両立支援 世界の人々の「両立」のアイデア

日本で暮らす私たちが明日からできること|Vol.10

共働き

2017年08月22日

「働く女性のなかには、自分がしなくてはいけないことと、代役で済むということの住み分けができている人が多い気がする」

長くヨーロッパで暮らした経験を持つある日本人女性は、そんな言葉を口にしていた。ここでいう「自分がしなくてはいけないこと」とは、子供と向き合うことであり、その時間の濃度をいかに上げるか、ということ。南欧の人々を例にすれば、彼女たちは圧倒的にスキンシップを大切にする。子供が安心する心のスイッチの入れ方があり、これは親だからこそ、できることにほかならない。

本連載で、さまざまな国の女性たちに話を聞いたが、共通点はいくつかに絞られる。自分でできないことは思い切って人の手を借りてみること、 そして何より子供たちを一人の人間として、信じてみること。これは、ほとんどの取材対象が口にしていた言葉だ。

一日に「二度」家族でテーブルを囲む

一日に「二度」家族でテーブルを囲む

とはいえ、「人の手を借り、信頼すること」はそう簡単なことではない。たとえば、フランスには「nounou(ヌヌー)」という、 日本でいうところのベビーシッターや保育ママという存在がおり、保育園に入園できなかったとしても、二家族、三家族でヌヌーの家で子供をみて貰う、 という選択肢もある。

アイデアは素晴らしい。だが、現実ではちょっとした波風が立つことがある。 自身の子育てを終えたフランス人女性がヌヌーになることもあるが、移民が多いのも事実。 ひとことで「移民」とまとめるのは乱暴ではあるが、今回、取材した女性のなかにも「文化も食生活も違う点、 そして決して高給とは言えない賃金でお願いすることに抵抗がないわけではない」と口にしていた女性もいた。

一方で、アイデアが素晴らしいうえに、明日からちょっと真似してみたい、と感じたのが、 第5回目に登場していたシルックさんが口にしていたフィンランドの習慣だ。

フィンランドでは、就業時間は午前8時から午後4時まで。午後5時には多くが帰宅し、 6時に夕食を取る。その後は習い事や趣味の時間。そして8時、9時頃、もう一度家族で集まり、サンドイッチなどの軽食を取る。

朝が早いため、朝食は皆で取ることができないが、その代わり、夕食の後、もう一度集まる。そうすれば、一日に二度家族が顔を合わせることができる。 日本とは就業時間が異なるため、まったく同じようにはできないが、夜食タイムでなくお茶タイムにするなどして 「一日に二度」テーブルを囲むことを意識してみると、家族との間に違う景色が見えてきそうな気がする。

日本ならではの解決策を探して

日本ならではの解決策を探して

第9回目に登場したフランス人女性を始め、多くの取材対象が「日本にも良いアイデアはあるはず」と口にしていた。

日本でも両立を目指す親と子どもたちのために、新たなサービスが生まれている。

たとえば、"お迎えシスター"と呼ばれるバイリンガルの学生が、子供たちのお迎えに加え英会話のレッスンまで行うというサービスを 展開する「Selan(セラン)」。代表の樋口亜希さん自身が、共働きの両親に代わり、トルコ、マレーシア、 韓国や台湾の留学生たちと放課後を過ごした経験が起業の原点となっている。

2015年1月のサービススタート以来、利用者は増え続け、直近一年で利用者は約7倍にも増加したという。

子供の送迎・託児を顔見知り同士で行う子育てシェアのプラットフォーム「AsMama(アズママ)」は、 かつての"ご近所付き合い"の現代版と言える。1時間500円から。代表の甲田恵子さんは、かつて子育てをしながらバリバリ働くビジネスパーソンだったが、 「ちょっと人の手を借りたい」と考えた時に、ベビーシッターという選択肢しかなかったことが、アイデアの原点となっている。

仕事も子育ても、どちらも諦めたくない、という女性たちを後押しする大きな流れが今の日本に確実に生まれているように感じる。

第9回目で取材したフランス人女性のディアンヌは、「両立は永遠の課題よね」と口にしていた。でも、そこに悲壮感はなく、 ポジティブに、自分なりの働き方、自分が納得する子育てを軸に解決策を見つけだそうとする姿勢があった。

困難があっても、必ず解決策はある。そう信じて、自分の気持ちに素直に生きて行くことがじつは一番大切なことなのかもしれない。

 

文:古谷ゆう子

幼少期からの13年間をドイツ、フランスで過ごす。 カルチャー、ライフスタイルを中心に執筆。訳書に『パリジェンヌのつくりかた』(早川書房)。

※文中敬称略、写真はイメージ

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