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フランスの母親は、なぜ後ろめたさを感じずに働けるのか。(前編)|Vol.02

キャリア

2017年02月13日

フランスの母親は、なぜ後ろめたさを感じずに働けるのか。(前編)|Vol.02

フランスの女性の就業率は80%を超える。実際に働いている彼女たちを見ると、どこか軽やかに見えるのはなぜ? コツはあるの? 日本で暮らすフランス人女性に聞いた。

飯田橋駅から歩いて10分ほど。まずは、フランス政府の公式機関「アンスティチュ・フランセ東京」の教務部長、シドニー・ラコムのもとを訪れた。「フランス人女性がどのように両立しているのか知りたい」と知人を通して何人かに声を掛けてみたところ、すぐに興味を示してくれたのが彼女だった。

日本に来て3年目。長く「教育」に携わり、これまでフランスやカナダ、ブラジルなどでも仕事をしてきた。 産後すぐに仕事復帰した後、夫と離婚。さらなるキャリアアップを、と思っていた矢先、現在のポストを見つけ日本にやってきた。 フランス式の教育を行う幼稚園に通う5歳の息子と、住み込みの学生ベビーシッターと3人で暮らす。

「なぜ」をきちんと言葉で伝える

「とにかく話して、ちゃんと説明する。それってじつはとても大切なことだと思うの」

話を聞くなかで、彼女にそう言われてハッとした。

ただ「今日は遅くなるから」と言うのと、「なぜ遅くなるのか」を伝えるのでは、子供の理解がまるで違う。彼女の場合、いつだって「なぜ」を説明することで、息子に理解して貰おうとしてきた。

仕事柄、イベントも多く、平日は遅く帰る日も少なくない。 「いま、自分はどんな仕事をしていて、なぜ仕事が遅くなるのか。夜、外食するなら誰と食べるのか。 すべて説明するようにしています」

そのうえで、ときに息子を職場に連れてきて、仕事仲間に会わせたりもする。すると、子供は母親の"仕事の世界"をイメージできるようになるという。

シングルマザーだからこそ、「なぜ働いているのか」もきちんと伝える。仕事をしなければヴァカンスにも行けないこと、楽しい体験ができるのもすべて自分が働いているから、ということ――。息子と向き合い、すべて言葉で説明するのだという。

帰宅したら「すべて一緒に」

帰宅したら「すべて一緒に」

多忙な毎日だからこそ、自分に課していることもある。普段は学生ベビーシッターが18時にバス停まで子供を迎えに行き、風呂などを済ませ、シドニーの帰りを待つ。だが、一週間に一度は必ず、自らこのバス停に迎えに行く。スケジュールは完全にブロック。たいていの場合、それはイベントなどが少ない月曜日だ。

そして、2人で過ごす時間は「すべて一緒に」と決めている。 「私が料理をしている間に、自分だけ部屋に閉じこもっているなんてダメよ、と息子には伝えています。食事の準備も片付けも、なんでも一緒にやるんです」

テレビはつけない。テレビをつけるのは、映画を観る時、見たい番組がある時など、明確な目的がある時だけだ。

朝、別れ際にはぎゅっと抱きしめ、家に戻ったらまた力強く抱きしめる。これもまた、毎日、彼女が意識して行っていること。抱きしめることなく息子と別れてしまった日は、心に引っ掛かって、仕事もうまくいかない気さえする。曰く「フランス人の方がこうした肌の触れ合いは多いかもしれませんね」。

「お母さんが幸せなら、子供も幸せ」

「お母さんが幸せなら、子供も幸せ」

シドニーは、自分のキャリアを語るとき「充実感」「自己実現」という言葉を使う。「仕事をしていなければ、こんなに幸せでいられないかも」とも。

では、子供との時間が少ないことに後ろめたさを感じることはない? そう尋ねると、「時々はあるわよ」という答えが返ってきた。「寂しい。もっと一緒にいて」と言われたら、どうしようもなく胸が痛くなる。

そんな時はどうするのだろう? 「エゴイスト的な考え方だけど」と前置きしたうえで、彼女はこんな言葉を口にした。 「『10年後、息子はきっと恋人と一緒にいる。そんな時、自分はいったい何をしてどんな人間でいられるだろう?』。そう自分に問いかけるようにしています」

まったく後ろめたさを感じずに両立している人なんて、きっといない。でも、ちょっとした工夫があれば、精神的な結びつきは強いものになり、互いへの信頼感を高めることにも繋がる。

「お母さんが幸せに感じていれば、子供も幸せなのだと思う」

そうシドニーは言う。

もう一つ。彼女が仕事と家庭をうまく両立できる秘訣は、先の学生ベビーシッターの存在にある。

フランス人女性たちは、なぜ"他人の手"を借りるのがうまいのか。「後編」では、その秘密に迫る。

文:古谷ゆう子

※文中敬称略、写真はイメージ

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