取得が可能だ。それぞれの親が160日ずつを分け合うのが基本で、うち97日はそれぞれしか取得できない。一方で残りの最大63日を互いに譲ることができる。また支給額は育休前の収入によって異なるものの、その期間は手当が支給される。*2

アイスランドの育休制度には労働時間に伴う適用条件はあるものの、両親それぞれに4カ月(240日)、分け合える期間が合わせて4カ月(120日)、両親合わせて12カ月(360日)の育休が認められ、そのうち両親それぞれ6カ月間(180日)は平均賃金総額の80%(上限あり)が手当として支給される。*3

他にも、育休と手当以外に、出産・育児に関わるさまざまな福祉制度が各国にある。例えば、フィンランドには、ベビー服などの赤ちゃんグッズが支給される「育児パッケージ」などの支援も受けられる。また、日本と違い育休手当は収入と見なされ、納税の対象になる。

このように、両親ともに育休を取得することを前提とした制度が導入されている北欧諸国では、男性の育休取得率が非常に高い。それぞれの国の男性育休取得率ついて公的機関に問い合わせたところ、フィンランドは80%、アイスランドは86%、ノルウェーは公表していないということだった。政権が交代するごとにアップデートしてきた育休制度によって、北欧では男性が育休を取得するのは当たり前の次元になっている。日本では「男性の何%が育休を取得しているか」が注目を浴びているが、北欧では、「男性がどれほど長い期間取っているか」が育休の論点だ(育休を取得していても、数週間なのか、数カ月なのかは大きな違いだろう)。


Kelaフィンランド制度説明の公式ホームページ 「Kela」。多様なケースを想定した制度を正しく理解するためにも、親たちは公的機関のサイトで詳細を確認している

ただし、ここで述べた各国の制度はあくまで概要で、片親のみの場合や、親や子どもの身体的な状況、また双子といった多胎児などの状況に合わせて条件や手当は変わる。当事者にとっても複雑な制度のため、公式ホームページで調べたり、問い合わせたりするのが普通だ。

そして、そういった公式ホームページの記載で、触れておきたい点がある。ホームページの育休制度の説明の中で、両親を表すのに「父親」「母親」という表記に固執していないのだ。シングルペアレントや同性カップルの可能性も含めて、「親」「もう片方の親」というような表記がされている。北欧諸国において「パパ休業」など制度の名前にジェンダーが付くこと自体が化石状態になる日もそう遠くはないだろう。

このように男性育休がもはや当たり前な北欧社会で、ノルウェーの父親・母親はどのように子育てに関わっているのか。子育て世代の二人に話を聞いた。




【事例1】育休を取るパパたちへ。家事・育児にも自分が成長できる部分を見つけられれば、積極的に取り組める―ノルウェー・ベルゲン在住のビョルナルさん

ノルウェーの都市ベルゲンで銀行のアナリストとして働くビョルナル・ダーレさん(32)は10カ月の子どもと育児休業中だ。ビョルナルさんはパパ・クオータ制の15週間(育休手当100%)のみ取得し、親同士で分け合うことができる期間の16週間は全てパートナーのカーリさんが受け取った。加えて、子どもが8月に保育園に通い始めるまでに、ビョルナルさんも通常の休暇を数週間取る予定だ。そんなビョルナルさんに話を聞いた。


ノルウェーの都市ベルゲンで銀行のアナリストビョルナルさんは「育児は両方の親が当然のように参加するもの」と考えている 写真:ビョルナルさん提供

── 育休中はどんな生活を送っていますか?

私と息子は朝6時頃に起きて、ごはんを食べたり、遊んだり、近くの森や山を散歩したりしています。背中のベビーキャリアに子どもを乗せて、しっかり準備して外を2~3時間歩くこともありますよ。他にも天気がいい日は「オープン・キンダガーデン」と呼ばれる屋外限定の保育施設やベビー水泳、歌をうたうベビーシンギングなどのアクティビティに参加することもあります。

帰宅したら、アパートの掃除や洗濯、料理、買い物に追われます。家にいるのは私なので家事の多くを私がやるのは自然なことだと思っていますよ。私が職場に復帰したら、カーリとどのように育児や家事を分担するか話し合います。大事なのは両者が公平だと感じる分担だと思っています。


── 育児をする親のために、ノルウェー社会でもっと良くなってほしいことはありますか?

父親向けのアクティビティがもっと欲しいです。地元の公共施設は、出産直後の母親と赤ん坊のためのイベントなどは企画していますが、父親向けには全くないんです。


──日本では、いまだに女性への家事や育児の負担が大きいのですが、お二人は家事・育児の分担をどのように話し合い、計画しているんでしょうか?

私たちにとって重要なのは週ごとにルールを話し合うことです。日曜日などに時間を作って、翌週の分担について話し合っています。どちらがどの家事をして、いつ買い物をして、それぞれ仕事の前後は何をするのかとか。そういったことを定期的に話し合うことで、トレーニングの時間やフリータイムもお互いに確保できて、時間を有効に使うことができます。


ノルウェーの都市ベルゲンで銀行のアナリストと子ども写真:ビョルナルさん提供

──日本の男性が、もっとモチベーション高く家事や育児に向き合うためのアドバイスはありますか?

家事や育児にも、自分が成長できる部分を見つけるといいですよ。私たちは誰もが今よりもっと成長することができます。私は、息子との育休中に料理が得意になりたい。だから料理に興味が湧くし、新しいことも学べるんです。

それに息子に男性も料理をするというロールモデルを見せることもできます。大人として自立した生活を送るためには、誰でも料理や家事をする必要がありますよね。だから息子には自立のためにも自分でできるようになってほしいんです。それに何より息子には健康的で現代観に沿ったジェンダー平等への価値観を持った人になってもらいたい。パートナーとは家庭の責任を分担するのが当たり前だというね。




【事例2】父親も子どもの課外活動に積極的に関わるのがノルウェー流の子育て ―ノルウェー・ハーレスチュア在住の佐脇さん

日本ではある程度の年齢になると、習い事、塾、受験と子どもたちも忙しい時期が続くが、ノルウェーではどうだろうか。現地で3人の子ども(12歳、8歳、3歳)を育てながらノルウェー語翻訳者として活動する佐脇 千晴(さわき ちはる)さんに話を聞いた。


ノルウェーの子ども劇団子ども劇団では、舞台から会場設置まで全てが親のボランティアで作られている 写真:佐脇さん提供

──ノルウェーの小学生は、学校以外の活動はどんなことをしているのでしょうか?

夫婦共働きが普通のノルウェーでは、ほとんどの子どもたちがSFOもしくはAKSと呼ばれる、日本でいう学童保育に通います。SFO(AKS)では外遊び、宿題補助、軽食の提供が基本ですが、さまざまな活動を取り入れているところも多くあります。以前住んでいたオスロのAKSでは、編み物、ダンス、スイミング、スキー、スケート、お料理、演劇、合唱、チェスなどが特に人気が高い活動でした。
ちなみに私の子どもたちはクラシックバレエ、ピアノ、バイオリン、体操教室、スイミング、子ども劇団、ハンドボールなどさまざまな習い事をしてきました。今も続けているのはピアノ、バイオリン、スイミング、子ども劇団です。そして、このような活動を支えているのは専任コーチや先生というよりむしろ保護者なんです。


──保護者はどのように子どもたちの課外活動に関わっているのでしょうか?

例えば、子ども劇団では本番の舞台および会場設営、衣装づくり、照明・音響に至るまで、全て保護者が行いました。子ども達が好きな活動をすることに対して、保護者は協力を惜しみません。ノルウェーの小学校には成績表はなく、塾もありません。週末は家族や友達と過ごす、好きな課外活動を思いっきりさせるというのがノルウェー人の子育てスタイルですね。
学校や習い事の送迎は、母親も父親も平等に行います。何よりも家族を大事に考えるノルウェー人の姿がここに顕著に表れていると思います。また、それを許すノルウェー社会があるからこそ可能なことと言えます。
今の日本の働き方では、父親が仕事を早く切り上げて、子どもの学校や習い事の送迎をするのは難しいのではないでしょうか。日本とノルウェーでは子育て事情以前の問題として、どういう社会でありたいのかという点が大きく違うことにおいても触れておかなければなりません。

ノルウェーの子どもの習い事定期的なバイオリン、ピアノ発表会のほかに、頻繁に教会や老人ホームなどで無料コンサートなどが開催される。ある程度上手になってくるとプロのオーケストラとの共演もある 写真:佐脇さん提供

──学費は無料ですが、習い事にはどの程度の費用がかかるのでしょうか?

公共の体育館などで親が主体となって行われる習い事(ハンドボール、サッカー、体操教室)などでは、シーズンで400クローネ程度(およそ5,300円)の安価。ほぼ無料の感覚で通わせています。スイミングは10回で1人あたり1,300クローネ(およそ1万7,000円)払っています。温水プール使用料とインストラクターに払う分としては高くないと感じます。子ども劇団は半年で1,600クローネ(およそ2万1,000円)です。バイオリン、ピアノは個人レッスンなので半期ごとに2,000クローネ(およそ2万6,000円)払い、楽器を借りることもできます。月謝は首都オスロに比べるとまだ安い方ですよ。



子どもは社会全体で育てる。北欧モデルから学びたい子育ての考え方

オスロ音楽祭の親子オスロの音楽祭に自転車で訪れた家族。車の代わりになる、子どもと一緒に乗れるような大型の自転車や電動自転車が増えてきている 写真:筆者撮影

ここまで紹介してきた育休制度や事例から分かるように、北欧では、両親ともども男女の区別なく子育てに積極的に関わる。そしてそれを可能にするのが、政府が用意した育休制度をはじめとした仕組みであり、何よりも家族を大事に考え、両親が子育てに積極的に関わるワーク・ライフ・バランスを理解する社会であるというのが北欧だ。

このように北欧では「二人の親」「政府」、そして「社会」という三本柱で家庭を支えていると言えるだろう。シングルペアレントなら、政府・社会の柱がさらにサポートする。

子育てを家族だけの責任にするのではなく、子どもは社会全体で育てるというマインドセットは日本ではもっと必要とされるものだろう。もちろん、日本と北欧ではさまざまな違いがある。ただ、こういった北欧モデルの話をする際に、「日本では無理」とはなから決めつけてそこで思考をストップしてしまえば、何も変わらない。参考にできるところを見つけ日本に合うやり方で、より良い方向へと改善することにエネルギーを注ぐことが大事だと私は感じている。全てを一気に変えることはできないが、足元から少しずつ変えていくことはできるはずだ。


*1 出典:ノルウェー社会保険庁NAV
*2 出典:Kela社会保険庁「もし子どもが2022年9月以降に生まれた場合(2022年8月1日、新たな家族休業に関する法律が施行されたため)」・Kela社会保険庁「年収と育児手当の計算式」・フィンランド大使館「フィンランドの子育て支援」
*3出典:デジタル・アイスランド公的機関「育休」

鐙 麻樹

鐙 麻樹さん(Asaki Abumi)

北欧ジャーナリスト。写真家。ノルウェー国際報道協会理事会役員。オスロに在住し、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、スウェーデン、アイスランドに関する情報発信を行う。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了。専門はメディア、ジェンダー平等学など。著書に『北欧の幸せな社会のつくり方 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち:北欧・ジェンダー平等社会のつくり方』(かもがわ出版)

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