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フランスの母親は、なぜ後ろめたさを感じずに働けるのか。(後編)|Vol.03

キャリア

2017年02月21日

フランスの母親は、なぜ後ろめたさを感じずに働けるのか。(後編)|Vol.03

「フランス人は、"他人"を家にいれることにあまり抵抗がないのかもしれませんね」

第2回目の記事で取材した、アンスティチュ・フランセ東京の教務部長、シドニー・ラコムはそんな言葉を口にしていた。ときに他人の力を借り、仕事と家庭がうまく回るように協力して貰う。これは、フランス人女性の多くが意識して行っていることだ。

シドニーが息子と住み込みのベビーシッターと暮らすように、フランスの多くの家庭は ベビーシッターの手を借りながら子育てをしている。たいていの場合、それは16~20歳くらいの学生だ。 シドニーは、子供がさまざまな言語に触れ、さまざまな経験をして欲しいから、と毎年、 ベビーシッターの留学生を変えたりもしている。ある時はフランス人留学生。 ある時は、ポルトガル人の留学生。そうやって、自分のいない時間に子供が少しでも多くの経験ができるよう工夫を凝らす。

他人とだからこそ、できる経験を

他人とだからこそ、できる経験を

子供は"親以外の大人"と時間をともにすることで多くを学ぶ。 母親と一緒にいては経験できないことも、他人となら可能になることだってある。 産後早くに仕事復帰するフランス人女性の根底にあるのは、こうした考えなのかもしれない。

「子供たちが保育園で習ったこと、そこで子供たち自身が学んだこと。それと同じだけのことを母親が一人ですべて教えられるか、と言われたら難しいと思う」

そう話すのは、日本の大学で非常勤講師として働くバトリシアだ。 日本で暮らして19年。日本人の夫とともに二人の子供を育てる。 「子供が小さいときは、何をするにも、少なからず罪悪感はあると思う」

そうパトリシアは言う。でも、産後早くから子供を保育園に預け仕事をしていたことに関しては、後ろめたさどころか満足しているような口ぶりだった。「何より、子供たち自身、保育園が大好きでしたから。迎えに行けば『なんでもっと遅くに来てくれないの?』とさえ言われました。 日本の認可保育園は素晴らしいと、ほかのフランス人のお母さんもみな口々に言っているんですよ」

「大人の世界」を見せる

「大人の世界」を見せる

子供たちは、小さいながらも身の回りに起こるさまざまなことに興味を持つ。自然に友達ができ、自然と社会性が身に付くようにもなる。

同時に、親が働いている姿を見せるのも、大切なことだと思う、と彼女は言う。 「大人には大人の世界がある。やがて子供たちだって『大人』になる。 大人というものは、どうやって生きているのかを見せるのもまた、子供への『教育』の一つだと思うんです」

自身、母親も父親も働いている姿を見ながら育った。まわりの友達も皆そう。 両親が働いていることは、ごくごく自然なことだった。 「お母さんが働いているから、私は可哀想。そんな風に思った記憶はないですね」 「でも」とパトリシアは続ける。 「日本のように夜遅くまで働いて、ほんの少しの時間しか顔を合わせられない状況だったら、 果たして家族の絆や一体感といったものは生まれただろうか。そう考えることはあるんです」

自分なりの働き方を

自分なりの働き方を

だからこそ、朝食と夕食は必ず家族全員でテーブルを囲むようにしている。 「学校はどうだった?」と聞くのと同じように、自分の仕事についても話す。 夫が忙しくなりすぎているのでは、と感じたら、どうすれば家族の時間を持てるか、とことん話し合う。

大学の非常勤講師という仕事柄、夏休みをしっかりと取れるのも大きい、とパトリシアは言う。 夏休みは、子供たちとともにフランスの実家へ。忙しい日常から離れ、子供たちとゆっくりと過ごす。 こうした切り替えは、子供たちにとっても必要なことだと考える。そして、 「これが自分なりの働き方」と言う。

フランス人女性の就業率は高いが、共通するのは「自分のペースで、無理なく働いている」ということ。自分でできないことは、思い切って人の手を借りてみる。それは、子供にとっても新しい世界に触れるチャンスになる。 そう信じているからこそ、彼女たちは軽やかに働くことができるのかもしれない。

文:古谷ゆう子

※文中敬称略、写真はイメージ

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