現代中国には、「半辺天」という言葉がある。「女性が世界の半分を支えている」という意味だ。この考え方が浸透しているのか、さまざまな世代の女性たちに共通していたのは「仕事をしない選択肢なんて考えたことすらない」「友人にも専業主婦をしている人はいない」ということだ。
「1人分の給与では家計を支えられない」という経済的な理由もあるが、 男性が家事にかかわることへのハードルも、日本に比べるとずっと低い。 仕事と家庭の両立に大きくかかわってくるのはむしろ、生活環境をどう整えるか、なのだ。
1967年生まれのホワン・ウェンウェイは、子供時代や自らの子育て時代を通して、 職住近接で切り抜けてきたという。
「大変だと思ったことはないんですよ」
ホワンの母親は地方都市の小学校教師だった。当時は、学校職員は学校内にある住宅を支給されていた。小学校にあがるまでのホワンは、主に学校内で遊んですごしたが、親だけではなくコミュニティ全体で助け合う中で育ったという。 90年代はじめにホワン自身が就職し、家庭を持った際も、 住居は職場とほぼ同じ場所にあったため、不自由は感じなかった。
その後、子供が5歳のときにホワンは日本に留学し、就職。 夫と子供を呼び寄せて日本で一緒に暮らすようになった後も、 片道30分ほどで行き来できるなるべく近い場所に家を探して切り抜けた。
一方、北京の大学で教師として働く1976年生まれのチェン・ヤンのケースは、 現代中国ではホワンより一般的かもしれない。彼女は、 メディアで働く多忙な夫とともに2人の子供を育てている。
チェンは最初の出産にあたって、故郷の両親を呼び寄せて同居する道を選んだ。
「中国の幼児保育施設は、子供が自分で自分のことができた上で、 意思表示できるようにならないと預かってくれないのです」
子供が小さい間、ベビーシッターや家事代行を頼んでしのぐ方法もある。 チェンによれば、ベビーシッターを頼むとすると住み込みで雇うことが多く、 費用は月5000〜6000人民元(約8万円)程度。短時間だけ頼む家事代行では、 1日4時間で100人民元、月2500人民元ほどになる。
統計によれば、現在の北京の平均月収は約8700人民元。 その程度の収入があれば、どちらの費用も払えなくはないが、 容易に受け入れられる額でもない。
中国では定年の年齢は、少し前までは女性が50歳(現在はほぼ55歳)、 男性が60歳で、それ以降は暇を持て余す人も少なくない。 それに、チェンの世代はほとんどが一人っ子だ。
「親たちも、ずっと2人だけというのも寂しいでしょうし」
それもあって、子供の面倒は親に託したほうが経済的にも心理的にも 安心だと考えるケースは多い。時には、親を呼び寄せるのではなく 就学前だけ子供を親に預けるという人すらいる。
ただし、チェンより下の世代では、また考え方ががらりと変わりつつある。 何より、「当然のように結婚して子供を産んだ」というホワンらの世代に対し、 若い世代ほど「結婚しなくてもいい」「子供は産まなくてもいい」という人が増えている。 結婚や出産、子育てよりも、自己実現こそが自分にとって重要だと考えるようになっている。
1983年生まれのジャオ・ホイも、いまのところ結婚の予定はないと話す。 ただ、子育てに関しては考えていることがある。
「やっぱり子供は自分で育てたいですね。昼食の世話や学校の送り迎えは親に頼めても、 しつけは任せられない」
もちろん専業主婦になるつもりはない。だから、 子育ての間は仕事をしながら子供をみられる環境づくりをするつもりだという。
「私たちの世代がいちばん気にかけているのは、いかに子供を『熊孩子(シュンハイズ)』 にしないかってことなんです」
「熊孩子」というのは、腕白で言うことをきかない、手の付けられない子供、 というような意味だ。地下鉄やバスの中、ショッピングモールなどで大声をあげたり、 暴れたり。インターネット上ではいま、しばしばこの「熊孩子」が話題になる。
「親たちに任せると、孫かわいさに甘やかして『熊孩子』になるのは目に見えています。 だから、どうしても自分で育てたい」
中国ではキャリアアップのためにも転職はごく普通のこと。 実力があると示すことができれば、ブランクがあっても仕事に戻ることは難しくない。 中国の女性たちにとって、ライフステージによって働き方を変えることができるのは、 大きな強みだといえるだろう。
文:森裕子
※文中敬称略、写真はイメージ
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