フランスの家庭を訪れると、femme de ménage(ファム・ド・メナージュ)と呼ばれる、いわゆる"お手伝いさん"に出くわすことがある。週に一度、3時間ほど来て貰って、まとめてアイロンをかけて貰ったり、掃除機をかけて貰ったり。夕飯づくりなどは夫と協力しながらこなせたとしても、優先順位の低い"+αの家事"がなかなか追いつかない。それらをまとめ、お願いしてしまうのだ。
時給換算で支払い、クリスマスなどのイベントの際に、日々の感謝の気持ちとしてプレゼントを贈る。 信頼のおける人に、何年も続けてお願いすることも。家族の一員のような存在ではあるが、住み込みではない。 お手伝いをする側の女性も、いくつもの家庭を掛け持ちする。
3人兄弟で、両親が共働きだった日本で暮らすフランス人男性は、こう話す。 「外に仕事があり、家のなかでもやらなければいけないことが山のようにある。それらすべてを片付け、 うまく回していくのは時間的にも難しい。他人の手を借りるほかない、という考えなんです」
週に何時間、と決めて依頼することもあれば、週末に家族が集まりお祝い事などをする場合に手助けに来て貰うことも。 キャパシティを越えてしまう。ならば、人に手伝って貰うしかない――。 とてもロジカルな考え方であり、そこに「自分の手で家事を行えない」ことへの後ろめたさや抵抗感は皆無だ。
フィリピン人女性に、週3時間だけ
そして、それは30、40代の若い家族にもとても一般的、と前出の男性は言う。フランスの日刊紙「フィガロ」によると、フランス国内でファム・ド・メナージュを雇った場合の平均時給は9.82ユーロ(約1200円)。エージェントを通すこともあれば、知り合いの紹介で見つけることも。手伝って欲しい内容と、予算を決め、自分にとって現実的な範囲で家事を外注するのだ。
これはフランスに限った話ではない。 例えば、ロンドンの金融機関などで働く女性たちも、パートタイムとして働き収入を減らすよりも、 フルタイムで働くことを選び、家事はアウトソーシングすることを選ぶ傾向にあるという。 なかには、オランダのように「なるべく家事は自分の手で」と考える傾向にある国もあるが、 他人の手を借りることは、両立するうえでのアイデアの一つと言えそうだ。
フランスで暮らしていた時と同じように、日本でもヘルパーの手を借りながら仕事と家庭を両立している女性もいる。 第8回目に登場した日本で暮らすディアンヌは、フィリピン人女性に週1回、3時間ほど家事を依頼している。 彼女はフランスに居た頃も、週2時間ほどヘルパーの手を借りていたという。
ディアンヌがお願いしているのは、同じく日本で暮らすフランス人女性の紹介で知り合った、日本在住20年、5人の子供を持つ60代のフィリピン人女性。子育て経験という意味では"大先輩"だ。 家事を中心にお願いしているが、その延長で、少しの時間2人の子供の面倒をみて貰うこともある。子供たちとは、片言の日本語で充分コミュニケーションを取れるのだとか。 「住み込みで、いつも家に居られるよりも、週に数時間来て貰うくらいがちょうどいいんです」
エージェントを通すと、それだけ支払う金額も大きくなってしまうが、 知人の紹介であれば相手について深く知ることができるうえ、個人間で直接契約することができる。
両立するうえで、タスクが増えてしまうのは当然のこと。自分でできることには精一杯力を注ぎ、 他人に任せられるところは思い切って頼ってみる。週2、3時間だけ。それだけでも、 日々の生活にリズムがつき、精神的なゆとりが生まれるのかもしれない。
文:古谷ゆう子
※文中敬称略、写真はイメージ
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