産後、半年経たないうちに仕事復帰する女性が多いフランス。では、男性にとってはどんな父親が「理想」とされているのか。日本で暮らすフランス人男性に聞いた。
「フランスでは、どんなに忙しいお父さんでも子供が起きている時間に家に戻り、必ず一緒に夕食を食べますね。なぜなら、親自身が毎日子供たちと過ごしたい、顔を見たいと思っているからです」
オーガニックのベビー用品を扱うオンラインショップ「テール・ド・シゴーニュ」を経営するフィリップ・フリッチは、日本人の妻と二人の子供たちと東京で暮らす。 妻は、産後数ヶ月で仕事復帰。以来、二人三脚で家庭と仕事を両立させている。
時間を減らすのではなく、自分なりの働き方を
毎日、子供たちの顔を見ること。毎日、子供たちの顔を見ることができるよう、努力すること。それこそが大切なことなのではないか、とフィリップは言う。 「フランス人のなかにも、忙しく働いている人はいますが、みな働く時間を減らすのではなく、 少し違う働き方ができないか、と考えているようです。たとえば、朝は人より早めに着いて、夜も早めに帰る。 妻が少し遅くなる日は夫が少しでも早く家に帰れるようにする。そうやって"解決策"を見つけようとするのです」
自分なりの働き方で、なるべく早く家に帰れるよう、努力する。 周囲もその気持ちは理解できる。だから、家族との時間を持とうと工夫している人が 職場で白い目で見られることもないのだという。
平日の夕飯、週末、夏のヴァカンス......。これらは、「家族で過ごす時間」として、フィリップの口から何度となく出て来たワードだ。
何より大切なのは、みなでテーブルを囲む時間であり、その日にあったことをとにかく話す。世の中で起きていることは、子供たちにも分かるよう説明する。 「学校に行けば子供たちの世界がある。でも、家に帰れば必ず両親がいる。 それぞれの場所で違うことを学ぶわけですが、その両方が必要なことなのだと思う。 毎日、両親の顔を見るということは、子供たちにとっても大切なことなのだと思うのです」
「父親の役割」と「母親の役割」は変わらない
フィリップは常に「両親」という言葉を使う。そこには、父親と母親の役割に差はないという考えがあり、 少なくとも「役割は変わらないと信じ、そのように努めている」と話す。
実際、フランスでは朝、幼稚園に送り届ける父親の姿を多く目にする。時に、母親よりも多いのではないか、と感じるほど。そういえば、連載第2回目で取材した女性も、こんな言葉を口にしていた。 「フランスでは、男性が仕事のペースを緩やかにし、女性が中心になって稼ぐ、というカップルもいる。 それは驚くことでもショックなことでもないのです」
フィリップも、「子供たちの送り迎えをし、食事をつくり、食器を片付ける」という一連の家事や子育ては、夫婦どちらもできるようにしているという。 「相手に任せて、自分はどうしたら良いのか分からない、ということはないですね」
ともに仕事を持ち、ともに大切な家庭がある、ということは言い換えれば「二人とも同じ世界を生きている」 ということ。いま、自分は何が気になっていて、どんな心配事があるのかを、同じ目線で話し合い、 共有することができるはずなのだ。
とはいえ、フランスの家庭もいつもいつも順風満帆なわけではない。 フランスの都市部の離婚率は約50%と言われるほど、高い。これは、今回取材した多くの人が口にしていたことだ。
だが、思い描く理想に向け努力をし、働き方も柔軟に。 どんな些細なことも話し合い、解決策を見つけ出す。 そんなシンプルな考えは、うまく両立させるためのヒントにはなりそうだ。
文:古谷ゆう子
※文中敬称略、写真はイメージ
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