安藤哲也
出版社、IT企業など9回の転職を経て、2006年にNPO法人ファザーリング・ジャパンを設立。「笑っている父親を増やしたい」と、講演や企業向けセミナー、絵本の読み聞かせなどで全国を歩く。最近は管理職養成事業の「イクボス」で企業・自治体の研修も多い。厚生労働省「イクメンプロジェクト推進チーム」顧問、にっぽん子育て応援団共同代表等も務める。著書に『パパの極意〜仕事も育児も楽しむ生き方』(NHK出版)、『できるリーダーはなぜメールが短いのか』(青春出版)など多数。3児の父親。
iction!の取り組み 、 家事・育児 、 お悩み相談
2019年07月29日
何気ない夫婦の会話なのに、ふとしたきっかけで"すれちがい"が発生すること、ありませんか? そこで、「夫婦すれちがい会話相談室」では、実際の会話と相談内容を元に、専門家が会話のポイントをアドバイス! 今回のアドバイザーは、NPO法人ファザーリング・ジャパンを立ち上げ、イクメンプロジェクト推進チーム顧問(厚生労働省)、男女共同参画推進連絡会議委員(内閣府)などを歴任、3児の父親でもある安藤パパこと安藤哲也氏。全国のパパたちからの熱い期待に応え、年間250回以上もの講演に飛び回る安藤パパから、夫婦と家族を笑顔にするための真髄を伺います。
ねえ、これ、よく見て買ってくれた?
何でもいいって言うから、適当に選んだんだよ。
いつもうちの冷蔵庫にあるものと違うって、わかんないかな?
冷蔵庫の中身なんて、いちいち確認してないよ。
たまにご飯つくってくれたら、わかるんだけどな。
洗い物は手伝うから、料理はかんべんしてよ。
このお野菜だって高かったでしょ。うちの子食べないよ。どうしてわざわざ選ぶかなあ。
だからさ、普段スーパー行ってないし、値段だって種類だってわかんないよ。
【相談内容】
私の帰りが遅くなるとき、夫に食材の買い出しを頼みます。いつもの食事や冷蔵庫の中身を見ていればわかるはずなのに、買ってくるものはいつもトンチンカン。料理も手伝おうとしません。せめて子どもの好き嫌いを把握して、買い出しのスキルを上げてもらいたいのですが、どう伝えたらよいのでしょう?(会社員妻)
旦那さんは、男性が台所に立たないようなご家庭で育ち、ほとんど料理を手伝ったことがないのかもしれませんね。独身で付き合っていた頃は、あなたに気遣ってくれて、そういうことはわからなかったのでしょう。でも、今更そのことを言ってもしょうがありませんよね。
僕が講演に行っても、夫婦間のコミュニケーションについては、いつも質問を受けます。みんな即効性のある裏技を求めるんだけど、はっきり言って、裏技なんてありません。家族といるその場がハッピーになるか、家族を笑顔にできるかを考えて行動することが、すべての基準。家族が笑顔なら楽しくなるし、自分だって楽になります。
僕だって、フルタイムで働く妻が、仕事と家事と育児で疲れてイライラするより、彼女が笑顔で過ごしてくれたほうが、楽しいし楽になる。「楽しいと楽」はどちらも同じ漢字でしょ。同じことなんです。そのことを忘れずに、2ステップでいきましょう。
まずは感謝の言葉から始めてみませんか。スーパーで買い物をしたくないと言うパパは、僕の周りにも多いですよ。それを買ってきてくれるのですから、「これもあれも違う」という否定から入らず、まず「買ってきてくれてありがとう」と感謝をして、それから次に指導です。「いつもあるんだからわかるでしょ」のような言い方をしてしまっては、旦那さんはカチンときてしまいます。たいていのパパは、ママから否定されたり、叱られたりするのが嫌だから、言うことをきかなくなるし、だからまた叱られる、という悪循環を繰り返してしまうんです。まず感謝の言葉から入って、聞く耳を持ってもらいましょう。
ただ、言うことをきいてもらうためには、あなたが叱るより同性のパパから言ってもらったほうがいいと思います。パパ向け講座をママたちの団体が開催しても、パパたちは参加しないそうです。なぜなら、「参加してもどうせママたちに叱られる」と思っちゃうからなんですね。ファザーリング・ジャパンでは、現役パパが講師をしています。参加者であるパパの半数は、実はママが申し込んでいて、「パパ、行ってみたら」と誘導してるんです。ママから言っても変わらない。それなら「安藤パパの話を聞いて気づいてほしい」と思って申し込むのでしょう。全国を回って講演や講座を開催していますから、活用してみてください。
学生時代の部活でも同性の先輩だったり、会社では上司の言うことのほうがきくので、旦那さんがロールモデルとなるパパを見つけられることが一番の得策です。子育てや家事が上手いというわけではなく、旦那さんから見て、生き方がカッコいいと思えるような人を、味方につけられるといいですね。
そして、あなたから買い物を頼む時ですが、スマホで家の冷蔵庫内の写真を撮って、「これとこれがないから、買ってきてもらいたいんだけど」と、画像をちょっと加工してみて送るのはどうでしょう。男性には、曖昧な指示ではなく、視覚化して具体的に伝えた方がいいと思います。
うちの場合、台所は妻が自分のテリトリーとして、彼女なりのこだわりを持っているので、僕が料理をやりすぎることをあまり好まないんです。主な食材は妻が生協に注文したり買ってきたりするけど、調味料、ビール、飲料、米なんかは僕が買いますね。重たいですから。昨日の夜もビールを飲む時、最後の一本だと気付いたので、今日は買わなくちゃとか、冷蔵庫の麦茶が切れてるなとか、トイレットペーパーがなくなりそうだから、買って帰ろうと、さっき思ってたところ(笑)。つまみの枝豆と、ついでに食パンも。だけど、それは妻も買って来る可能性があるので、「枝豆とパンは買ったよ」とだけLINEで送る。そうすればダブって買うことは避けられます。フルタイム勤務の妻より、僕の方が平日は時間を取れることが多いので、気づいた物は買っておきます。息子のTシャツなんかも買います。
そんなふうに、今は僕も家の買い出しができているけれど、以前は妻から色々と言われてましたよ。仕事帰りの彼女に重たいものを買わせるとイライラするから、僕が買ったほうがいいんだなとか、週の前半は夕飯を作ってもらって、後半に疲れてくるから、妻の状態を見て外食に誘った方がいいなとか、年月をかけてだんだんと学習を重ねて、今のスタイルになってきたので、時間をかけながら、話し合いながら、ご夫婦のやり方を見つけていくことだと思います。
次に、旦那さんとファイナンシャルの話をしてみることをお勧めします。具体的にご夫婦の収入はいくらあって、生活費はどのくらい必要か。教育費の積立や家のローンを返済していくなら、共働きでこの後どれだけ稼ぐ必要があるのか。ちゃんと計算してお金の話をすれば、そのためにママもしっかり働く必要があると数字でわかるし、パパも育児家事をシェアリングしなければやっていけないと理解できます。そして、目の前のことを顕微鏡的視点で見るのではなく、長期的な望遠鏡的視点で、子育て後の老後を含めて、お互いがどうなりたいのか、時間を作って話し合ってみることです。
家計の心配がいらないくらいパパがたくさん稼いでくれていたらいいですが、ほとんどの家庭はそうではありませんよね。我が家も僕が79歳まで家のローンを組んでるから、それまで働き続けなきゃならないし、妻も定年退職が伸びることを想定して、今の会社であと20年くらい働き続けてもらわないとならない。彼女が家事と仕事の両立に不満を溜めて「仕事を辞めたい」って言い出すのが一番怖いですよ(笑)。だから笑顔でいてもらえるよう、僕も最大限フォローするんです。
夫婦でチーム家事、チーム育児を組み、パパが家族を育てる家族形成力をつけることはとても大事なことです。パパには、家庭内で育児家事のマネジメントができる「イクボス」になってもらうことを目指しましょう!
もう少し家族の食事に目を向けてみませんか。せめて子どもの好き嫌いは把握しましょうよ。男って、自分でやってみて初めて家事の大変さに気付くんですよね。僕たちのセミナーに参加したパパたちは、「手伝っていたつもりだったけど、そうじゃなかったと気付きました。全く妻のケアはできていませんでした」って言いますよ。「だよね、じゃあ今日、帰ったらどうする?」ときくと、「家に帰ったら妻に感謝します」って言います。奥さんに日頃の感謝の気持ちを伝えてみましょう。
今や、日本人の2人に1人は癌になる時代。奥さんがいつまでも元気で、買い物も料理も全部やってくれるとは限りませんよね。子どもが小さいうちに、もし奥さんが病気で倒れでもしたら、親に頼むか、実家が遠ければ、民間の家事代行に頼まなければなりません。パパが料理できないというのは、リスクが高すぎます。
ファザーリング・ジャパンでは、父親が家族との食事の回数を増やそうという「トモショク・プロジェクト」に取り組んでいます。料理が苦手なパパでもできる「パパご飯教室」も開いています。一般の料理教室よりずっと敷居は低いですから、そのような所にも足を運んでみてはいかがでしょう。
プロフィール
安藤哲也
出版社、IT企業など9回の転職を経て、2006年にNPO法人ファザーリング・ジャパンを設立。「笑っている父親を増やしたい」と、講演や企業向けセミナー、絵本の読み聞かせなどで全国を歩く。最近は管理職養成事業の「イクボス」で企業・自治体の研修も多い。厚生労働省「イクメンプロジェクト推進チーム」顧問、にっぽん子育て応援団共同代表等も務める。著書に『パパの極意〜仕事も育児も楽しむ生き方』(NHK出版)、『できるリーダーはなぜメールが短いのか』(青春出版)など多数。3児の父親。
【夫婦すれちがい会話相談室】
アドバイザー:『伝え方が9割』の著者 佐々木圭一氏
アドバイザー:映画『うまれる』『ずっと、いっしょ』の監督 豪田トモ氏
アドバイザー:NPO法人子育て学協会会長 山本直美氏
アドバイザー:NPO法人ファザーリング・ジャパンの元祖イクボス 安藤哲也氏